2022/3/16

ダウンラウンドとは?事例紹介、希薄化防止条項についても解説

ダウンラウンドとは?

ダウンラウンドとは?

ダウンラウンド(英語:Down Round)とは、スタートアップの資金調達における増資時の株価が、前回の増資時の株価を下回っている状態のことです。資金調達を行うスタートアップ側からすると、前回よりも安い価格で株式を発行して増資を行うことを意味します。

ダウンラウンドによる影響

ダウンラウンドを行うスタートアップでは、前回の増資時と比較して、企業の価値が低下している状態にあります。そのため、投資家からは、経営的な戦略・政策・方向性などに失敗があった企業として判断されるケースが多いです。また、スタートアップがダウンラウンドを行うと、既に出資している投資家に与える損失が問題となります。

ダウンラウンドは問題?

スタートアップが高いバリュエーションで資金調達を行うと、次回のラウンドでは、投資家に対して、さらに高い評価額での投資を求めるのが一般的です。もしも、企業が順調に成長し、次回のラウンドにおいて、投資家が以前のバリュエーションをもとに設定したマイルストーン(プロジェクトや作業の中間目標地点・節目のポイント地点)を達成する(もしくは上回る)ことができれば、ダウンラウンドの実施を検討する必要はありません。

しかし、スタートアップの努力のみでは解決できない事態が発生する可能性もゼロではありません。つまり、企業が投資家の期待を大幅に上回っていたとしても、市場が不況に転じたことを理由に、次回のラウンドでの資金調達が難しくなる場合があるのです。

実際にアメリカでは、2016年にクローズされたシリーズCのおよそ半分が、ダウンラウンドもしくはフラットラウンド(前回と同じ評価額で投資)であったと報告されています。主な理由として考えられるのは、2015年にスタートアップへの投資バブルが弾けて、投資家の投資意欲が下がったことです。

この事例のように、スタートアップでは、事業の失敗以外の理由で、ダウンラウンドを行わざるを得ない場合があります。こうしたケースは過去に何度も発生しており、将来的に起こる可能性も十分にあるのです。

こうした状況下では、ダウンラウンドそのものを「事業後退=悪」として問題視するのではなく、ダウンラウンドを行った後に取るべき対応を検討することが望ましいです。ダウンラウンドという現実に向き合って組織・事業を改変できれば、その企業は投資家にとって魅力的に映り、ダウンラウンドの実施自体は問題ではなくなります。

スタートアップについて以下記事で解説しておりますので、そもそもスタートアップがどういう組織なのか知っておくと、ダウンラウンドについての理解が深まります。

スタートアップとは?ベンチャーとの違いを解説【図解あり】

ダウンラウンドの事例

ダウンラウンドの事例

本章では、ダウンラウンドを行ったことで大きな話題になったfacebookの事例をピックアップして紹介します。

facebook

2009年5月、facebook社(現:メタ・プラットフォームズ社)は、シリーズDにおいて、ダウンラウンドでの資金調達を行いました。増資の引受先は「Digital Sky Technologies」で、調達金額は2億ドルです。

このダウンラウンドを行った際、facebook社の時価総額は、前回の資金調達(2008年3月、シリーズC)時の150億ドルから100億ドルまで低下しています。

なお、次回の資金調達にあたる2011年1月のシリーズDでは、「Goldman Sachs」と「Digital Sky Technologies」を引受先に5億ドルの資金調達を行っており、時価総額は500億ドルまで上昇しています。

ダウンラウンドと希薄化防止条項の関係

ダウンラウンドと希薄化防止条項の関係

ダウンラウンドによる株主の権利の低下を防止する目的のもと、スタートアップでは投資契約を締結する際に、権利行使価格を調整できる「希薄化防止条項」を定めておくのが一般的です。

希薄化防止条項が発動すると、ダウンラウンドの影響を受ける既存投資家の持株数が自動的に増加するため、希薄化の防止もしくは軽減につながります。一方で、経営陣の持株比率は低下する仕組みです。

