PMF(プロダクトマーケットフィット)とは?達成までの手順を解説

PMF(プロダクトマーケットフィット)とは?

product market fit

PMF(プロダクトマーケットフィット)とは、「Product Market Fit」の頭文字を取った言葉であり、直訳すると「製品(サービスや商品)が特定の市場において適合している状態」のことです。言い換えると「カスタマー(顧客)の課題を満足させる製品を提供し、それが適切な市場に受け入れられている状態」をさします。

PMFの考え方はアメリカのソフトウェア開発者であり投資家のマーク・アンドリーセン氏によって広められ、現在ではスタートアップの成否を左右する要素として多くの起業家に認知されています。

PMFの考え方によると、スタートアップを成功させるうえで「カスタマーの課題を満足させる製品」と「適切な市場の選択および受け入れられていること」の両方が揃っていることが重要です。いずれかの要素が欠けていると、スタートアップは成功しにくいと考えれられています。

なぜなら、いずれかの要素が欠けた状態のままで製品の販売規模を拡大すると、その製品を受け入れてくれるカスタマーを得られずに、やがて人材や資金が尽きてしまいスタートアップの失敗につながる可能性が高いためです。

PMFの達成を測る基準

PMFの達成を測る際に用いられる基準は、主に以下のとおりです。

  • Product/Market Fit Survey
  • NPS
  • リテンションカーブ

それぞれの基準の概要を順番に紹介します。

Product/Market Fit Survey

起業家のショーン・エリス氏により考案された調査であり、PMFの状態を定量的に把握するために実施されます。調査の方法は非常にシンプルであり、カスタマーに「もしも、その製品が使えなくなったらどう思いますか?」という質問を投げかけて、「非常に残念」「やや残念」「残念ではない」「該当しない(製品を使用していない)」の4つの選択肢から回答してもらいます。

この質問に対して、調査対象のうち40%以上が「非常に残念」と回答した場合、その製品は今後も継続してカスタマーを獲得できると判断され、PMFを達成している可能性があると考えられます。

NPS

これは、「Net Promoter Score(ネットプロモータースコア)の頭文字を取った言葉であり、カスタマーのロイヤリティ(愛着)を計測するための指標です。NPSと類似する指標に「顧客満足度」がありますが、両者の主な相違点としては「業績との相関性」が挙げられます。NPSスコアの方が、顧客満足度に比べて業績との相関性が高いです。

NPSでは、カスタマーに「その企業および製品を友人や同僚に薦める可能性はどの程度ありますか?」という質問を投げかけて、0~10の11段階で回答してもらいます。その回答をもとに「0~6:批判者」「7~8:中立者」「9~10:推奨者」として、推奨者の割合から批判者の割合を差し引いた数値がNPSのスコアです。

主な業界ごとのNPSスコアの平均値を、以下の表にまとめました。

業界・部門名 NPSスコアの平均値
銀行 -49.1pt
ダイレクト型自動車保険 -27.8pt
代理店型自動車保険 -47.5pt
クレジットカード -40.6pt
電力 -46.4pt
生命保険 -49.1pt

出典: NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション「NPS®業界別ランキング&アワード」

なお、グローバルなインターネット企業(FacebookやAmazonなど)を中心に、明らかにPMFを達成しているにもかかわらずNPSスコアの低い企業も見られることから、NPSはPMFの達成を測る基準として適切ではないと考える意見もあります。

リテンションカーブ

リテンションカーブ

リテンションとは維持や保持などの意味を持つ言葉ですが、マーケティング分野においては、提供している製品がどれくらいのカスタマーに継続して使用されているかを示す指標として用いられています。

ここでいうリテンションカーブとは、リテンション率を縦軸、製品のリリースからの期間を横軸に設定したグラフのことです。このグラフがリリース以降に横ばいの状態(上図の横ばいカーブ)になれば、その製品はPMFを達成している可能性があると判断されます。

一方、PMFを達成できない製品のリテンションカーブは下降を続け(上図の下降カーブ)、最終的にユーザー数がごくわずかとなり、ゼロになる可能性もあります。

PMFを達成するための手順

PMFを達成するための手順

一般的に、PMFの達成を目指すためには、前提として以下のような手順を踏んだうえで、PSF(詳細は後述)の状態に到達している必要があります。

  • スタートアップのアイデア(課題)としてふさわしいか検証する
  • スタートアップの考える課題とカスタマーの抱える課題が一致しているか確認する
  • 課題の解決策を検証する

