タイムマシン経営とは?意味や事例、有効性について解説

タイムマシン経営とは

タイムマシン経営とは

タイムマシン経営とは、海外(特に欧米)で成功した事業モデル・サービスを日本に持ち込み、いち早く展開する経営手法を意味します。

海外と日本の間には距離的な情報格差にもとづく数年間のタイムラグがあり、海外の最先端事業をコピーして日本で展開することで、タイムマシンで未来から事業アイデアを持ってきたかのように成功を目指せることから、この名称が付けられました。

タイムマシン経営の主な形式としては、「海外で成功しているサービスの日本法人を立ち上げるケース」や「事業モデルをコピーして、日本の顧客向けにアレンジするケース」などが挙げられます。

「タイムマシン経営」はソフトバンク孫正義氏が命名

タイムマシン経営の名付け親とされているソフトバンクの孫正義氏は、アメリカのインターネット事業の伸びをいち早く体感して、それを日本に持ち込み成功を収めています。

孫正義氏がタイムマシン経営に着手したのは、世界的にインターネットの利用が拡大を始めていた1990年代です。当時、孫正義氏はアメリカにてインターネット関連のスタートアップやベンチャーをメインターゲットに投資を行っていましたが、その中には創業から間もないYahoo!社(米)も含まれていたのです。

Yahoo!社に可能性を感じた孫正義氏は、1996年に同社と合弁で日本に「ヤフー」を設立します。その後も、インターネット関連企業を次々と設立し、出資した企業を次々に上場させるなど、タイムマシン経営による時間差を利用した結果として、ソフトバンクを世界的な大企業へと成長させました。

タイムマシン経営の事例

ここでは、孫正義氏のほかにタイムマシン経営を用いた有名な事例として、3件をピックアップし紹介します。

クラウドファンディング

新たな資金調達手法として知られる「クラウドファンディング」は、もともとアメリカで広まっていた事業モデルの1つです。この事業モデルはアメリカで成功した後、日本に持ち込まれて普及が進み、現在では「CAMPFIRE」「Makuake」「READYFOR」など、さまざまなサービスが誕生しています。

実際に、READYFORの代表取締役である米良はるか氏は、アメリカへの留学時にクラウドファンディングの事業モデルを知り、その後に同サービスを立ち上げています。

ロコンド

タイムマシン経営により成功を収めた事例の1つに、靴の通販サービス「ロコンド」が挙げられます。ロコンドは、アメリカの靴のネット通販会社「Zappos(ザッポス)」の事業モデルをモチーフに作られた企業として知られています。

Zapposは、「24時間365日の顧客対応」「送料・返品無料」「何度でも返品OK」「翌日配送可能」など、それまでの靴のECにあった常識を覆すサービスを提供していました。特にカスタマーサービスの質が非常に高い点が特徴的で、手厚いサービスに感動したという顧客の評価が多く残されています。

ロコンドは、Zapposの経営理念「幸せを配達すること」を日本に持ち込んで展開し、成功を収めています。

コンビニ

タイムマシン経営の手法そのものは、孫正義氏による命名以前から存在していました。比較的古い例として代表的なものは、コンビニエンスストアです。

コンビニエンスストアは、1920年代にアメリカ・テキサス州の氷販売店「サウスランドアイス」が食料品・日用品を販売したことで成功し、「セブンイレブン」へと名称を変更し全米に拡大したことから誕生しました。

イトーヨーカ堂がこの事業モデルをライセンス契約により日本に持ち込むことで、1973年に「ヨークセブン」を設立し、翌1974年には豊洲に一号店を出店しました。その後はアメリカ法人を買収し、現在は海外展開も行う世界最大規模の店舗数を誇るコンビニエンスストアチェーンに成長しています。

以上、タイムマシン経営の概要や成功事例を取り上げましたが、現代における有効性については慎重に判断すべきです。次章では、令和の時代におけるタイムマシン経営の有効性について解説します。

タイムマシン経営は令和でも有効か?

タイムマシン経営は令和でも有効か?

令和の時代において、タイムマシン経営の有効性を疑問視する意見が多く存在します。これは、スマートフォンやSNSの普及により容易に世界中の情報へアクセスできるようになり、日本で知られていない有望な事業モデルに出会うことが極めて困難になっているためです。

また、現代は情報が大量に溢れており、「信頼性の低い情報を鵜呑みにしない情報リテラシー」や、「玉石混交の中から金の卵を見つけ出す審美眼」などが求められています。

こうした状況下で、タイムマシン経営を効果的に活用するための施策の例を紹介します。

逆・タイムマシン経営

逆・タイムマシン経営論とは、高度成長期以降の近過去を調べることで、これらの時代のステレオタイプを取り除き、物事の本質を見極めることで、企業戦略や事業における大局観をつかむという方法論のことです。

一橋大学大学院の楠木 建教授によって提唱された理論であり、未来を先取りするのではなく、過去に遡るという意味合いを込めて「逆・タイムマシン経営」と名付けられています。

楠木 建教授は「過去の情報を今眺めてみると気付くことがある」という考えのもとで、新聞や雑誌などを10年間寝かせてから読むことを推奨しています。そうして歴史を辿ることで、経営の本質を見抜く力を養い、戦略構想のセンスやビジネスにおける大局観の錬成に役立つ新たな思考の型を身に付けることにつながると提唱しています。

欧米ではなく中国から学ぶ

今後は、東アジア地域(主に中国)を模範とするタイムマシン経営が加速していくと考える意見があります。

タイムマシン経営は対象となる海外と自国との間の情報格差が大きければ大きいほど成功しやすいとされていますが、現在はIT技術の進歩により欧米と日本の情報格差が小さくなっています。そのため、従来の欧米を規範としたタイムマシン経営では成功確率が低下してきており、欧米ではなく、他の地域とのタイムマシン経営を模索した方が良いという発想が生まれてきました。

そこで注目が集まっているのは、中国を始めとする東アジア地域を模範としたタイムマシン経営です。中国と日本では、距離的には極めて近くとも、心理的には遠さが見られると言われています。この点に目を付けて、東アジア地域との心理的な情報格差を利用し、同地域を模範とする経営手法を用いることで、日本企業の成長につなげられると考えられているのです。

文化の差は残る

IT技術や交通の発達により、国境を越えた交流が盛んになった現代では、タイムマシン経営を通じた海外の模倣のみで事業を推進していくのは困難です。しかし、こうした状況下でも、タイムマシン経営を活用できる可能性はあります。

例えば、経営手法や理論ではなく、海外の土地に馴染んでいるアイデアを日本に持ち込むという施策には、依然としてチャンスが残されています。日本の漫画やアニメなどはすでに海外でも大人気ですが、まだまだ知られていない作品も多く、情報格差が縮小した現代でも、文化の差が完全になくなったわけではないことがわかります。

そこで今後は、こうした文化の差を利用したタイムマシン経営の事例が見られると推測されています。

まとめ

タイムマシン経営とは、海外(特に欧米)で成功した事業モデル・サービスを日本に持ち込み、いち早く展開する経営手法を意味します。ソフトバンク孫正義氏により命名され、これまで多くの日本企業が取り入れており、さまざまな成功事例が報告されています。

とはいえ、令和の時代においては、情報格差の縮小を主な理由に掲げて、タイムマシン経営の有効性を疑問視する意見も少なくありません。こうした状況下で、タイムマシン経営を効果的に活用するために、「逆・タイムマシン経営」と「中国から学ぶ」という2つの施策が注目されています。

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