2021/12/22

株式会社Synspective登壇|東大IPC DEEPTECH DIVE Live! #10 「衛星データによる新しい未来創造」ハイライトレポート ※動画あり

株式会社Synspective登壇|東大IPC DEEP TECH DIVE Live! #10 「衛星データによる新しい未来創造」ハイライトレポート

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東大IPCのオンラインキャリアイベント「DEEPTECH DIVE LIVE!」第10回を2021年12月14日(火)に開催しました。このイベントは、キャリアコミュニティサービスDEEPTECH DIVEについて知っていただくために、東大IPCの支援するスタートアップ企業にご登壇いただき、業界の動向、起業エピソード、直近の募集職種などについてカジュアルにお話しいただくというものです。

今回は「衛星データによる新しい未来創造」をテーマに、衛星データ解析によるソリューション提供と小型SAR(合成開口レーダー)衛星の開発・運用を行う株式会社Synspectiveの秋山郁さん(執行役員、マーケティング&セールス部ゼネラルマネージャー)と、角屋暁史さん(マーケティング&セールス部マネージャー、浸水被害モニタリングサービス事業責任者)にご登場いただき、衛星を活用した既存事業の概要と今後のビジネスの可能性についてレクチャーいただきました。こちらの記事では、特に盛り上がった内容についてハイライトでお伝えします。

▼登壇者プロフィール(順不同)

秋山郁氏 株式会社Synspective執行役員 マーケティング&セールス部ゼネラルマネージャー

東京大学工学系研究科にて、エネルギーに関連する工学的・経済的評価を研究。サイエンス・技術を経営に活かす技術経営戦略学を専攻。その後、大手金融機関にて、中堅・大企業を対象として法人営業を経験後、エネルギー、化学、医薬品の投融資審査担当として、数億円から数千億円を超える案件の審査業務にも従事。全国の発電所の稼働を加味した各電力会社・各発電所の競争力・安定供給力評価シミュレーションを構築。2018年9月にSynspectiveへ参画。データサイエンティストとして入社。入社後は経営企画部門を兼務し事業拡大に向け多くの業務改革に携わる。2020年1月にカスタマーソリューションエンジニア・マネージャーとして顧客の課題発見から衛星データを活用したPoCを実施し、データによる判断を実務・実事業に実現させる。2021年5月にマーケティング&セールス部ゼネラルマネージャーに就任。

角屋暁史氏 株式会社Synspectiveマーケティング&セールス部マネージャー 浸水被害モニタリングサービス事業責任者

大手電機メーカーにて産業インフラ機器海外営業、米露駐在含む大型インフラPJマネジメント、コーポレート海外事業企画を経て、Big4コンサルティングファームでのリスクコンサルティング業務に従事。その後、医療メガベンチャーにおける新規サービスの立ち上げフェーズに参画、グループリーダー兼グループ会社執行役員として売上規模を5倍強に成長させる一翼を担う。2021年1月、Synspectiveに事業開発担当として参画。2021年4月からはマーケティング&セールス部マネージャーとしてサービスデリバリーとオペレーション体制の構築を主導すると共に浸水被害モニタリングサービス事業責任者としてプロダクトマネジメント全般にも携わっている。慶應義塾大学法学部卒、青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科卒(MBA)。

近年、さまざまな起業家や企業が注目する宇宙産業

宇宙なう前澤氏

ーーまずは角屋さんから、現在の事業について教えてください。

角屋:本日は我々の事業だけでなく、宇宙を少しでも身近に感じ取って吸収してもらえればと思っています。宇宙業界では、直近で、前澤友作氏の国際宇宙ステーション滞在という非常にポップな話題が大きく取り上げられています。

宇宙を身近に感じることはなかなか難しいのかなと思う一方で、前澤友作氏以外にも、例えばヴァージン·ギャラクティックの創業者リチャード·ブランソン氏や、アマゾンの創業者ジェフ·ベゾス氏、テスラの創業者イーロン·マスク氏など、宇宙産業にさまざまな起業家や企業が集まっています。

市場規模予測は今後20年で46兆円から300兆円に

市場規模予測は今後20年で46兆円から300兆円に

角屋:多くの起業家や企業が集まる背景として、宇宙産業に対する成長期待が非常に高い割合で推移していることがあります。ある米系金融機関の市場予測によると、今後20年で46兆円から300兆円と、約10倍に近い規模感で成長することが見込まれています。

宇宙産業が活況を見せる中で、宇宙ビジネスのセグメント(事業区分)として、ロケットや衛星だけでなく、これらを支える地上設備やインフラ·軌道上のサービスなどに加えて、宇宙空間での生活そのものに対するサービスの提供を図るベンチャーも立ち上がってきている状況です。直近の日経新聞の記事でもNEXTユニコーンにおける宇宙関連企業の存在感がここ日本でも増してきていることが報じられており、我々Synspectiveもお陰様で大変高い企業価値評価を頂いております。

