PSF(プロブレムソリューションフィット)とは?PMFとの関係、手順、検証方法

PSFとは?

PSFとは?

PSF(プロブレムソリューションフィット)とは、「Problem Solution Fit」の頭文字を取った言葉であり、「顧客が抱えている問題・課題を解決する製品(商品・サービスなど)を提供している状態」を意味します。

PSFの状態に到達するためには、顧客の課題およびその解決策を特定し、試作モデル(課題を解決するプロトタイプ)を作ります。そして、顧客に試作モデルを使用してもらったうえでインタビューを行い、実際に課題を解決できるかどうか見極めていきます。

その後は、インタビューのフィードバックをもとに製品の磨き上げを繰り返すことで、顧客の課題を解決しているPSFの状態に近づけていくのが一般的です。

PSFとPMFの関係

PSFは、PMF(顧客の課題を満足させる製品を提供し、それが適切な市場に受け入れられている状態)の前段階に位置しています。つまり、PSFに到達した後で、「顧客の課題を満足させる製品」と「適切な市場の選択および受け入れられていること」という2つの要素が揃った状態を目指すステップに移行するのが一般的です。

スタートアップを成功させるうえで、PMFの状態に到達することは非常に重要であると考えられています。もしもこの状態に到達しないまま製品の販売規模を拡大すれば、その製品を受け入れてくれる顧客を獲得できず、次第に人材・資金が枯渇していくことで、スタートアップの失敗につながりかねません。

このように、PMFはスタートアップにとって非常に重要な概念であることから、その前段階にあたるPSFも同様に重要視されています。

PMFの詳細は、以下の記事で解説しています。併せてお読みいただくと、PSFとの関係性をより深く理解できるようになり、スタートアップの製品開発に役立てられますので、ぜひご確認ください。

PMF(プロダクトマーケットフィット)とは?達成までの手順を解説

PSFを達成する手順

PSFを達成する手順

一般的に、PSFの達成を目指す際は、以下の手順で進めていきます。

  1. 試作モデルを作る
  2. 課題を解決できるかどうか見極める
  3. フィードバックをもとに磨き上げる

各ステップについて詳しく解説します。

①試作モデルを作る

まずは、顧客の課題を解決する試作モデルづくりから開始します。このときには、あらかじめ顧客と対話(ソリューションインタビュー)を行い、試作モデルに実装する機能を厳選しておくと良いでしょう。

もしも上記のプロセスを怠ってしまうと、課題を解決するために必須となる機能が顧客に本当に受け入れられているのかどうかの判断が付きにくくなります。

実装機能を厳選した後は、設計図およびペーパープロト・ツールプロトを作成していく流れです。それぞれのプロセスを順番に解説します。

実装機能を厳選

ソリューションインタビューを通じて、顧客が最も重要と考える機能を見極めます。このときには、顧客に具体的な解決策を示さずに想像から本音を引き出す、「魔法のランプ」と呼ばれるインタビュー法の活用が望ましいです。

この方法では、以下のような質問を顧客に対して投げかけます。

  • どんな願いも叶う魔法のランプを手に入れたら、自分の目的達成のために何をしますか?
  • その魔法のランプに備わっていなければならない機能を教えてください
  • その魔法のランプに最も近い解決策や製品を教えてください
  • その解決策や製品の長所と短所を教えてください
  • その魔法のランプを手に入れるために確保できる予算を教えてください
  • 「ここまでできれば感動する」という、理想の製品のイメージを教えてください

上記の質問の回答をもとに、実装を検討している機能に対して「必須」「あったら良い」「不要」の3段階で優先順位を付けます。対話を通じて実装を検討すべき新たな機能を見つけたならば、これも追記し優先順位を付けます。そして、これらの中から「必須」とされる機能のみを試作モデルに実装するという手順です。

設計図を作成

続いて、試作モデルの設計図づくりに移行します。ここでは、どんな人が見ても「その製品で行えること」や「使い勝手」を容易にイメージできる設計図の作成を目指すことが大切です。

