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東大IPC

Story

東大IPCでは、ベンチャー投資だけでなく、「東大IPC 1stRound」という 創業3年以内の起業家や起業前のチームに対し、
事業資金・ハンズオン支援・東大やパートナー企業のリソースをZero Equityで提供するプログラムを提供しています。
採択先に対しては、ビジネス推進から資金調達まで東大IPCが並走して支援します。
創業までの経緯、どのような支援が実際にあるのか、起業家たちに語っていただきます。

昆虫食をアップデート。おいしさと見た目、健康機能性へのこだわりで選ばれる食材へ エリー株式会社

蚕を原料とする昆虫食の研究開発を行っているエリー株式会社。世界的な人口増加による食糧不足を見据えた市場の可能性と、研究で明らかになってきた蚕の食品としての機能性をかけあわせ、次世代の昆虫食ビジネスに挑んでいます。大学の研究機関やアクセラレータープログラムを積極的に活用している同社 代表取締役の梶栗隆弘氏に、起業のエピソードや外部機関との連携、今後の展望などについてお話をうかがいました。

世の中に新しいタンパク質を。昆虫食を普及させる一手としての蚕。

「まずは事業の概要を教えてください」
当社では、蚕を原料とした食品である「シルクフード」の研究開発を行っています。現在、世界の人口増加による将来の食糧不足の解決策として、昆虫食に注目が集まっています。日本発の昆虫食として「シルクフード」の商品化、一般流通を目指しています。

 

「なぜ昆虫食の事業を立ち上げようと思ったのでしょうか」
新しいタンパク質と昆虫食の市場に、ビジネスの可能性を感じたからです。

新卒で、小麦粉や油脂などの販売をおこなう食品メーカーに入社しました。その会社では大豆タンパク質も扱っており、新しいタンパク質市場に今後可能性があることは感じていました。

ただ、会社員である自分が、興味のある分野だけに集中はできません。会社としてもメインの商材ではないので、会社の中ではその分野に突き進めないことはわかっていました。成長スピードや今後の人生を考えても、起業に気持ちが傾いていきました。

「それからすぐに現在の事業をたちあげたのですか?」
実は食品メーカー退職後、現在の会社の前に事務系作業のアウトソーシング分野で起業し、5年ほど経験を積んでいます。

当時、いつか一緒に事業をやろうと高校時代の仲間とルームシェアしていました。そのときの同居人が京大の技術を使ったビジネスコンテストの情報をもってきて。その技術の中にあったのが、食品の機能性分析研究でした。食品分野であれば、自分のバックグラウンドも活かせます。ここで新しい市場がつくれないだろうかと考え、以前の経験をもとに、新しいタンパク源としての昆虫食、そしてその中でも蚕に着目するようになりました。

その仲間と一緒に共同創業したのが、現在のエリー株式会社です。

 

「新規事業を立ち上げる中で、昆虫食を選んだのですね」
昆虫食業界の中には、純粋に昆虫そのものが好きだったり、環境意識が強かったりという思いでやっている会社が多い。もちろん、私たちもそういった想いは持っていますが、ビジネスとして成り立つかどうかを一番に考えて起業しました。昆虫食の中でも、より事業性が高いと見込んだのが、蚕でした。そこには京大の研究も関係しています。

京大・東大との共同研究で、食品としての蚕の付加価値を高める

「なぜ蚕なのか、とても気になります」
今後昆虫食が市場を獲得していくためには、成分やおいしさなど、いかに食品としての価値が高い昆虫に進化させていくかが重要と考えています。将来的には農作物や畜産物が辿ってきたように品種改良、これからの時代はゲノム編集などを行いながらそれを実現していく必要があります。その下地には昆虫学としての研究が絶対に必要です。そう考えたときに蚕ほど適切な昆虫は他に存在しません。蚕は、世界の中でも日本が最も研究成果を持っている昆虫で、その下地において世界に対して圧倒的優位性をもっているのです。

 

「京大との共同研究で具体的にどのようなことがわかってきたのですか?」
食品としての価値を理解するため、まず蚕にどんな健康機能性が含まれているか分析を進めています。

健康機能性とは、タンパク質、ビタミンといった栄養成分よりも希少価値が高く、より健康に直接作用するようなもの。特定保健用食品や機能性表示食品に代表されるようなものです。現在、蚕にはこの候補物質が3,000ほどあることが分かっています。

そもそも、これまで食品としての蚕の健康機能性を調べた例がほとんどなく、京大の先生たちはまずはそれだけの数があることに驚いていました。今は、その3,000の候補部質を既知の機能性のライブラリに照らし合わせながら成分を特定を進めています。高付加価値化への可能性がわかってきた段階ですね。

 

「東大での研究も同時に行っているとうかがいました」
東大では、食品としての汎用性を高めるために蚕の餌に関する研究を行っています。蚕は基本的には桑しか食べません。その餌を工夫することで、味や含有成分を変えることができるのではないかとの仮説から、様々な餌を与え、研究を進めています。将来はオーダーに合わせた可変性の食品原料に出来たら非常に面白いですよね。

東大とは、今後は蚕の含有成分についての研究も実施していく予定です。

研究から商品化、さらに一般流通。昆虫食のイメージをくつがえし、人々に選んでもらえる食品へ。

「それらの研究の成果をもとに、徐々に商品化されていくのだと思いますが、現在の状況を教えていただけますか?」
2020年1月末から7月末まで、期間限定の店舗「SILKFOOD LAB」を表参道にオープンしました。「シルクバーガー」や「シルクスナック」「シルクスープ」などを気軽に体験できるスペースです。

