2022/3/28

資本金の増資とは?理由や方法、メリット/デメリットを解説

資本金の増資とは?

資本金の増資とは?

増資とは、会社の資本金を増やす行為のことです。より詳しく説明すると、資本金を増やす目的のもとで、会社が新たに株式を発行し、その株式と引き換えに株主や第三者などから出資を受ける「有償増資」を意味するのが一般的です(新株を発行せずに増資を行う「利益の資本組み入れ」と呼ばれる手法も存在します)。

上記のとおり、増資を行う際は株式の発行を伴うことから、基本的には株式会社特有の資金調達方法であり、個人事業主には行えません。ちなみに、合同会社の増資では、株式会社の場合とは異なる特徴が見られます(例:株式の発行を伴わない、出資を行ったすべての人に会社の決定権を与えるなど)。

本記事のテーマの前提となる「資本金」について以下記事で解説しておりますので、より深く理解したい場合にはご一読ください。

資本金とは?会社設立時の必要額、目安、決める時のポイントと注意点

資本金を増資する理由

会社が増資を行う理由の代表例は、以下のとおりです。

  • 資金調達を行うため
  • 会社の信用度の向上のため
  • 会社にとって好ましいネットワーク構築のため

上記の内容の詳細は、後の章「資本金を増資するメリット」にて詳しく解説しています。

資本金を増資する方法と手続き

資本金を増資する方法と手続き

増資を行う方法には、以下の4種類が存在します。

  • 第三者割当増資
  • 公募増資
  • 株主割当増資
  • 利益を組み入れる

それぞれの概要と手続きを順番に詳しく解説します。

第三者割当増資

第三者割当増資とは、特定の第三者を出資者として発行した新株を引き受ける権利を与え、その権利の対価として出資を得ることによって資金調達を行う方法です。

スタートアップで広く活用されており、この場合にはエンジェル投資家・ベンチャーキャピタル・事業会社・金融機関・自社で働く役員や従業員などが出資者となるケースが多いです。また、M&A(会社・事業の合併および買収)を実施する際にも広く採用されています。

加えて、公募増資とは違い、会社側で出資者を指定できるため、敵対的な株主を排除しつつ友好的な株主の持分を増やせる点も特徴的です。

第三者割当増資の手続きは、基本的に7つのステップで進行します。

  1. 新株主募集の条件を決定する
  2. 募集事項を通知する
  3. 出資者から株式の申込を受ける
  4. 株式の割当に関する決議を行う
  5. 新株主から出資を受ける
  6. 新株主を株主名簿に記載する
  7. 登記変更手続きを行う

はじめに、第三者割当増資を実施する条件や、第三者となる個人や企業の決定基準などを決定します。続いて、決めた条件を通知し、新株購入を希望する第三者に株式の申込手続きを行ってもらう流れです。

第三者割当増資を行う会社側は、申込のあった中から株式を割り当てる相手や、割り当てる数などを決定します。その後、決められた割当数に沿って個人や企業が出資を行うことで新株を購入し、法務局に登記変更の申請手続きを行えば、手続きが終了します。

公募増資

公募増資とは、株式公開済みの企業(上場企業)が、一般の投資家など広く不特定多数の投資家に対して新株を引き受ける権利を与えて、発行した新株を割り当てる対価として出資を得ることによって資金調達を行う方法です。つまり、公募増資を採用できるのは、上場企業に限定されています。

広く出資を募ることから、株主を拡大できる点や株の流通を活発化させられる点などが特徴的です。公募増資の手続きは、基本的に5つのステップで進行します。

  1. 増資に関する決議(株主総会・取締役会)を行う
  2. 有価証券届出書の作成・提出を行う
  3. 公募条件を決定・公表を行う
  4. 株式の引受人から出資を受ける
  5. 登記変更手続きを行う

株主割当増資

株主割当増資とは、すべての既存株主に対して、その持分比率に応じて新株を引き受ける権利を与えることで出資を募る資金調達方法です。

増資を行う際、持株比率に応じて新株を発行するため、株主構成や支配関係などに影響を与えることがありません。また、これまで株主として会社を応援してきた人に対して出資を募るため、資金調達しやすい方法だといえます。ただし、特定の株主のみから出資を受けることはできないため、持株比率を変化させたいケースでは適さない方法です。

株主割当増資の手続きは、基本的に5つのステップで進行します。

  1. 募集株式の内容を決定する
  2. 株主に対して募集株式と株主総会に関する通知を行う
  3. 株主から出資の申込を受け付ける
  4. 株主から出資を受ける
  5. 登記変更手続きを行う

