東大IPC

Story

東大IPCでは、ベンチャー投資だけでなく、「東大IPC 1stRound」という 創業3年以内の起業家や起業前のチームに対し、
事業資金・ハンズオン支援・東大やパートナー企業のリソースをZero Equityで提供するプログラムを提供しています。
採択先に対しては、ビジネス推進から資金調達まで東大IPCが並走して支援します。
創業までの経緯、どのような支援が実際にあるのか、起業家たちに語っていただきます。

建設業界で三次元データ活用のSaaSを多様に展開。BIM/CIM原則適用という国の大方針に対応する現場をサポート 

2021年度の1stRound採択企業の一つであるDataLabs(データラボ)株式会社は、「デジタルツインの社会実装」を通じて最適化された社会の実現に資することをミッションとして2020年7月に設立。三次元計測データの自動三次元モデリングから各種CAE(Computer Aided Engineering)解析機能まで、SaaS型によりワンストップで提供している。2022年2月にはシードラウンドで1億3000万円を資金調達し、成長を加速させている代表取締役社長の田尻大介氏に、起業の経緯や事業の現在地について聞いた。

 

三次元データによる設計・施工管理が世界のスタンダードに 

まず、DataLabsの事業について教えてください。どのような課題を解決するものでしょうか。

建設業界に特化して、三次元計測にも対応しつつ、点群データの自動三次元モデリング(BIM/CIM化等)および熱流体や気流、構造解析等の各種シミュレーション(CAE解析)機能をSaaSで展開しています。建設現場では、基本的には二次元の図面に基づき作業が進められていますが、図面間のつなぎがうまくいかなかったり、そもそも図面が古すぎて現状を反映できていない、紛失してしまったなどの問題があり、建設業界の生産性が低くなっている原因の一つといわれています。

それに対して、イギリスを始めとする欧米やASEAN地域では既に、三次元データを使って設計や施工、その後の維持管理を行うことがスタンダードとなってきています。日本でも2023年度より国が発注するすべての公共事業(小規模工事を除く)で三次元モデルを使っての設計・施工・納品が必要となり、BIM/CIMを原則適用するという方針が国土交通省によって出されています。

 

すると、現場の対応が急務ですね。

そのとおりです。ただ三次元対応のためには高額なソフトウェアを複数導入し、それを使えるようになる必要がありますが、一般的に習熟には612ヶ月程度かかると言われています。全国の建設業事業者の約70%は中小企業であり、高額な設備投資のハードルが高くという課題あります。

それをDataLabsでは、専門知識のない人でもクラウドで容易に三次元モデルを作成できるSaaSプロダクトを構築し、できるだけ安価で多くの業界の方に使っていただけるような価格や仕組み、機能を実装することで、国の施策と現場のギャップを橋渡しできるのではという発想で、いま建設業界に集中してサービスの開発提供を行っているのです。 

 

―欧米やASEAN地域で進んでいる三次元データ活用が、日本で遅れた理由は何でしょうか。

現場のベテラン職人の方は二次元データを頭の中で三次元化できるため、これまでは大きな不便を感じることがなかったのはないでしょうか。また、慣れ親しんだやり方を変えたくないという思いもあったと思われます。建設現場の方の高齢化も課題で、建設業の現場従事者は30代以下が約10%といわれます。実際、現状活躍されている60代以上の職人の方が引退された際には現場を担う人材が一気に不足してしまい、技術伝承はもちろんですが、、そうした人手不足をデジタルで補う必要があるのです。

 

リッチな三次元データをあえて二次元に加工・納品する矛盾が、起業のヒントに 

――会社設立は20207月ですが、それ以前からこの課題に取り組んでいたのですか。 

広義ではそうなります。もともとJAXAに勤めていましたが、その後に転職したベンチャーではドローンで取得したデータを元に、二次元の図面などの成果物を建設会社様や建設コンサル様に納品していました。そのときに、三次元で取得したデータを二次元に還元して成果物を作るのはもったいない、そのまま三次元のデータとして使ってもらうことができれば、色んな業務で活用できるのに、と思っていたのです。点群データは、小さな点で構造物などを立体的に表現したもので、その中には座標情報や色の情報といった多様なデータが含まれています。そうしたリッチな情報を使って何かしら新しい事業を起こせないか。データを商材にするという観点でビジネスチャンスがあるのではと思い、DataLabsという社名で起業したのです。

――ドローンベンチャーの後、衛星ベンチャーにも勤務されていますが、そこでもデータを扱ったのでしょうか。

そうですね。人工衛星のセンサーを使うと、広域で地表面や大気等、様々な環境のデータ取得が可能です。当時の会社でもSaaSでのプロダクト開発・提供が目指されていたものの、顧客ニーズと合致するプロダクトに仕上げるのがなかなか難しく、要素技術を使ってPoCを行うなど、技術提案・コンサルが業務のメインでした。

 

――自身で起業されてみて、それらのベンチャーでの経験はどう役立ちましたか。 

ドローンベンチャーではまず建設業界のいろはや点群データの可能性について学ぶことができたのと、衛星ベンチャーでは大企業に対する技術提案の勘どころをつかむことができました。特に後者は、まだプロダクトがない段階で、相手先の業務課題や方針を勉強し、それらに対する解決策等を仮説で提案していくわけですが、返ってくる意見や要望をリスト化し、その最大公約数でプロダクトの方針を考えれば汎用性の高いものになるといえます。そうやって自分がフロントで仮説を当て、フィードバックを得てプロダクト開発の方向性を検討してみる経験を積むことが出来、それが今の仕事でも生きていると感じます。

 

