2022/6/24

CHRO(最高人事責任者)とは?人事部長との違い/求められる背景/6つの役割

CHROとは?

CHROとは?

CHROとは、Chief Human Resource Officerの頭文字を取った略称であり、日本語で「最高人事責任者」を意味する言葉です。一般的に、経営陣の1人として戦略人事を実行しつつ、人事関連の業務全般に責任を持つポジションをさします。

なお、CHROと類似する言葉に、CHOが挙げられます。CHOは、Chief Human Officerの頭文字を取った略称であり、日本語に訳すとCHROとほとんど同じ意味を持ちます。

とはいえ、企業の中には、CHOを「Chief Health Officer:健康管理最高責任者」や「Chief Happiness Officer:最高社員幸福責任者」などと定義し、CHROとは異なるポジションとして導入している組織も見られます。

CHROと人事部長との違い

CHROと人事部長は、ともに人事に関する専門的な役職であることに変わりはありません。しかし、これら2つの役職は、「経営に関与しているかどうか」「経営の視点を持っているかどうか」という点で違いがあると考えられています。

人事部長は、あくまでも人事部の責任者として、人材の採用や育成・人事管理に関する業務を統括する役職です。いわば、経営陣が策定した経営戦略に沿って人事戦略を策定・遂行する存在だといえます。

これに対して、CHROは、単に人事分野の責任者であるだけでなく、経営戦略の策定にも積極的に参画しながら人事業務を統括します。

つまり、経営計画やビジョンの達成・組織づくりの推進に向けて、適切な人材をいかに採用し、配置すれば良いのかを検討し、課題があれば解決策を提示し、滞りなく施策が遂行されるよう管掌します。場合によっては、現場の声を吸い上げ、経営戦略を改善する役割も担う存在です。

そのため、CHROは取締役の肩書を持ち、経営会議や取締役会などに参画するのが一般的です。

また、人事部長が売上・利益など直接的な損益計算書の数字に対して責任を取ることは基本的にないのに対して、CHROは取締役会の一員であるため、人事戦略を通じて売上拡大・利益向上など数字に対する成果を求められ、株主・債権者・取引先などに対する責任を負う点が特徴的です。

CHROが求められる背景

CHROが求められる背景

労働力人口の減少が続く現代日本において、各企業では「いかに人材を確保するか」が、重要な経営課題の1つとして据えられています。なぜなら、たとえ資金力があって、優れた事業計画を持っていたとしても、業務を遂行する社員を採用できなければ、事業を推進できないためです。

このような人事に関する経営課題を解決し、事業を強力に推進していくうえで、経営と人事の双方の視点を持ったCHROの存在が重要視されています。

また、最近では、ビジネス環境の劇的な変化に加えて、新型コロナウイルスの感染症拡大も相まって、経営判断の策定・実行がさらに困難化しています。こうした危機的な状況下において、経営に関する素養を備えた「CHRO」の役割に大きな期待が集まっている状況です。

CHROの6つの役割

本章では、CHROの担う役割の中から、代表的な6つをピックアップし紹介します。

人事視点で経営をサポート

企業の業績は、人材を適材適所に配置しているかどうかで大きく変わると考えられています。そこで、CHROは事業予測を実施したうえで、適材適所の人材配置を実現するために必要な採用活動や組織再編などの進言・提案を行います。

例えば、現状の人事評価・人的リソースなどを見直しつつ、組織全体のパフォーマンスを最大化する人材配置を心がけます。また、経営と現場の双方を見ながら、事業予測の中で求められる業務を洗い出すこともCHROの役割といえます。

そのほか、事業予測に際して、KPI(重要業績評価指標:企業が目標を達成するうえで、その達成度合いを計測・監視するための定量的な指標)の設定を行うこともあります。これにより組織のパフォーマンスを正しく測定し、経営課題を把握することで、経営陣・現場とすり合わせたうえで人事面から改善を図ります。

このように、社内外問わず多くの人とコミュニケーションを取りながら、業績を向上させるために必要な人材の配置を検討し、企業がさらに成長していくうえで必要な人材を確保することがCHROの大きな役割であると考えられています。

経営視点で人事施策の企画立案

CHROの担う重要な役割の1つに、人事施策の企画立案が挙げられます。これは、企業の掲げる目標・経営戦略などと照らして組織の理想像を考え、その実現に向けて人材採用・組織改編などの観点から戦略を練るという役割です。

社員のモチベーション低下は組織力の弱体化につながるように、労務問題は経営上のリスクです。そのため、現状の人事施策の有効性を検証し、必要に応じて運用を変更する対応が求められます。

具体的には、社員の話を聞き、評価に関する改革を取り入れることで、社員が働きたくなる環境を整備します。また、業績を向上させるための人事施策を企画立案・実行する中で、CHRO自身の価値観を発信したり、経営陣や社員の声に耳を傾けたりすることも重要な役割の一つです。

上記の施策を通じて、組織のメンバー全員が同じ方向を向いて力を発揮するようになれば、組織はさらに活性化し業績の向上につながります。このように、組織の継続的な活性化に貢献することもCHROの役割です。

人事施策の進捗管理

CHROは、企業の経営戦略やミッション・ビジョンの達成に向けて、人事施策の進捗を管理する役割も担います。

例えば、「人材の配属・異動後に現場に問題が生じていないかどうか」「人材採用は予定通りに進んでいるかどうか」などを常日頃からチェックします。また、その結果を経営陣に報告するとともに、何らかの問題が発生していることを発見した場合は、関係各所に適切な指示を与えることも役割の1つです。