本章では、PSFの状態に到達している段階にあるスタートアップを想定し、PMFを達成するために行う手順を以下の順番で取り上げます。

  1. MVPを構築する
  2. MVPをカスタマーに使ってもらう
  3. MVPの評価を計測
  4. 改善を繰り返す

それぞれの手順を詳しく紹介します。

MVPを構築する

はじめに、PSFへの到達までに得た学びをもとに、MVPを構築します。MVP(Minimum Viable Product:ミニマムバイアブルプロダクト)とは、直訳すると「実用最小限の製品」のことです。

MVPは、ただ単に機能が少ない製品であれば良いというわけではありません。あくまでもカスタマーに感動を与えられるような、競合には見られない価値提案を実際に試せる製品であり、そのうえで機能が最小限に絞られていることが望ましいです。

例えば、自動車のような製品の開発を目指している場合、「車輪」ではなく「スケートボード」のような製品がMVPになると推定されます。

なお、MVPは、一般的に以下の6タイプに分けられます。

MVPのタイプ 概要
ランディングページMVP 1つのランディングページ(検索結果や広告などを経由して訪問者が最初にアクセスするページ)をMVPとするタイプ
オーディエンス開発型MVP 将来的なカスタマーを含むコミュニティに創業者自身が出向き、製品づくりとカスタマーの育成を行っていくタイプ
コンシェルジュMVP 創業者およびチームメンバー自身が、ホテルのコンシェルジュのように何でもこなすタイプ
動画MVP 製品の機能を紹介する動画を作り、カスタマーから事前申し込みを受け付けるタイプ
ピースミールMVP MVPをゼロから構築するのではなく、すでに存在する複数のプラットフォームを融合させて1つの製品のように構築するタイプ
ツールMVP 検討している製品の目玉機能の1つを単体のツールとして提供するタイプ

MVPをカスタマーに使ってもらう

次に、構築したMVPを市場に投入し、カスタマーに使ってもらいます。MVPを市場に投入した後は、カスタマーの反応を見ながら製品の機能を徐々に増やしつつ、最終的な製品の投入を目指すという流れです。

MVPの評価を計測

続いて、MVPを使っているカスタマーからの評価を計測します。そのためには、まずカスタマーの反応を集めなければなりません。このときは、ウェブ分析ツールやアンケートに頼るのではなく、直接的な対話を通じてカスタマーの生の声を集めることが望ましいです。

安易にウェブ分析ツールに頼ってしまうと、カスタマーの定性的な(数値化できない)意見を拾い上げられないおそれがあります。また、アンケートを活用する際は設問を考えるのが非常に難しく、設問者が結果を予測して設問を作ってしまいやすいため、カスタマーの持つ本当の意見を拾い上げられないおそれがあります。こうした理由から、カスタマーのもとに直接足を運び、対話を通じて生の声を集めると良いでしょう。

上記のプロセスでカスタマーの反応を集めたら、これを分析してMVPの評価を計測します。このときの分析方法にはさまざまな種類が存在しますが、この記事では定性分析の方法として「カスタマーインタビュー」、定量分析の方法として「AARRR指標」を用いるケースを取り上げます。

カスタマーインタビューによる定性分析

カスタマーインタビューとは、カスタマーがどのようにMVPに触れて、何を感じたのかを分析するための方法です。具体的には、以下のような質問をカスタマーに投げかけます。

  • この製品を使用して価値を感じましたか?
  • 特に価値を感じた3つの機能は何ですか?
  • なぜ、これらの機能に価値を感じたのだと思いますか?
  • 使用しなかった機能や、価値を感じられなかった機能は何ですか?
  • なぜ、これらの機能に価値を感じなかったのだと思いますか?
  • この製品を、家族や友人などに薦めたいと思いますか?

カスタマーインタビューを行う際は、MVPを使用して良かった点ばかりを聞き出すのではなく、不満や要望などのネガティブな意見を重点的に聞き出すことが大切です。これにより、作り手側では気がつかないカスタマーの立場から、新たな改善点を見つけられる可能性があります。

AARRR指標による定量分析

aarrr

AARRR指標とは、シリコンバレーのベンチャーキャピタル「500 Startups」の創業者であるデーブ・マクルーア氏によって考案された指標です。「AARRR(アー)」という呼称が海賊の叫び声に類似していることから、海賊指標とも呼ばれています。

AARRR指標では、MVPの提供を通じた「カスタマーの獲得」から「収益の発生」までを5段階に分けて、各段階のカスタマー数を計測します。各段階の概要は、以下のとおりです。

