東大IPC

Story

東大IPCでは、ベンチャー投資だけでなく、「東大IPC 1stRound」という 創業3年以内の起業家や起業前のチームに対し、
事業資金・ハンズオン支援・東大やパートナー企業のリソースをZero Equityで提供するプログラムを提供しています。
採択先に対しては、ビジネス推進から資金調達まで東大IPCが並走して支援します。
創業までの経緯、どのような支援が実際にあるのか、起業家たちに語っていただきます。

松尾研究室、未踏クリエイターを中心としたAIエキスパート集団が挑む、自然言語処理&リテールテックでの社会実装

自然言語処理・リテールテックに焦点を当てた研究開発に取り組み、技術力を強みとして大企業向けにAI開発のコンサルティング事業を展開している、株式会社ELYZA(イライザ)。代表取締役CEOの曽根岡侑也さんは未踏クリエイターであり、起業は2社目。また、松尾研究室での職員経験も長く、現在は株式会社松尾研究所の取締役も務めながら、AI研究開発・サービス開発をさらに推進しています。そんな曽根岡さんに、起業に至る経緯や事業の独自性、目指す世界観についてお話頂きました。

 

人間を超える精度を達成した大規模言語モデル「BERT」以降の技術を用いて、日本語モデルを開発

「まず事業について、どのようなものなのか教えてください」

AIを活用した共同研究事業と、AIサービス事業の2本柱です。まず共同研究については、デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいる大企業に対して、当社の持つAIの開発技術を提供していくものです。また、共同研究を通して確立したものをより多くの会社や人々に広く届けられるよう、自社のAIサービスの開発にも取り組んでいます。

このAIやディープラーニングという分野は進化がすさまじく、1~2ヵ月もすると新しいものが出てきて、それまでのものがコモディティ化してしまう世界です。当社では、この分野をしっかりとキャッチアップし、特に自然言語処理とリテールテックの領域を主戦場としています。

株式会社ELYZA代表取締役CEOの曽根岡侑也氏インタビュー

「御社ならではの強みは何でしょうか

AI研究では、2012年に深層学習を用いた手法が登場したことによりブレイクスルーが起き、2015年には画像認識において、人間を超える精度を実現しました。一方、自然言語処理は画像分野からは少し遅れ、2018年秋にGoogleが発表したBERTを皮切りに、2019年に人間を超える精度に到達しました。ただし、これは英語についてのことでして日本語の話になると、人間を超えるようなモデルはあまり開発されておらず、社会実装が進んでいない状態でした。

当社では、日本語のデータを大量に学習させることにより、2020年9月日本語に特化したAIエンジン「ELYZA Brain」を開発し、人間超えの精度を達成しました。能力的には日本語で契約書やメールなどから重要な情報を自動抽出したり、大学入試レベルの穴埋め問題を解いたりすることができるレベルです。

もう一つ、当社が社会実装を目指しているのがマルチモーダルと言い、テキストや画像、音声、動画、数値データなど複数の要素を組み入れて予測する技術です。この技術を用い、大きな価値を産める領域として、小売・製造業という仮設を持ちリテールテック領域に注力しています。 

最初の起業の失敗から学んだ、意思決定の指針と、黒字基調の経営体制 

「起業に至るまでの経緯を教えてください」

東大工学部システム創成学科を卒業して修士1年の頃に、プログラミングを始めました。そのときに、中1からプログラミングを習熟していた友人とハッカソンに出たり、プロダクトのアイデアを一緒に考えたりしていたんですね。彼の誘いで未踏プロジェクトに申請し、2014年に「意思決定に資する解析システム付きの共創プラットフォームの開発」というテーマで採択されました。また同年、彼とともにクロードテックという会社を興しています。これが私にとって最初の起業経験でした。中小の店舗が自前のアプリを作れるサービスをローンチしたのですが、プライシングの失敗がたたり、2017年に解散という形で終わりました。、技術的には優れたものだったと今でも思いますが、ビジネス面の失敗が致命的でした