利益を組み入れる

資金調達の際、金銭と引き換えに株式を発行する「有償増資」を採用するのが一般的です。とはいえ、会社がこれまでに蓄積した利益剰余金を資本金に振り替えることで、新株を発行せずに増資を行う「無償増資」を採用することも可能です。こうした手法を、「利益の資本組み入れ」と呼んでいます。

利益の資本組み入れには、出資者からの新たな出資を受け入れることなく資本金を増やせる点に特徴が見られます。

利益の資本組み入れを行う際は、株主総会の普通決議を行う必要があります。また、会計処理として決議した効力発生日に利益を資本金に振り替える手続きを行うほか、資本金の額が増加するために登記変更手続きも必要です。

資本金を増資するメリット

本章では、増資を行う代表的なメリットとして、4つを取り上げて紹介します。

返済不要の資金調達

融資であれば定期的な返済が求められるものの、増資により調達した資金は返済不要です。また、融資とは違い、金利の支払いや保証料の負担などもないため、経営者からすると常に資金繰りに気を取られることなく事業の推進に注力できる点はメリットです。

財務体質の強化

有償増資を行う場合、外部から資金の払込を受けるために自己資本が増加することから、財務面での安定性を示す自己資本比率が高くなります。これに伴い、金融機関の借入が有利になる可能性もあります。

会社の信用度が向上する

一般的に、金融機関から融資を受けたり、新規に他の企業と取引を行ったりする際、相手方から会社の決算書の提示を求められます。決算書は、自社の信用度や資金力を図るために用いられます。

そのため、増資の実施に伴い資本金の額が大きくなれば、それが決算書に反映されて資金調達能力が高く資金的に余裕のある会社と判断される可能性があります。これにより、対外的な信用度が高まり、新たな取引先の獲得につながります。

とりわけ有名企業や特定の業界で優れた競争力を持つ企業などから出資を受けられれば、信用度の向上や取引先の紹介などのメリットが得られる可能性がさらに高まります。

支援者が増える

基本的に、株主は自社の業績向上を支援してくれる存在です。そのため、増資に伴い株主が増加すれば、株主が自社の事業やサービスを外部に向けて積極的に紹介してくれたり、優秀な人材を紹介してくれたりと、自社にとって好ましいネットワークを構築できる可能性があります。

資本金を増資するデメリット

資本金を増資するデメリット

増資の実施に多種多様なメリットがあるものの、デメリットも少なからず見受けられます。本章では、代表的な4つのデメリットを取り上げます。

創業者の持株の希薄化

増資を行うと、創業者の持分比率が減少(創業者の持っている権利が希薄化)します。例えば、第三者割当増資を採用し、新たな株主に対して議決権の過半数を渡してしまえば、経営権を奪われてしまいかねません。

創業者の経営への関与度を維持しながら増資を行うには、以下の事項を設定した種類株式を発行することが有効策の1つといえます。

  • 優先配当、優先残余分配→1株あたりの株式の価値を高めて発行株式数を少なくする
  • 議決権の制限→議決権を行使できる事項を制限する

株主は容易に切り離せない

増資に伴い支援者(株主)が増えること自体はメリットであると考えられるものの、株主は容易に切り離せない点に注意が必要です。

とりわけ未上場企業の場合、一度株主になったら会社側の都合で切り離すのは非常に困難です。なぜなら、株式市場において手軽に株式を売買できないうえ、増資に応じた株主が短期間での売買取引を求めるケースは少ないためです。

そのため、株主の変更については、増資を行ってしまうと後戻りできない点を理解しておくことが大切です。素性を十分に把握していない人を株主として迎え入れた後で、問題のある人物(例:株主総会で、運営を妨げる発言や不適切な質問を繰り返す人物)であることが判明した、という事態は避けましょう。

税金が増える可能性がある

増資に伴い、資本金の額が増加すると、課税額が増えるおそれがあります。課税額を抑えたい場合、資本金は1,000万円未満に調節しておくことが望ましいです。

資本金を1,000万円未満に抑えておけば、会社の設立から最大2年間は消費税の納付が免除されます。これに対して、資本金の額が1,000万円以上の場合、会社の設立1年目から消費税の課税事業者となり、消費税を納税しなければなりません。