  • Acquisition(カスタマーの獲得)
  • Activation(利用の開始)
  • Retention(利用の継続)
  • Referral(他者への紹介)
  • Revenue(購入、収益の発生)

これら5段階の数値を計測したうえで、次の段階に推移するカスタマーの割合を算出することで、これまで行ってきたMVPに関する改善効果がわかりやすくなります。

なお、上記の5段階のうち「Activation(利用の開始)」「Retention(利用の継続)」「Revenue(購入、収益の発生)」の3つの指標が高いスタートアップほど、カスタマーが欲しがるMVPを提供できている状態にある可能性が高いと考えられています。

改善を繰り返す

定性および定量分析によってMVPの評価を検証した結果、PMFを達成できなかった場合、これまでの手順を改善しながら繰り返し行うことで、MVPをPMFに近づけていきます。

2回目以降にMVPの構築や市場への投入、評価の計測を行う際も、1回目のときと同じ方法を採用するのが基本です。ただし、2回目以降は、カスタマーの反応を定量分析する際、これまで行った分析結果と比べて数値的な改善が見られるかどうか確認することが大切です。

PMFの前にPSF(プロブレムソリューションフィット)

PMFの前にPSF(プロブレムソリューションフィット)

PMFの達成を目指すには、その前段階であるPSFへの到達が必要不可欠です。PSF(プロブレムソリューションフィット)とは、「Problem Solution Fit」の頭文字を取った言葉であり、「想定するカスタマーの課題と、その解決策が合致している状態」のことです。

PSFに到達するためには、一般的に以下の手順を踏む必要があると考えられています。

  1. 課題を解決するプロトタイプを作る
  2. 課題が解決可能かどうか見極める
  3. フィードバックを基にブラッシュアップ

それぞれの手順を順番に紹介します。

課題を解決するプロトタイプを作る

はじめに、カスタマーの課題を解決するプロトタイプ(試作品)を作ります。その際は、まずカスタマーとの対話(ソリューションインタビュー)を行い、プロトタイプに実装する機能を厳選しておくことが望ましいです。

なぜなら、機能を厳選せずに「あったら良い」程度の機能までもプロトタイプに実装してしまうと、課題を解決するために「必須」となる機能がカスタマーに本当に受け入れられているのかを判断しにくくなるためです。

ソリューションインタビューで実装する機能を厳選

魔法のランプ

ソリューションインタビューでは、実装を検討する機能のうち、カスタマーが最も重要と考えている機能の見極めを図ります。このときには、カスタマーに具体的な解決策を示さずに想像から本音を引き出す、「魔法のランプ」と呼ばれるインタビュー法の活用が1つの有効策です。

例えば、以下のような質問をカスタマーに対して投げかけます。

  • 何でもできる魔法のランプを入手したら、自分の目的達成のために何をしますか?
  • その魔法のランプに備わっていなければならない機能は何ですか?
  • その魔法のランプに最も近い解決策や製品は何ですか?
  • その解決策や製品の良い点と不満な点は何ですか?
  • あなたは魔法のランプに対して、どれほどの予算を確保できますか?
  • ここまでできれば感動する、というような製品のイメージを持っていますか?

インタビューの内容をもとに、実装を検討している機能に対して「必須」「あったら良い」「不要」の3段階で優先順位を付けます。また、インタビューによって実装を検討すべき新たな機能を発見した場合、これも追記し優先順位を付けておきます。そして、これらのうち「必須」の優先順位を付けた機能のみをプロトタイプに実装すると良いでしょう。

プロトタイプの設計図を作成

実装する機能を厳選したら、プロトタイプの設計図を作成します。手掛ける製品の種類によって、どのような設計図を作成すれば良いのか、どれほど実物の製品に近い設計図を作成すれば良いのかなどは異なります。とはいえ、誰が見ても「その製品で行えること」や「使い勝手」を容易にイメージできるような設計図を作成することが大切です。

具体例を挙げると、Webサービスやアプリを開発するスタートアップであれば、紙ベースの画面遷移図のようなものをプロトタイプの設計図として作成するケースが多く見られます。

ペーパープロト、ツールプロトの順番で作成

設計図を作成したら、これをもとにプロトタイプを作成します。プロトタイプには、設計図を実際の画面比率などに即して清書しただけの「ペーパープロト」や、実物に近い使い勝手を体験できる「ツールプロト」などの種類がありますが、PSFを目指すスタートアップでは最初にペーパープロトを作成すると良いでしょう。

なぜなら、ツールプロトでは実物を細部まで再現できるものの、作成に多くの手間や時間がかかってしまうためです。手間をかけずにスピード感を持ってプロトタイプを作成するためにも、まずはペーパープロトの作成から始めることが望ましいです。