例えば、Webサービスやアプリを開発する場合、「紙ベースの画面遷移図」を作成するケースが多いです。

ペーパープロト、ツールプロトを作成

設計図をもとに、試作モデルを作ります。そもそも試作モデルには、大まかに以下の2種類が存在します。

  • ペーパープロト:設計図を実際の画面比率に即して清書したもの
  • ツールプロト:実物に近い使い勝手を体験できるもの

このうち、PSFを目指すケースでは、ペーパープロトづくりから着手することが望ましいです。これは、ツールプロトには実物を細部まで再現できるメリットがある一方で、作成に多くの手間・時間が求められるためです。試作モデルをスピーディーに作成するためにも、まずはペーパープロトづくりから開始しましょう。

そうは言っても、ペーパープロトでは、製品の動きを忠実に再現できません。そのため、チームのメンバーそれぞれがペーパープロトを作成し、良いと思われる案が固まってきたタイミングで、製品の動きをある程度再現できるツールプロトづくりに移ると良いでしょう。そうすることで、ペーパープロトでは実現できなかった操作感や調整すべき点などを把握できるようになります。

②課題を解決できるかどうか見極める

ツールプロトを作ったら、実際に顧客に使ってもらい、「使い勝手の良さ」「目的達成までの快適さ」などを聞き出します。これはプロダクトインタビューと呼ばれ、製品の使用によって課題を解決できるかどうかを見極める重要なプロセスです。

プロダクトインタビューで顧客に対して問いかける質問事項の一例を、以下にまとめました。

  • この試作モデルは何を行うためのモノだと思いますか?
  • ◯◯◯の表示・文言をどのように解釈しましたか?
  • このボタンを押したら、どのような画面に移ると思いますか?

また、プロダクトインタビューの実施後は、以下の事項を確認するのが一般的です。

  • 「すぐにこの試作モデルが欲しい」という反応は得られたか
  • 試作モデルの使用に際して、顧客が戸惑う場面はあったか
  • 試作モデルを使う理由について、顧客は明確に言語化できていたか

プロダクトインタビューでとりわけ重要なプロセスは、上記の質問・確認を通じて「製品に初めて触れたときから課題を解決するまでの流れがスムーズに進んだかどうか」を検証することです。

上記の点に関して、複数の顧客から満足した旨の回答が得られた場合、その製品はPSFに到達したと判断できます。

③フィードバックをもとに磨き上げる

プロダクトインタビューにおいて顧客の反応が悪かった場合、顧客からのフィードバックをもとに試作モデルを磨き上げて、PSFの状態に近づけていきます。

ちなみに、プロダクトインタビューの結果が非常に悪かった場合は、「①試作モデルを作る」プロセスに立ち戻る判断も大切です。やり直すとなると多くの手間がかかりますが、PMFの達成を目指す段階に移行してから軌道修正を図ろうとするよりも、コスト・リスクを抑制できます。

PSFの検証方法

本章では、PSFの状態に到達しているかどうかを検証するための方法として、「ジャベリンボード」と呼ばれるツールについて解説します。

ジャベリンボードとは、PSFの仮説について、顧客との対話を通じてピボット(方向転換、路線変更)を繰り返しながら検証していくツールです。アメリカのJavelin社が考案した手法であることから、その名称が付けられました。

ジャベリンボードを用いて検証を行う場合、以下の手順で進めていくのが一般的です。

  1. ブレインストーミングにより最初の仮説を設定
  2. 「最も検証すべき前提」を抽出する
  3. 検証方法と判断規準を決める
  4. 顧客との対話で検証・学習する
  5. 学びをもとにアップデートする
  6. 検証・ピボットを繰り返す

それぞれの項目を順番に詳しく解説します。

①ブレインストーミングにより最初の仮説を設定

顧客・課題・解決法の各アイデアをボードに貼付

まずは、ブレインストーミング(10人以下のグループあるいは個人でアイデアを発想・量産する手法)を行い、製品の「顧客・課題・解決法」を定義します。これは簡単にいうと、「自分たちの製品は、誰の・どんな課題を・どのように解決するのか」を定めるプロセスです。

ブレインストーミングが終了したら、出てきたアイデアの中から「顧客・課題・解決法」の各項目を1つずつ選択し、ジャベリンボードの1列目に貼っていきます(上図を参照)。

ここでは例として、「都心の夫婦共働きの世帯」を顧客、「家事をする時間がなく、家が綺麗にならないことにストレスを抱えている」を課題、「他人に家事を代行してもらう」を解決法に設定したとします。