これはかなり苦い経験でした。その後は修士課程修了後は松尾豊先生の研究室に入職しました。松尾研究室はAI技術の研究開発と人材育成、そして社会実装を柱としており、ベンチャーの創出に力を入れています。そこで職員として過ごして1年もすると、再度起業したいというエネルギーが満ちてきました。また、まだBERTが出る前でしたが、自然言語処理の技術変遷を見ていたところ、あと遅くとも3〜4年ほどで社会実装ラインまでいくだろうと仮説を持ったので、ぜひ自分の手で仮説検証したいと思ったのです。そこで週末などに起業に向けて動き始め、現在のCTOである垣内(弘太)の協力の元、夏頃には最初のクライアントとなる企業との商談がクローズできたため、2018年9月にELYZA(当時は「イライザ」)を設立しました。

未踏クリエイターに選出された株式会社ELYZA代表取締役CEOの曽根岡侑也氏

「曽根岡さんは起業を二度されています。起業に対する思いを聞かせてください」

まだ学部生であった2013年頃に、大学発ベンチャーの走りで、史上最年少で東証マザーズ上場を果たしたリブセンス社長の村上(太一)さんとお話する機会があったんです。当時26歳でしたが、明らかに同世代のなかでも成熟されていて、見えている世界や視座が違うように感じられました。それで、起業することで自分の能力を一段引き上げられるのではという仮説を持ったのです。

もう一つ、当時思ったことは、大企業に入社した場合に、上司に嫌われるようなことがあればサラリーマンとしての人生が惨憺たるものになることへの恐怖です。生殺与奪権を握られるなら、他人よりもマーケットによってのほうが健全だと思い、自分で会社を創るという選択肢を現実的に考えるようになりました。

しかし、1社目を失敗させた当初は、起業なんてしなければよかったという後悔ばかりでした。それでも1年も経つと、自分は今、何もチャレンジしていない、何もモノを創り出せていないという感覚に陥るんです。松尾研究室のなかで企業との共同研究を行っていましたが、それは時間を価値に変えているだけに思えました。そうではなく、自身で仕組みや組織を作り出したい。そのために再び起業しなければと思ったのです。

 

「二度の起業経験をふまえて、事業の成否を分けるものは何だとお考えですか」

最初の事業においては、技術力では競合を上回りながらも、ビジネス力のなさが敗因でした。プライシングを誤り、スケールするための仕組みをきちんと作れませんでしたから。また、ビジョンを掲げていなかったことも大きかったと思っています。いま自分たちが何のためにこれをやっているのか、がないためにモチベーションが保てなくなり、「このまま、あと5年10年続けられるか」と考えた結果、空中分解してしまったのです。

そうした失敗をふまえ、ELYZAでは「ロングターム・グリーディー(Long Term Greedy)」をポリシーとしています。これはゴールドマン・サックスのモットーで、短期的に利益を追わず、長期で最適化できるよう物事を考えて価値を生もうといった精神です。ELYZA Brainの開発も、膨大なコストと直近の利益を秤にかけていたら踏み切れなかったでしょう。これを徹底することで意思決定を間違えずに行え、モチベーションの維持にもつながっていると自負しています。

もう一つ、資金繰りで苦しまないよう、起業の準備段階から共同研究事業を行う企業を確保しました。最初からクライアントに恵まれ黒字経営ができ、収支バランスを見て、随時人材を増やしていけるのは、精神衛生上にも非常に良かったです。

こうして、現在ELYZAでは共同研究事業のプロジェクト例として、スポーツ用品メーカーのアシックス様と需要予測AIによる新たな売上機会創出や在庫削減に向けた実証実験を行っているほか、自然言語処理技術のリーガル分野への適用を目指して、日本の四大法律事務所の一つである森・濱田松本法律事務所とも実証実験を進めています。  

株式会社ELYZA代表取締役CEOの曽根岡侑也氏インタビュー

スタートアップ側に負担なく、純粋に事業成長を支援してくれる1stRoundプログラム

「未踏というのは、曽根岡さんにとってどのような存在ですか」

未踏はとても有難いプログラムで、コンセプトワークやプロダクト開発について随分と鍛えてもらえました。何より参加して良かったのは「人とのつながり」が得られたことでしょう。人については、いま入社してくれている2人への感謝に加え、当時メンターであった藤井さん(藤井彰人氏 富士通、Google等を経て、現在はKDDI執行役員/サービス企画開発本部長)とのつながりも続いていて、大きな価値となっています。また、東大IPCについても未踏経由で存在を知りました。  

 

