2022/3/11

AIによる画像解析で、鉄リサイクルを効率化&最適化。カーボンニュートラルの実現を目指す

株式会社EVERSTEEL|代表取締役社長 田島 圭二郎/共同創業者 佐伯真

2020年度の1stRound採択企業の一つである株式会社EVERSTEELの事業テーマは、「環境」。鉄スクラップの解析に特化したAIを通して鉄鋼材のリサイクルを効率化し、カーボンニュートラルの実現を目指している。20216月に創業した田島氏、佐伯氏の2人は、中高大の同期であり、東大マテリアル工学科の出身だ。現在は実証実験を重ねてデータを蓄積し、初期モデルをリリースをしてさらなるブラッシュアップを目指そうとしている。

 

目視に頼る鉄スクラップの不純物検知を、AIで高精度化

EVERSTEELの事業はどのようなものですか。

田島: 顧客は、鉄をリサイクルしている鉄鋼メーカーです。リサイクルは鉄スクラップを溶かして行いますが、鉄以外の銅やスズが0.4%混入するだけでも表面が割れ、その後の加工ができなくなります。そのためリサイクル現場では、納品されてきた鉄スクラップをまず作業員が目視して、不純物をチェックしています。1日に1,000トン、2,000トンという膨大な量の作業を行うのですが、作業員の人数はたった5人ほど。当然その人数ではチェックしきれずに、コストが発生しています。また、目利きのスキルを持つベテランの高齢化と後継者不足も課題となっているのです。その解決のため、AIの画像認識で不純物を検出し、さらに鉄スクラップのグレードの判定も行うという事業です。

 

佐伯: これまでは5社ほどと実証実験を行い、工場にカメラを置かせてもらって、画像認識で判定するためのデータを蓄積してきましたが、20223月末にサービスをリリースさせる予定です。当初は特定の不純物の検出など、一部のみの活用になりますが、徐々に対象や精度を広げていきます。自動運転と同じで、少しずつレベルを上げていくイメージですね。

――この検出や判定に、画像認識が最もよいアプローチだと考えたのは、なぜですか。

田島:少量のスクラップであれば磁石での分別などもありますが、膨大な量に対して効率化することに意味があります。そこで現場作業員のノウハウをテクノロジーで置き換え、より高精度化することを考え、画像認識に行き着きました。

実は、スクラップでは全ての素材が露出しているわけではなく、たとえばモーターの内部に銅線が使われていたりするのです。ですから、モーターの形を認識することで、銅線があることが予測できるわけですね。このように見た目でしか判定できないものにも対応できるのが画像認識なので、今はその実用化に注力しています。将来的には、赤外線などによる露出した不純物の検知技術も開発してみたいですね。

 

1年留年してAI技術を習得した「本気度」が伝わり、同期2人で創業へ 

お2人は共同創業ですが、どういう役割分担ですか。

佐伯: 一般的に共同創業では技術面とビジネス面をそれぞれ担うことが多いですが、私たちはそのときに必要なところを互いに埋めあっていくようなスタイルです。もともと中高大と同期で、2人とも東大で材料工学を学びました。私はバイオマテリアルでしたが、田島の専門は鉄のリサイクルです。この分野に画像解析を用いることを考えた彼は、スイスでコンピュータサイエンスを学びました。そして彼の帰国後に私も加わって一緒に事業化に取り組んでいます。

今のところの役割としては、田島がAI開発ならびに現場でのノウハウ抽出と営業活動を担当。私は製品リリースに向けたアプリケーション開発を行っています。今後もその局面に応じて、それぞれに必要な役割を担っていこうと考えています。

 

――では、起業にいたる経緯を教えてください。

田島: 学部では鉄サビの研究に取り組み、サビへの耐性により海・山で使うのに適した材料を、リサイクルの観点から考察していました。環境のために最適な材料選択を行う意義を伝えましたが、お金になる話ではなく誰にも相手にされませんでした。修士で取り組んだのは、リサイクルのために溶かした鉄における不純物の影響を評価する研究です。しかしそれは不純物の混入が前提となっており、自分としてはそもそも混入しないための対策こそが重要に思えました。そこでAIによる画像認識を可能性として考えましたが、材料工学専攻なのでいきなり画像認識で研究を立ち上げるのは難しかったのです。

そのため、やむなく1年留年して自由な時間を確保し、スイスの工科大学に留学してコンピュータサイエンスを学び、今の事業につながる研究開発を開始しました。しかし、まだ実績が出ていない段階で元の研究室から、帰国後の研究期間を短縮すれば、半年早く卒業できると提案されたのです。研究として大成する前に、社会人になるか、自分のアイデアを信じて研究を続けるかの2択を迫られ、とても悩みました。熟慮の結果、親の応援もあって続けることにしましたが、この決断は後の起業にとって大きかったです。