SAR(合成開口レーダー)衛星と光学衛星の違い

SAR(合成開口レーダー)衛星と光学衛星の違い

角屋:我々Synspective社は3年前の20182月に創業した企業で、小型のSAR衛星の開発・運用や衛星データを活用したソリューションの開発・提供などを事業内容としています。おかげさまで、100億円以上の大型の資金調達に成功しており、日本のスタートアップとしてLinkedInからも高い評価をいただいています。現在は世界20か国以上から集まった100名以上のスタッフが在籍しており、社内の公用語は英語で広い多様性を持っています。

SAR(合成開口レーダー)衛星の紹介

角屋:改めて、我々が開発·運用するSAR(合成開口レーダー)衛星について紹介します。一般的な衛星(光学衛星)では、視認性は優れているものの、夜間や雨や曇り時は観測できず、地球全体の25%程度しかデータを取得できません。これに対して、我々のSAR衛星では、自ら電波を発射し、その跳ね返りを検出し画像化できるため、いつでもどんな天候時においても地球全体の100%のデータ取得することができます。ただし、その一方でレントゲン撮影のようなイメージと近いために、視認性については課題があります。

Synspective社が手掛ける2軸の事業

Synspective社が手掛ける2軸の事業

角屋:我々は、SAR衛星の運用を通じて取得したデータを、政府やデータ解析企業などに販売しています。それだけでなく、自社で開発·運用している衛星以外だけでなく、様々なデータを取得し組み合わせて分析した結果を、衛星データソリューションという形でさまざまな企業に対して渡しています。これら2つの軸で事業を展開している会社です。

初号機(StriX-a)の紹介

角屋:昨年(2020年)には2つのソリューションをリリースしたほか、12月には自社の開発した初号機(StriX-a)の衛星を打ち上げて、現在も軌道上で運用しており、画像の取得も開始しています。最終的には、30基体制での運用を目指している状況です。このように、昨今の技術革新によってSAR衛星の小型化に成功し、製造コスト削減できるようになったことから、我々のようなベンチャーが宇宙関連の事業を手掛けられるようになりました。

StriX-aで撮影した画像の応用

StriX-aで撮影した画像の応用

角屋:こちらはStriX-aにて撮影した東京近郊の画像です。ここから羽田空港エリアをクローズアップしてみると、実際に駐機している飛行機の数やターミナルの大きさなどを視認できます。同様に、川崎市製油所をクローズアップしてみると、オイルタンクの様子が見えます。

製油所の中でもオイルタンクに注目する理由は、フタ部分の上下を解析して追いかけることで、どれだけの石油がタンクの中に備蓄されているのかをリモートセンシングで把握できるためです。このデータは、石油の先物取引などに応用することが可能であり、実際のユースケースとしても知られています。

地盤変動と浸水被害のモニタリングで政府・事業者の活動をサポート

地盤変動と浸水被害のモニタリングで政府・事業者の活動をサポート

角屋:昨年リリースした2つのソリューションでは、地盤変動と浸水被害のモニタリング、データサイエンスや機械学習を用いながらWebベースでの提供を行っています。現在は、この2つのソリューションを標準のサービスとしてさまざまな企業に売り込んでいる最中です。

地盤変動モニタリングサービスでは、広域エリアにおいて、地盤の沈降・隆起している地点を衛星の観測点ごとに時系列で見ることができ、インフラ事業者・ゼネコン・自治体などに対して地盤変動リスクに関する情報を提供できます。

もう1つの、浸水被害モニタリングサービスでは、衛星が撮影したタイミングで実際の浸水域や浸水被害の様子を把握できます。このデータは、災害時に自治体が初動対応の優先順位を付ける際に役立てられるほか、損害保険会社が保険金を支払う際のシミュレーションにも活用できると考えています。

SAR衛星を用いて広域かつ定期的に観測することで、何らかの問題がありそうな箇所をマネジメントの方が発見し、ダッシュボードを介して現場の方に対策を確認することでリスクマネジメント·予防対策につなげる、といったサービス活用が考えられるかと思います。

また、災害時の緊急事態において、顧客に対して時間と天候を気にせずにリアルタイムで被災地の情報を提供することで、救援活動の優先順位の目処を付ける等のご支援ができると考えています。

2030年までに30基体制、全世界を2時間頻度でモニタリング

最終的には30基を運用し、全世界を2時間頻度でモニタリング

角屋:我々は2030年までに30基の衛星を打ち上げることを目指していますが、衛星基数が増えるに伴って撮像カバレッジや撮像頻度が向上します。最も大きなポイントは撮像頻度で、30基の運用が実現すると、全世界を平均2時間頻度でモニタリングできるようになります。

これを事業計画として目指しつつ、現在は他社様がご提供されているSAR衛星データ等を活用しつつ、来年以降は自社衛星基数が増えていく中で成長·拡大を経て、社会基盤化させていく形で市場を広げていきたいです。また、将来的には、建設インフラや防災・災害監視だけでなく、鉱業・採掘や森林などの監視も手掛けるなどして、衛星データソリューションの適用分野を拡大できればと考えています。さらには、こうしたB2Bの観点だけでなく、市場を爆発的に成長させるうえで、B2Cのような自由な発想にもとづくSARデータの活用も検討中です。

お金がかかる!宇宙産業ならではの課題感とやりがい

ーー宇宙業界全体および、御社の事業における課題感について意見をお伺いしてもよろしいでしょうか?