熱く訴えたビジョンに共感してもらえ、事業のカギとなる優秀なエンジニアが加入 

――現在、プロダクト開発はどのような段階ですか。

20224月に点群三次元モデル可視化・共有ツール「LinkedViewer」が、そして6月に点群データの自動モデリングツール「Modely(モデリー)」が、いずれもまだβ版ですが完成しました。開発に着手してそれぞれ約4ヶ月と5ヶ月ずつで形にすることができています。

 

――開発スピードがすごく速いですが、秘訣は何だったのでしょうか。

優秀なエンジニアを採用できたことに尽きます。私自身は社内外のハブの役割として、ユーザーヒアリングも行い、PEST的な要因も踏まえ、プロダクトの方向性を示していく役割を担っています。それを形にするエンジニアの存在は本当に重要で、現在は業務委託も含めてエンジニアは約10人いますが、ほとんどがダイレクトリクルーティングやエージェント経由で直接お会いし、思いを伝えて共感してくれたメンバーです。

たとえば、「LinkedViewer」の開発者責任者はもともとDataLabsの事業や方向性を迅速に理解し、私が細かく指示しなくても自走して、開発を進めてくれました。「Modely」は、CTOの佐藤がコアのアルゴリズム開発を手がけましたが、元AIベンチャーCTOである経験も生かし、事業会社が2年かけて行うような開発を2ヶ月でプロトタイプ版まで仕上げてしまうような高い技術レベルを有したエンジニアです。その他にも三次元データの計測・解析、流体シミュレーションを担う非常に優秀な技術者に入社頂きましたが、プロダクト開発においてはこの2人を採用できたことで、成長カーブが一気に向上しました。

 

――とはいえエンジニアは売り手市場で、創業したばかりのスタートアップでそれだけ採用できるのは奇跡的です。どのように口説いたのですか。 

自分がこういうことをやりたい、そのためにはこういう技術が必要で、あなたがそれを持っているので、ぜひ一緒にやりましょう!と熱く伝えました。ありがたいことに皆さん私のビジョンや会社の方向性や将来に共感したからジョインすることに決めたと言ってくれています。また、私が説明をする以外に、VCからも事業計画等に対して評価が得られていたり、創業時には非常に難しいと聞いていますが、日本政策金融公庫や他の金融機関からもそれぞれ満額の融資を得ることができていたので、説得力が増したかもしれません。

20222月に13000万円を資金調達しましたが、その資金も優秀な人材のさらなる採用や組織作り活かしていく予定です。今あるプロダクトのブラッシュアップと、新しいプロダクト開発にも着手したいです。

1stRoundのピッチ選考で出会った大企業に、後に提案したPoCが複数実現 

――1stRound202110月に採択されましたが、参加された経緯を教えてください。

採択前から東大とは、点群データの自動モデル化技術を共同研究していたので、東大IPC様には将来出資して頂けたらなという思いがありました。また、1stRoundはテックベンチャーの登竜門だったので、そこで自分たちの事業に可能性があるのかを試してみたいと思ったのです。

 

――1stRoundのサポートでは、何が役立ちましたか。

事業計画をブラッシュアップする上でたくさんのアドバイスをいただき、事業の根幹になる部分も一緒に考案してもらいました。中長期計画を第1の矢から第3の矢に至るフェーズで分けたのも、アドバイスによるものです。

まず第1の矢では、点群データから「三次元モデルを自動で/容易に作る」ことにフォーカス。国のBIM/CIM化方針で困っている人の多い部分でまず結果を示すこととしました。その三次元モデルを使って気流のシミュレーションなど、特定条件をデジタル空間上に再現して「三次元モデルを使う」のが、第2の矢です。実際に大手家電メーカ様とのPoCで、空調効果を見える化して営業支援に活用する取り組みを始めています。第3の矢では、それまでに溜まったノウハウやデータを使って「新しいビジネス領域を見つけていく」と定義しており、2028年頃の計画にもなるので、これから方針を精緻化させていきます。

もう一つ、株式取得無しに提供される500万円は、JR東日本様とのPoCにおける資金として活用させてもらいました。

 

――そのJR東日本様とのPoCは、どのような狙いのものですか。

大きな工事の発注者であるJR東日本様の方でも三次元モデルを使った施工監理や維持管理等を「JRE-BIM」として推進されています。そのような中で、DataLabsのエンジンを使って、工事受注者であるゼネコン各社様とシームレスに必要なデータをやり取りして施工業務を効率化することができるのではないか、ということで連携が始まりました。そうした連携を行うにあたって自動モデル化に係る技術検証を行い、今年度からはその成果を実用化していくための協議も始めています。行うためのPoCです。私自身、建設会社様各社への営業活動と並行して、このような発注者企業や国交省、経団連などにも働きかけ、建設DXに関する意見交換や技術実証をさせてもらっています。

こういった背景から、1stRoundに採択されたのは大きいですね。ピッチ審査では、コーポレートパートナーである多くの大企業の担当者様に会えます。そこでいただいたお名刺を活用させて頂き発注者となる企業様を中心に仮説・提案を作りこんで伺い、それがPoCや今の連携にもつながりました。大きなチャンスをいただけたと感謝しています。

――最後に、起業を考える方へアドバイスをお願いします。

1stRoundに採択されるということ自体がシード期のTechベンチャーの評価基準の1つといえるくらい、知名度も影響度も広がってきているので、まずは採択されることを目指してフルスロットルでやりきるのもよいと思います。採択に向けた準備はその後の資金調達にも役立ちますし、1stRoundで作った資料はそのまま事業計画書に活用できました。1stRoundに向けて準備することが、ある意味で自分たちの経営計画にも直結しますので、採択に照準を合わせてやる価値があります。そうした考えでも、ぜひチャレンジしてみてください。

 

Back
  1stRound(起業支援プログラム)詳細はこちら!