②「最も検証すべき前提」を抽出する

最も検証すべき前提を抽出する

そもそも「顧客・課題・解決法」というアイデアのセットは、複数の想定のうえで成り立っています。

例えば、前のステップで挙げたアイデアには、前提として「共働きの世帯は、家事の時間を確保するのが難しいだろう」「共働きの世帯は、家事の代行手数料を支払うほどの金銭的余裕があるだろう」といった要素が存在します。仮にこれらの前提が実際には正しくない場合、課題・解決策は不適切だといえます。

上記を踏まえて、「前提が崩れてしまうとアイデアが成立しなくなる」というような「検証すべき前提」をできるだけ多く列挙していきます。その後、それが崩れた場合に製品の根幹が最も大きく揺らぐような前提条件を選び、優先的に検証していくという流れを取るのが一般的です。

「最も検証すべき前提」には、検証の必要性がある「不明度」が高いうえに、前提が崩れた際に製品に対する「インパクト」が大きい要素を選ぶことが大切です。このプロセスをスムーズに行うためには、マトリクス(上図を参照)を用いると良いでしょう。

例えば、「都心には、十分な数の共働きの世帯がいるだろう」という前提は崩れた際のインパクトは確かに大きいものの、この前提が正しいことは明白であるため「不明度」は低いです。

③検証方法と判断規準を決める

最も検証すべき前提を配置し、検証方法を決める

前のステップで設定した「最も検証すべき前提」のアイデアをジャベリンボードに貼って、それが正しいかどうか検証する方法を考えます。

ここでは、「共働きの世帯は、家事を代行してもらう手数料を支払うほどの金銭的余裕がある」という前提を検証するために、「お金を支払ってでも家事代行サービスを使いたい?」という質問を、共働き夫婦(カップル)に対して行う方法を採用したとします。

続いて、どの規準を達成したら正しいとみなすかの基準値を決めましょう。ここでは、例として「10組のうち6組がYESと回答した」を基準に設定した場合を想定します。

④顧客との対話で検証・学習する

顧客との対話を通じて検証・学習する

最も検証すべき前提および検証方法・達成規準を決めたら、顧客との対話を通じて検証します。顧客と対話する際の主な手段は、道行く人に実際に話を聞いてみる方法やオンラインでアンケートを取る方法などです。顧客との対話を終えたら、検証結果をまとめて「最も検証すべき前提」が正しいのかを判断します。

なお、顧客と対話する際は、検証以外にも学びを得られるように意識しましょう。例えば、検証に必要な質問だけでなく、オープンクエスチョン (YES/NOでは答えられない質問)をすることで、さまざまな気付きを得られる可能性があります。

仮に「お金を支払ってでも家事代行サービスを使いたい?」という質問を行ったケースにおいて、これにYESと回答した共働き夫婦(カップル)は2組のみで、残りの8組に理由を尋ねると「知らない人が家に来るのが怖いために、家事代行サービスを使いたくない」という意見が6組あったとします。この場合、家事代行する担当者のパーソナルな情報を紹介する機能を組み入れることで、試作モデルを改善でき、PSFの達成に近づけることが可能です。

⑤学びをもとにアップデートする

検証結果をもとに顧客・課題・解決法をアップデート

顧客との対話を通じて検証を行った結果、想定していた前提条件が間違っていたことが分かった場合、新たな顧客もしくは課題を設定する必要があります。つまり、「顧客」もしくは「課題」のいずれかをピボットしなければなりません。

このときには、顧客との対話で得た学びが役立ちます。例えば、「家事代行ではなく、むしろベビーシッターを求めている」という学びがあった場合、課題を「出産し仕事に復帰したいものの、周囲に子どもの面倒を見てくれる人がいない」にピボットするといった具合です。

⑥検証・ピボットを繰り返す

「顧客・課題・解決法」という1セットのアイデアに対して、「検証すべき前提」がすべて検証し終わり、アイデアに確証を持てるようになるまで、①から⑤までのステップを繰り返しましょう。

以上、ジャベリンボードPSFの検証方法を紹介しました。ジャベリンボードを活用しつつ、試作モデルを作成・磨き上げていくことで、PSFの達成を目指しましょう。

DEEPTECH DIVE

本記事を執筆している東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)は、東京大学の100%出資の下、投資、起業支援、キャリアパス支援の3つの活動を通じ、東京大学周辺のイノベーションエコシステム拡大を担う会社です。投資事業においては総額500億円規模のファンドを運営し、ディープテック系スタートアップを中心に約40社へ投資を行っています。

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