1stRoundに採択されたのが2019年10月で、創業から1年強というタイミングですが、何を期待されていましたか」

東大関連でつながりのある方々に東大IPCについて伺うと、とても評判が良かったので、まずは応募してみようと思いました。実は私自身、大企業によるオープンイノベーションやアクセラレーションプログラムには何かと時間をとられてしまうイメージがあり、懐疑的だったんです。たとえば週1回ミーティングが設定されるうえに、その準備のためだけに別のミーティングがあったりすると、創業期のスタートアップにとって、本業以外のところでリソースを取られてしまい辛いものでしょう。しかし東大IPCでは、月1回メンタリングをしてもらえ、最終発表などの義務もありません。純粋に事業を進める上での相談にのってもらえるという、その建て付け自体が非常にスタートアップ側に立っているものでした。しかも資金的にも援助いただけて、そこに何の義務も生じません。参加しない手はないと思ったわけです。

 

「実際に1stRoundに参加されてみて、特に役立ったり、印象深かったのは何ですか」

まず、充実したメンタリング内容はとてもよかったです。当社に足りていない点を議論を通して一緒に見つけてもらい、その対応策についても、具体的なサービス活用などを含めアドバイスを頂きました。1stRoundでは6ヵ月先の目標とアクションを共有して進めるのですが、こうしたゴール設定は当然すべきことながら、スタートアップとして日々忙殺されていると二の次になりがちなものです。その重要性を気づかせてもらえたのは、本当に良かったです。また、これは当社の力不足で形にはできなかったのですが、ある大企業との共同開発に関するご紹介をいただけたのも有難かったです。スタートアップの立ち上げ期において、大企業の上位ポジションの方々に推薦いただけるのは、大変貴重な機会でした。

ELYZAの展望について熱く語る曽根岡氏

目的達成の道のりを支えてくれるのは、メンター&アンカー

「ELYZAの事業について、今後の展望をお聞かせください」

長期ビジョンは、AIの研究開発をさまざまなユースケースで実証し、価値創出できたものを製品化して、多くの人にお届けすることです。

また、この1~2年でのゴールとしては、大きく進化している自然言語処理技術を適切に社会実装させ、ベストプラクティスとなるものを形にしたいと考えています。それからもう一つ、まさに今開発中なのですが、先端的なAI技術によるサービスの第一弾を、実現させたいです。

この2つの短期目標がクリアできれば、想定していたビジョンに向けて着実に歩めている証となるでしょう。それでも達成度合いとしてはまだ2%くらいかもしれないし、個人的には50%あたりまで行けていると自分を褒めたい気持ちもあるのですが(笑)、着実に進んでいきたいと考えています。そんなELYZAに共感いただける方にもどんどんジョインしてもらい、組織体制もより充実させたいですね。

 

「最後に、起業を目指す方にアドバイスをお願いします」

あくまでも仮説ですが、成功した起業家の共通項は、ロジカルな理由に基づいて起業されていることだと思うのです。社会的には良しとされているレールからあえて外れ、合理的に自身で考えた結果からこうすべきだと決めて起業に踏み切っている人が成功している人に多い印象でした。ですから、これから起業を考えるなら勢いで進めずに、自分なりにロジックを組み立て、なぜ起業するのかを説明できるようにしておくのが良い気がします。

また、起業して経営をしていくのであれば、何かセーフティーネットとなるような客観的な評価や肩書き、バッジなどを作っておくべきだと思います。未踏クリエイターや、東大IPCに採択されたでもよいでしょう。経営がうまく行かなかった場合に備え、「資本主義社会のなかで生き残ってはいける」と思えるための安全弁を何か持っておくことが大事です。起業とは100kmマラソンのようで、途中でハイになりつつも、基本的には延々と辛い状態が続くもの。少しでも楽な状態で臨むべきです。黒字経営も精神衛生上、とても助けになります。

 

もう一つお勧めしたいのが、「メンターとアンカーを持つこと」です。これはユーグレナの出雲社長がよく言われるのですが、目標達成への道のりを支え、精神を安定させてくれるのが、この2つなのです。メンターは指針を与えてくれる存在で、起業家にとってはその人に恩返しできることが大きな喜びとなるでしょう。そしてアンカーとは、そうしたメンターの思いや理念を思い出させてくれるもの。たとえば米国では、卒業時に恩師からペンやトロフィーなどの記念の品をもらいますが、辛い時にそれを見て原点に帰り、その恩に報いねばと奮起できるわけですね。皆さんもぜひ、そうしたメンターとアンカーの助けを得て、起業という過酷なマラソンにチャレンジしてみてください。

 

 

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