また、資本金が1,000万円未満であれば、法人住民税(都道府県税・市町村民税)の均等割りの金額も抑えられます。例えば、東京23区に事務所を持つ従業者数50人以下の企業の法人住民税は、1,000万円を超える場合では18万円を支払わなければなりません。その一方で、資本金1,000万円以下の場合では7万円に抑えられます(2022年2月時点)。

参考:東京都主税局「均等割額の計算に関する明細書」平成27年5月改正

手続き費用がかかる

増資を行う際は、法務局において登記変更手続きを行う必要があります。このときには、登録免許税と呼ばれる税金の支払いが求められます。

登録免許税の具体的な金額は、増資を行った金額の7/1,000、もしくは3万円のいずれか高い方です。具体的な金額で説明すると、増資を行った金額が約429万円以下のケースでは3万円、それ以上の金額を増資したケースでは「増資した金額×7/1,000」の計算式で求められた金額を支払います(2022年2月時点)。

上記に加えて、法務局での登記変更手続きを司法書士に依頼する場合、司法書士に対して報酬を支払わなければなりません。具体的な報酬額は司法書士によって異なるものの、5万円以上の費用が発生するケースがほとんどです。

増資を行った金額に応じて報酬額が変動するケースも想定されるため、司法書士への相談時に確認しておくことが望ましいです。

参考:国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」令和3年4月1日現在法令等

資本金を増資した際の変更登記

前述のとおり、増資を行う際は、登記変更手続きが求められます。なお、登記変更手続きは、増資だけでなく減資(資本金の額を減少させる手続き)を行う際にも必要です。

本章では、増資を行った際に必要とされる変更登記手続きについて、4つの項目に分けて詳しく解説します。

費用

増資に伴う登記変更手続きにかかる費用は、実費と司法書士への報酬を合計した金額です。内訳は、以下のとおりです。

依頼内容 実費の金額 司法書士への報酬金額(目安)
資本金変更登記 登録免許税

【増資】
増資を行った金額の7/1,000もしくは3万円

【減資】
3万円

※そのほか、官報公告費用として約15万円(直近の決算公告を行っている場合は約4.5万円)が発生

5万円〜
事前閲覧 397円~
登記事項証明書 550円/1通

必要な書類と提出先

増資に伴う登記変更手続きでは、以下の書類を「会社の本店所在地を管轄する法務局」に対して提出する必要があります。

  • 会社謄本
  • 定款
  • 代表者の身分証明書

なお、増資に伴い資本金を変更した場合、上記の手続きに加えて、税務署・都道府県税事務所・市区町村役場に対して異動届出を提出する必要があります。このときには、資本金変更後の登記事項証明書の添付が求められます。

いつまでに変更登記しなければならないか

会社法第915条1項の定めにより、会社の登記事項に変更が生じた場合には、2週間以内に登記変更手続きを行う必要があります。

増資を行ったケースでは出資金の払込が完了してから2週間以内、減資のケースでは資本減少の効力が発生した日から2週間以内に手続きを行わなければなりません。

なお、もしも上記の変更登記期限を守らなかった場合、会社の代表者は過料等の金銭的な制裁を科せられます。

定款の変更は基本的に不要

そもそも資本金の額は定款の絶対的記載事項ではないため、基本的に資本金を変更しても定款の変更は不要とされています。

しかし、増資によって事前に定款で定められた発行可能株式総数を超える株式を発行するケースでは、増資を行う前に定款を変更し、発行可能株式総数変更の登記を申請する必要があります。

まとめ

一般的に、増資とは、資本金を増やす目的のもとで、会社が新たに株式を発行し、その株式と引き換えに株主や第三者などから出資を受ける「有償増資」を意味します。

増資を行う方法には、以下の4種類が存在します(「利益の組み入れ」は、新株を発行せずに増資を行う「無償増資」に該当します)。

  • 第三者割当増資
  • 公募増資
  • 株主割当増資
  • 利益の組み入れ

増資を行うことで得られる代表的なメリットは、以下のとおりです。

  • 返済不要の資金調達を行える
  • 財務体質を強化できる
  • 会社の信用度が向上する
  • 支援者が増える

ただし、以下のようなデメリットもあるため、把握しておきましょう。

  • 創業者の持株比率が減少し、権利が希薄化するおそれがある
  • 株主は容易に切り離せない
  • 税金が増える可能性がある
  • 手続き費用がかかる

また、増資時の登記変更手続きは、「費用」「必要書類」「提出先」「期限」などに注意し進める必要があります。

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