人事評価制度を構築・確立

経営戦略に沿った人事評価制度を構築・確立し、運用の管理を行っていくこともCHROの役割に含まれます。CHROには、人事評価制度の運用に関して進捗状況を確認したり、制度の適切な運用に向けて必要に応じて修正を施したりすることが求められます。

社員の育成方法を構築・確立

企業の業績を向上させるには、経営戦略を実行し目標を達成していくための強固な組織づくりが大切です。そこで、CHROは事業を成功させるための人員計画を策定し、いかなるタイミングで採用・育成を行っていくかを設計する役割を担います。ここでは、組織体制づくり・現場統括のためのマネジメント支援・キャリア開発・労務管理まで一連の業務について、企業の事業モデルに合致するよう一貫性を持たせながら構築していくのです。

上記の中でもCHROの役割として特に重要なのが、企業の経営戦略やビジョンにもとづいて社員の育成方法を構築することです。人材は企業にとって成長の源泉であり、何よりも育成が重要視されます。

社員を育成するには、部署を横断した育成方法の確立が求められます。そのため、部下の指導を管理職に任せるのではなく、「どのような人材が会社に必要か」を考え、それに見合った人材の育成方法を構築したうえで、各部署のマネージャーを中心に伝達・徹底させていくことが求められます。こうした役割を全うすることで、「人の側面から見て強い組織」の構築につながるのです。

企業ビジョンや理念を社員に浸透させる

企業のビジョンや理念を社内に浸透させていくことも、CHROが担うべき役割の1つと考えられています。

具体的には、「職場環境に何らかの問題がないか」「社員のモチベーションは高いか」などをチェックし、問題が発生していれば適切な施策を講じることで、より良い企業風土や企業文化の創出を図ります。

企業(スタートアップ)のビジョンについては以下の記事で詳しく紹介しています。

スタートアップにミッション・ビジョンは必要!作り方、事例

CHROを導入している企業例

CHROを導入している企業例

現時点でCHROの役職を設けている国内企業は少ないものの、今後本格的に導入する企業が増えていくと見られています。

本章では、すでにCHROを導入している企業の中から、代表的な4社をピックアップし紹介します。

日清食品

日清食品は、インスタントラーメンで知られる大手食品加工会社です。2014年にCHROを導入しており、日清食品グループのビジョン 「EARTH FOOD CREATOR」 の実現に向けた人材育成に取り組んでいます。

具体的な施策の例を挙げると、2020年に社員の自律的なキャリア形成を支援し、健全な社内競争を生み出すことを目的とする企業内大学「NISSIN ACADEMY」を設立しました。これを通じて、全社員対象の研修、自己啓発支援制度、経営者候補・各部門のリーダー候補の育成研修(選抜研修)などさまざまな人材育成制度を実施しています。

富士通

総合エレクトロニクスメーカー・総合ITベンダーの富士通も、CHROの役職を導入している企業の1つです。

2020年、CHROの平松 浩樹氏のもとで、富士通グループのビジネスの変革をリードするマインドや組織文化の醸成を目的とする人材戦略変革が行われており、主な施策としてポスティング制度の拡充および、その基盤であるジョブ型人事制度の導入などが実施されました。

ジョブ型人事制度の導入では、「事業戦略遂行のためにどんな人材が必要か」という人的資本と組織設計に対する戦略的アプローチへの転換を行っています。

また、ポスティング制度の拡充では、グループ内で公募されているポストを社員が自ら探して選択し、必要に応じて新たなスキルを身に着けて挑戦する機会を大幅に増やしました。これにより、企業が社員の育成や配置を一方的に決めるのではなく、社員が主体的に学び、キャリアを構築することが可能となりました。

サイバーエージェント

インターネット広告事業・メディア事業・ゲーム事業を主に手掛けているサイバーエージェントは、企業文化の浸透を目指してCHROを早期に導入しています。

同社のCHROは、新たな社内制度として、下位5%の人材にマイナス査定を行う「ミスマッチ制度」や、自分のパフォーマンスを月次ベースでアンケート回答してもらう「GEPPO」などを構築・導入しました。

上記の施策によって、企業理念が浸透していない社員の早期発見につなげているほか、人事に関する問題を早期の段階で発見できるようになり、何らかの策を講じることにつなげています。

メルカリ

フリマサービスを運営するメルカリも、CHROの役職を導入している企業の1つです。現在のCHROである木下達夫氏のもとで、HRBP制度(Human Resource Business Partner:経営者目線で人事活動を行い、経営戦略や戦略人事を実現する制度)が導入されています。

また、データドリブン(データを収集・分析し、ビジネス上のさまざまな課題に対して判断・意思決定を行うこと)による人事活動も推進されており、一気通貫での人材分析が可能となりました。

さらに、多様性への対応の1つとして報酬制度が刷新されており、グレードに応じたシンプルな基本給と、個人業績によって決まる金額を組み合わせた新制度に移行されています。

DEEPTECH DIVE

本記事を執筆している東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)は、東京大学の100%出資の下、投資、起業支援、キャリアパス支援の3つの活動を通じ、東京大学周辺のイノベーションエコシステム拡大を担う会社です。投資事業においては総額500億円規模のファンドを運営し、ディープテック系スタートアップを中心に約40社へ投資を行っています。

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