 

佐伯: 私は田島が帰国してすぐ、彼からこの鉄スクラップのAI画像解析について聞かされて興味が湧き、1週間ぶっ続けで説明を受け、議論しました。そもそも田島の実家は林業を営んでおり、周囲が無計画に伐採を続けるのに対し、治水など環境を考えた管理に徹底してこだわっていたんです。だから田島も子どものころから環境への意識が高く、小学校の読書感想文も「環境」をテーマにしていましたね。1週間のレクチャーでも鉄スクラップへの課題感や問題意識への本気度がものすごかったです。

また、私自身も幼少の頃からものづくりが好きで、東大のアントレプレナー道場を受講したときにも田島と一緒だったので、このアイデアで起業しよう、というのは私から持ちかけました。とはいえ当時は私も就職しており、田島もいったんは就職していました。しかし少しでも早く立ち上げたいと思い、20216月に退職してEVERSTEELを創業したのです。

企業との交渉や資金調達で「客観的な」アドバイスに助けられた 

開発や事業化を進めるうえで、助けになったのは何でしたか。

田島: 創業前にこの研究を客観的に評価いただけたタイミングがいくつかありました。まず、本郷テックガレージで約20チームのものづくりコンテストで1チームのみが受けられる審査員賞をいただいたこと。そして2020年度の未踏アドバンスト事業に採択されたことです。それにつれて研究室など、周りの目線もより協力的になり、企業を紹介してくれたり、科学的発展だけでなくビジネス的な評価も加味されるようになったと思います。

 

佐伯: 不安なときも、そうした指導教官などが心の支えになってくれました。やはり自分たちのアイデアで研究を進め、ビジネスにしようというときには、不安が無限に襲ってくるものです。業界の企業へのヒアリングでも、反応がいまひとつであれば不安ですし、開発も難しいことに挑戦しているので、思うような成果がなかなか出なかったりするもの。ですから、客観的に評価してくれる存在は大事ですね。

 

――そうして2021年度の1stRoundに採択されましたが、どのような目的で参画されたのですか。

佐伯: 未踏アドバンスト事業でビジネス化に向けて初めていろいろ考えました。さらに本格的に事業化を進めたいときに、ちょうどよいタイミングで募集があったのです。資金面のサポートは勿論ですが、経験豊富なキャピタリストの方々からの助言により、意思決定にかかる時間を短縮できたこと、判断ミスを回避できたこと、が非常に貴重でした。特に、新規のお客様との価格・契約交渉についてご相談させていただいた際に、「他にはない強い技術だから、絶対に安売りはしてはいけない」と仰っていただき、強く勇気づけられたのを覚えています。。結果、1stRound採択時にはクライアント数は0件でしたが、現在は実証実験を5社と行っています。

 

田島: また1stRoundでは資金調達についても中立的にアドバイスをしてくれます。「今は資金を入れるタイミングじゃないと思うから、ここは借り入れにしておいたほうがいい」などと、客観的な判断でアドバイスいただけたのがありがたかったです。

 

――今後の事業展開について教えてください。

佐伯: リリースするプロダクトの性能向上に、引き続き取り組みます。ただ、ゴールはこのシステムの開発・販売ではなく、再生鉄の品質改善など、リサイクルの課題解決としてもっと大きなことを考えていきたいと思います。

また、今は鉄スクラップに特化して取り組んでいますが、目視による選別で精度に課題があるというのは廃棄物全般に共通するテーマです。「再生材市場」と捉えれば国内で30兆円と言われています。リサイクルは成長領域なので、需要もさらに広がるでしょう。海外展開のタイミングも考えていきたいです。

――最後に、起業したい方へのアドバイスをお願いします。

田島: 当社では現在、業務委託で10人ほどにお手伝いいただいていますが、他にもAIエンジニアなどの優秀な方が、ボランティアで協力してくれています。また、鉄鋼業界の方が、業界知見を定期的にレクチャー頂いたりと、ある意味、私たちの夢に賭けていただいているのです。

環境系のテーマで起業をすると、このようにいろいろな方が応援してくれ、自分の力以上のことを発揮できます。SDGsなどの影響もあり、環境に貢献したいが本業の仕事や研究では難しいという方々が、私たちのような事業を手伝ってくれるのです。そうしたサポートもいただけるので、環境について夢やアイデアがあれば、ぜひ一歩踏み出して挑戦してほしいですね。

 

佐伯: 起業というのは、やってみないと分からないことだらけ。それをいま実感しています。この技術が形になるのか、当初は全く分かりませんでしたし、それが市場で受け入れられるのかも分からず、常に先が見えない状況でやってきました。それでもがむしゃらに取り組んでいると、不思議と見えてくるんです。だから、とにかくやってみることが大事だと思います。

 

 

 

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