​​希薄化防止条項は、大まかに「ラチェット」と「加重平均法」の2種類に分けられます。

ラチェット

前回の増資時の株価から、ダウンラウンド時の株価に完全に転換させて下方修正する方法です。転換時に株価の下落幅が比較的大きいことから、経営者の持株比率が大幅に低下しやすく、投資家側に有利な方法だといえます。

加重平均法

これは、既発行株式の株価とダウンラウンド時の株価を加重平均して算出する方法です。ラチェットと比較すると、転換時の株価の下落幅が小さいうえに経営者の持株比率の低下幅を抑えられるため、経営者側に有利な方法だといえます。

加重平均法では、以下の計算式を用いて1株あたりの価格を調整します。

  • (既発行株式数 × 調整前取得価格 + 新発行株式数 × 1株あたり払込金額)/(既発行株式数 + 新発行株式数)

希薄化防止条項による持株比率の低下を理解するための事例

ここでは、創業者Aが2,000株、20,000,000円で設立したスタートアップBを想定します。設立時の1株あたりの株価は、「10,000円」(20,000,000円÷2,000株)です。

1度目の資金調達でベンチャーキャピタルCからバリュエーション200,000,000円と評価され、ベンチャーキャピタルCに新規株200株を渡す対価として、20,000,000円の出資を受けました。この段階で1株「100,000円」(200,000,000円÷2,000株)です。

これにより創業者Aの持株比率は「2,000株÷(2,000+200)株=約90.9%」に低下しました。(ベンチャーキャピタルCの持株比率は約9.1%)

その後、2回目の資金調達では、当初の想定よりも事業が順調に進まなかったことで、ダウンラウンドを行いました。そして、ベンチャーキャピタルDから、1株「50,000円」で100株分の5,000,000円の出資を受けており、新規株100株を渡しています。

・希薄化防止条項なし

創業者Aの持株比率は、「2,000株÷(2,000+200+100)株=約86.9%」まで低下します。(ベンチャーキャピタルCの持株比率は約8.7%、ベンチャーキャピタルDの持株比率は約4.3%)

ベンチャーキャピタルCからすると、ベンチャーキャピタルDの出資に伴い、持分比率が希薄化します。また、ベンチャーキャピタルDは自社の半額で株式を取得しているため、不公平感が生じることになります。

・ラチェット

ベンチャーキャピタルCの株式数は、1株50,000円をベースに修正されるため、「20,000,000円÷50,000円=400株」となり、持株比率は約16%に上昇します。これに伴い、創業者Aの持株比率は「2,000株÷(2,000+400+100)株=80.0%」まで低下します。

・加重平均法

上記に対して、加重平均法を採用している場合、ベンチャーキャピタルCの株式数は、1株97,826円(※、端数を切り捨てて算出)をベースに修正されるため、「20,000,000円÷97,826円=204株」となり、持株比率は8.9%です。これに伴い、創業者Aの持株比率は、「2,000株÷(2,000+204+100)株=約87.0%」の低下に留まります。

※(既発行株式数 × 調整前取得価格+新発行株式数×1株あたり払込金額)/(既発行株式数+新発行株式数)=(2,200×100,000+100×50,000)÷(2,200+100)

このように、ダウンラウンドでは、採用する希薄化防止条項の種類によって、創業者の持株比率の低下幅が変化します。

ダウンラウンドのまとめ

スタートアップにおいて、増資に際してダウンラウンドを行わないようにするためには、事業を継続的に成長させながら業績を出し続けることが必要不可欠です。

また、高すぎるバリュエーションで増資を行ってしまうと、以降のラウンドにおいてさらに高い株価で増資を行うことが困難となります。この問題を解決するには、それぞれの投資ラウンドで適切な評価を行いながら、適切な株価のもとで増資を行うことが望ましいです。

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