新型コロナの影響で途中休業期間もありましたが、お客さんの感想を直接聞くことができ、今後の事業への参考になる意見も多くいただきました。

 

「今後の商品展開はすでに決まっているのでしょうか?」
新しくECサイトを立ち上げ、秋口には商品としてみなさんに購入いただける状態にしたいと思っています。将来的には、EC以外にも、スーパーやコンビニなどより身近に感じていただける場所にも販路を広げていく予定です。

 

「昆虫食が幅広く受け入れられるために工夫していることはありますか?」
おいしさと見た目は、ターゲットをどこに置いたとしても重要視されるところなので、注力しています。

我々の「シルクフード」は「昆虫食2.0」、つまり次世代型の昆虫食だと思っています。昆虫食というと、みなさん一定のイメージをお持ちかと思います。昆虫の姿かたちがそのまま見えることがエンターテインメント性で話題になることもある。これまでの昆虫食は、嗜好性が高く、貴重なものを食べることに価値がありました。

一方「シルクフード」は世界中に食品として流通することを目指しています。そのためには受け入れられるおいしさと見た目にとにかくこだわる。そして健康機能性によって付加価値を高めていく。一般的な食原料として認められるためにはどうすればいいかを常に考えています。これまでの昆虫食とは全く逆のアプローチをとっていきます。

 

積極的にアクセラレータープログラムに参加。応援者を増やしながら自分たちの信念を貫く。

「東大IPC 1stRoundについて、応募したきっかけを教えてください」
創業当初から、様々なアクセラレータープログラムやオープンイノベーションを活用しており、もともと存在は知っていました。

事業会社のアクセラレータープログラムでは、その事業の専門性を活用させていただくことも多いです。一方東大IPCは、スタートアップとしてやっていくための資金調達や法務分野などのノウハウや情報が豊富。バックオフィス面で幅広く助けられています。前述の蚕の餌の研究なども、東大IPCからご紹介いただき、進めることができています。

純粋に応援してもらえていることへの感謝もあります。関係者、応援者が増えれば増えるほど、その期待に応えたいと、奮起することができますね。

「これまでの起業で苦労した点はありますか?」
まずは研究からスタートしたので、市場もこれからつくっていくフェーズです。これまでは営業や商品開発など自分の役割や専門性を活かせないことにもどかしさを感じることもありました。しかし、やらないといけないことは山のようにあります。専門性を活かせる場面も、今後も実はそれほど多くないのかもしれないと思い、悩んでいる暇があれば行動するようにしました。

また、食品は人間全てに関わる身近なものだからこそ、マイナスなものも含めていろんな人から様々な意見をいただきます。もちろん大事な意見もあり、謙虚に受け入れることもあります。でも惑わされすぎず、最後には自分たちの信念を貫く強さも必要だと感じます。

日本に根付いた養蚕業との関わりを最大限に活かし、地域活性にもつなげたい

「食糧問題はグローバルな課題ですが、そのあたりも含めて今後の展望をお話いただけますか?」
グローバル市場は当然見ています。しかし欧米では蚕が日本ほど一般的ではなく、どのように受け入れられるかまだ未知数。そのため、日本で「シルクフード」の認知度をあげて土台をつくり「日本食✕昆虫食」として世界で勝負することも視野に入れています。

ただ昆虫食の市場としては、海外のほうが環境意識が高く、受け入れられやすい土壌はあると思います。日本で思ったほど展開しなかったら、直接海外展開の可能性もあります。まだ市場をみている段階ですね。

「従来の養蚕業とはどのような関わりを持っているのですか?」
群馬県と一緒にプロジェクトを進めていて、既存の養蚕業の枠組みの中でいかに価値をあげていくかを考えています。先日も群馬の製糸工場で、蚕のサナギをもらって情報交換などもしてきました。既存のものを活かしつつ、新しいビジネスにすることは意識しています。

養蚕業は日本全国に文化やバリューチェーンがある。地域活性や地方創生の側面において、養蚕文化で町おこしに取り組んでいる地域もあります。「シルクフード」を知って問い合わせをくださる方の中には、地場に根付いた会社の方や町の方々もいらっしゃり、全国的にビジネスをしていくことも大事だと思っています。地産地消も可能かもしれません。

 

「今後について、具体的に目指すことは何ですか?」
3年後には「シルクフードが、食料の選択肢のひとつとして選ばれるような市場をつくっていきたいです。いまはまだ昆虫食への抵抗感も根強いと思いますが、その違和感を取り除いていけたらと思っています。

 

「これから起業を目指す方にアドバイスはありますか?」
まずはやってみること、動いてみること。動くことでいろんな人がついてきてくれたり、ヒントにつながっていきます。頭で考えるのも大事ですが、最後には思ったことを行動に移すことに尽きます。幸いにして、今はスタートアップへのサポート体制が充実しています。お金がなくても、それこそ東大IPCのようにサポートしてくれる機関がある。まずはアクセラレータープログラムに参加してみるのもいいと思います。

我々も最初のアクセラレータープログラムに応募したときは何もありませんでした。あるのはプレゼン資料のみ。あとは「できる!」という思い込みと熱量で乗り切りました。

 

「その情熱が大事なんですね」
試作の原料となる特殊な蚕を求めて、中国の山奥まで蚕を探しにいったこともあります。あまりにもツテがなかったので、中国語を習っていたときの現地の先生にダメ元で資料を送ったところ、なんとつながった。まさかの体験でした。今では日本の商社が入ってくれていますが、この経験があってこそだったと思います。

この情熱の結晶の「シルクフード」、近々ECでの販売を始めますので、ぜひ味を確かめていただけるとうれしいです。

 

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