秋山:宇宙業界全体で1つ挙げるとすると、通常のIT事業と比べて多くのお金がかかるため、顧客や投資家に魅力を効果的にアピールできないと、なかなか事業として成り立ちにくいという点です。とはいえ、誰もまだ触れたことのない領域であり、魅力度が高いことから、業界全体が盛り上がっている状況です。

角屋:やはり資金や期待感についてですね。宇宙分野というだけで注目してくれる顧客や投資家もいる一方で、具体的な成功事例や実績が現時点で存在しないため、期待と現実のバランスを取りつつ顧客に効果的にアピールすることが難しい部分です。宇宙産業に携わる面白さをいかに伝えていくかが悩みですね。

打ち上げや画像の撮影に成功すると、嫌味が祝福の言葉に変わった

ーーセールス·マーケティングのチームでは、1枚目の撮影が成功する前の顧客とのやりとり·交渉をどのように行っていらっしゃいますか?

秋山:弊社の衛星データだけでなく、他社の衛星データや衛星以外のデータも使っているという部分をアピールしています。そもそも弊社の衛星データのみでは課題解決には至らないため、当初から他社のデータを応用して実現できることもアピールしながら交渉・折衝していました。この形は現在も変わっておらず、「衛星を打ち上げるのはすごいけど、本当に実現できるの?」ということは、さまざまな人から嫌味と激励混じりに言われ続けていましたね(笑)。

ただ、StriX-αの打ち上げや画像の撮影に成功した際には、これまで嫌味を言っていた顧客から「おめでとう!」と言ってもらえ、「何か実現できるかもしれませんね!一緒にやりましょう!」というように話が進んでいくようになったのは印象的です。

宇宙・衛星の市場を広げるという観点で競合ではなく仲間

ーーさまざまな衛星データ提供企業がある中で、御社ならではの独自性·強みはどういった点にありますでしょうか?

角屋:衛星データの提供だけでなく、データの解析結果をプラットフォームとして、なおかつユーザーフレンドリーの形で提供しているは独自性、強みとして言えるかなと思います。また、衛星データそのものの取っ付きにくさを可能な限り取り除くために必要となる作業を対応可能な人材を多く有しているので、それだけソリューションとして提供できるサービスの幅が広い点も差別化できるポイントです。

SARの衛星データを提供するという観点では競合企業は存在するものの、宇宙業界におけるSAR衛星の市場は、これまで官需が中心だったものが、今後民需をより拡大させていくことを目的に多くのベンチャー企業が立ち上がってきており、市場を広げるという観点では競合というより一緒に市場を拡大させていく仲間意識を(勝手に)持っています

もともと世界に対する日本の宇宙開発に向けた投資は大きく遅れを取っており、宇宙関連のベンチャーの人間は、いかにしてこの産業を盛り上げていくかという課題感を共通して持っているので、これを一緒に解決していく同胞のように捉えています。

多数基のSAR衛星を打ち上げた後に生まれる課題も少なくない

ーー衛星データ需要が高まる中で、通信帯域と消費電力について、現在抱えている課題があればお教えください。

秋山:これらの課題は全体的にこれから生じてくるのではないか、と考えています。通信帯域の課題を挙げるならば、国際的に管理調整されているため、総務省·経産省·各種関連機関を通し国際機関に申請し、これが通れば衛星を運用できるようになるという流れがある中で、これから多数基の衛星を打ち上げていく際に管理が煩雑になるおそれがある点です。

また、消費電力の課題としては、データ衛星の運用では多くの電力を使用するため、充電のための太陽光パネルの運用オペレーションを効率化させていく点にあります。

いずれも、まずは多数基のSAR衛星を打ち上げたうえで、立ちはだかるようになってくる課題だと思います。

将来的に、定期的な画像提供もワンショットのみの売り買いも想定される

ーーSAR衛星で得たデータはどれくらいの頻度で売り買いされているのでしょうか?業界によっては、一度取引があったら数年後まで必要ないということもあるのでしょうか?

角屋:顧客の用途·ニーズによりますね。我々は2030年までに30基の衛星コンステレーション群を構築して、全世界を2時間頻度で撮影していく目標を立てているので、定期的にモニタリングしたいという顧客に対しては、最大で撮像頻度ごとの画像や解析結果を提供するケースも想定されます。その一方で、過去の傾向を知りたい場合などは、アーカイブ画像を使った解析をスポットでご活用頂く、というニーズも想定されます。

ーー本日はどうもありがとうございました。

東大IPC、次回セミナーについて

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