とはいえ、ペーパープロトでは、実際の製品の動きを正確に再現することは不可能です。そこで、自身を含めたチームメンバー各々がペーパープロトを作成し、良いと感じられる案が固まってきた段階で、製品の動きをある程度再現できるツールプロトの作成に移行します。

ツールプロトを作成すれば、ペーパープロトでは気が付かなかった、操作感など調整すべき点の把握につながります。また、作成したツールプロトをもとにカスタマーにヒアリングを行った方が、実物の製品に近い状態のプロトタイプに対する意見をもらえるため、PSFを目指すうえで有益な情報を得られる可能性が高いです。

課題が解決可能かどうか見極める

ツールプロトができたら、実際にカスタマーに使用してもらい、「使い勝手の良さ」「使用して目的を達成するまでの快適さ」などを聞き出します。これをプロダクトインタビューといい、製品の使用により課題が解決できるかどうかを見極めるための重要なプロセスです。

プロダクトインタビューにおける質問内容の一例は、以下のとおりです。

  • このプロトタイプは何を行うものだと思いますか?
  • 今、あなたは何をしようとしていますか?
  • ◯◯◯という表示(文言)をどのように解釈しましたか?
  • このボタンを押すと、どのような画面に移ると思いますか?

そして、プロダクトインタビューの実施後は、以下の事項を確認すると良いでしょう。

  • 「今すぐにこのプロトタイプが欲しい」という反応は見られたか?
  • プロトタイプの使用時、カスタマーがつまずく場面はあったか?
  • カスタマーがそのプロトタイプを利用する理由について、明確に言語化できるか?

プロダクトインタビューで特に重要な目的は、上記の質問と確認を通じて「製品に初めて触れたときから課題を解決するまでの流れがスムーズであるかどうか」を検証することです。これに対して複数人のカスタマーから満足した旨の回答が得られれば、その製品はPSFに到達したと判断でき、その後はPMFの達成に向けてMVPの構築に着手していく流れです。

フィードバックを基にブラッシュアップ

プロダクトインタビューの結果、カスタマーの反応が悪かった場合は、カスタマーからのフィードバックを基にプロダクトをブラッシュアップし、PSFに近づけていきます。

なお、プロダクトインタビューの結果が非常に悪かった場合には、最初の「​​課題を解決するプロトタイプを作る」ステップからやり直す選択(軌道修正)も大切です。やり直しの手間は大きいものの、PMFの手順に進んでから軌道修正を図る場合に比べて、コストやリスクを軽減できます。

PSFについては以下記事でさらに詳しく解説していますので、より深く理解したい方はご覧ください。

PSF(プロブレムソリューションフィット)とは?PMFとの関係、手順、検証方法

スタートアップについては以下記事で解説しています。そもそも「スタートアップとはどういった組織なのか」を掴んでおくと、スタートアップでPMFが求められる背景がより理解できますので、ぜひご一読ください。

スタートアップとは?ベンチャーとの違いを解説【図解あり】

まとめ

PMFとは、カスタマーの課題を満足させる製品を提供し、それが適切な市場に受け入れられている状態をさします。PMFの考え方によると、スタートアップを成功させるには「カスタマーの課題を満足させる製品」と「適切な市場の選択および受け入れられていること」の両方が揃っていることが重要です。

PMFの達成を目指すためには、前提としてPSFの状態に到達している必要があります。そのうえで、MVPの構築や市場への投入、評価の計測を行いながら改善を繰り返して、PMFに近づけていきます。

なお、PSFに到達するには、課題を解決するプロトタイプを作ったうえで、インタビューを通じてカスタマーにヒアリングを行い、本当に課題が解決可能であるのかを見極めます。そして、カスタマーからのフィードバックを基にブラッシュアップすることで、PSFへの到達を図るのが一般的です。

参考:田所雅之「入門 起業の科学」日経PB社、2019年

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本記事を執筆している東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)は、東京大学の100%出資の下、投資、起業支援、キャリアパス支援の3つの活動を通じ、東京大学周辺のイノベーションエコシステム拡大を担う会社です。投資事業においては総額500億円規模のファンドを運営し、ディープテック系スタートアップを中心に約40社へ投資を行っています。

キャリアパス支援では創業期~成熟期まで、大学関連のテクノロジーシーズを持つスタートアップへの転職や副業に関心のある方とのマッチングを支援しており、独自のマッチングプラットフォーム「DEEPTECH DIVEを運営しています。

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