東大IPC

Story

東大IPCでは、ベンチャー投資だけでなく、「東大IPC 1stRound」という 創業3年以内の起業家や起業前のチームに対し、
事業資金・ハンズオン支援・東大やパートナー企業のリソースをZero Equityで提供するプログラムを提供しています。
採択先に対しては、ビジネス推進から資金調達まで東大IPCが並走して支援します。
創業までの経緯、どのような支援が実際にあるのか、起業家たちに語っていただきます。

”廃棄物業界”という重要な社会インフラの課題を解決。その第一弾、産業廃棄物回収のAI配車サービス「配車頭(ハイシャガシラ)」が順調にスケール

2019年度の1stRound支援先の一つであるファンファーレ株式会社。テクノロジーで廃棄物業界の省力化や効率化を目指す、”静脈物流領域”のスタートアップとして、2019年6月に会社を設立。創業者の近藤氏と、CTOの矢部氏の2人で、産業廃棄物回収の配車計画を瞬時に作成するプロダクトを生み出した。資金調達も行い、現在はさらに仲間を増やすべくエンジニアや営業、カスタマーサクセスの拡充を目指している。 

 

学生時代のビジネスの失敗に学び、2社の勤務で「起業力」を身につけた

まず、ファンファーレの事業について教えてください。

近藤:廃棄物業界の労働人口不足の課題を、テクノロジーの力で解決するのがミッションです。いま手がけているのは、産業廃棄物の回収を行うための配車計画をAIで効率よく行う「配車頭」というサービスです。

矢部:産廃向け配車ルートの最適化は、回収の時刻指定のタイトさや車種などの制約があり、他業界と比べてより複雑であることが特徴です。そこに弊社は、混合整数線形計画法(MILP)という昔ながらの技術で取り組んでいます。 

 

――市場規模のイメージはどのくらいありますか。

近藤:産廃事業者全体の数は、現在約11万社です。業界再編が進行中で統廃合が進んでいるため、1社がかかえる人材や設備が増えることでITシステム投資のモチベーションが高まっています。現在は弊社サイトに問い合わせをいただいたアーリーアダプターの事業者様に「配車頭」を導入させていただいています。より多くの産廃業者の方々に価値提供できるように、取り扱う廃棄物種別や、車両などの様々な特徴にフィットさせるべく機能開発を行っています。

――20196月に起業に至った背景を教えてください。

近藤:起業前はリクルートでITプロダクト開発・組織開発に従事しながら、副業で私の専門分野であるUX業務のコンサルタントを行っていました。そのなかに産廃企業がありこの業界に出会うことができました。市場規模が大きくIT投資に積極的になりつつあり、ITによる生産性の向上のポテンシャルが大きい業界だと感じました。その後より深く現場を知ろうと、約1年ほどかけて全国の産廃業者を訪問し、業務実態の把握に努めました。多くの業者様とのコミュニケーションを重ねていくうちに、起業を決心しました。

 

――なぜ廃棄物業界で起業しようと思ったのですか。

近藤:私はもともと学生時代からソーシャルビジネスに関心があり、それに資するビジネスを試行しては失敗を繰り返していました。本当にいろいろやったので一部紹介すると、私が京都の美大生だったこともあり、京都の伝統工芸品のリデザインを行い後継者不足の課題解決に取り組んでいました。デザイン賞をもらうなど評価はされたのですが、量産が難しく、事業としては続きませんでした。他には、不登校児をスポーツをすることで自己肯定感を高めて社会復帰をめざすスポーツ塾事業にも挑戦しましたが、レベルの高いコーチの数をそろえるのが難しいという課題でスケールしませんでした。このような形で、たまたま出くわした課題を見つけると勝手に介在価値を出せないかと考えを巡らせて、しまいには体が動く性分で、それをひたすら繰り返していました。そのうちに、持続可能な形で社会に価値提供するならビジネスとして成功させる能力が、美大卒のデザイナーの当時の自分には全く足りていないと感じました。そこで、卒業後に勤めた2社では、足りないものを身につけようと考えたのです。

 

――その1社目は、スタートアップ支援や大手企業の新規事業創出支援する会社のCrewwですね。

近藤:はい。美大ではグラフィックデザインを専攻していました。同級生は皆、広告代理店や制作会社に就職し、私も6社ほどの内定を得ていました。でも、当時社員10人以下だったCrewwに入りたくて、他社の内定をすべて辞退してCrewwの代表に懇願し、まずアルバイトから働かせていただきました。そして3ヶ月目に、それまでの成果をプレゼンしたら正社員で採用してもらえました。なぜそこまでして、その会社を選択したかというと、その頃はまだスタートアップという言葉も日経ではベンチャーと表記され、まだまだ世の中に浸透していない時代に、これからゼロイチを行うスタートアップの成長支援と、既に成熟した事業を持っている大手企業が新しい市場開拓を行う場面に立ち会える企業は日本で1社Crewwしか存在しませんでした。ファーストキャリアとしてここで働くことで、幅広いビジネスを見れると感じました。Crewwには3年勤めて、大手企業20社、約100件の新規事業創出に関わることができました。また、Crewwの提供するスタートアップコミュニティに登録している何千人もの起業家の熱量を直接感じることができました。

 

――その3年では、まだ起業するタイミングではなかったのですか。

近藤:そうですね。大手企業のリソースや資金力、スタートアップのアイデアや技術力などをかけあわせても、必ずしも新規事業がうまくいかないことがあります。その原因は組織の構造や企業文化に起因すると感じられることが多くありました。なので、イノベーションを成功確率をあげるに組織開発を中心とした人事を経験したいという思いが強くなりました。

それが2社目のリクルートホールディングスです。国内ではダントツ組織開発にお金と時間をかけている企業なので、そこで組織開発に従事しながら、兼務してUX職としてプロダクト開発を行っていました。

Crewwで様々な規模の事業開発、起業家としてのマインドセット、リクルートで組織開発を学び今なら、もう一度、挑戦できるのではないかと思い、起業準備をはじめました。

 

――廃棄物業界に課題があると分かったときというのは、どんな感覚でしたか。「見つけた!」という感じでしょうか。

近藤:お手伝いしているときに、自分の生きがいとして腰をすえてやっていく場所かもしれないというのは、少し感じてはいました。ですが、自分が何とかしたい使命感とまでいうとおこがましい気がして、何かお手伝いできることがあればさせていただきたい、というのが近かったと思います。

 

大手企業のエンジニアから、スタートアップのCTOに転身した理由

――そうして20196月にファンファーレを設立されたわけですが、その経緯を教えてください。

近藤:リクルートも、Crewwと同様にちょうど勤めて3年となる2019年3月末で退職しました。設立後、いろいろと調査して、どういうサービスが良いかを考えているときに、経済産業省の「始動Next Innovator」という起業家育成プログラムに採択され、半年かけて事業計画をブラッシュアップしていきました。

 

――その後、東大IPC1stRound2019年末に申し込んだわけですね。

近藤:そうですね。アクセラレータプログラムを探していて、見つけました。東大関係者がいれば応募できるということでしたが、ちょうどAI技術に知見があるエンジニアを探していたときに、後にCTOとしてジョインする東大卒の矢部さんを知人から紹介されたのです。彼の入社意思が確認できたので、1stRoundに応募させてもらいました。

 

――矢部さんはその頃、大手IT企業勤務でしたが、なぜスタートアップに転職したのですか。

矢部:もともと紹介されたときは、副業や業務委託としてのAIエンジニアを探しているということでした。そのタイミングでは「配車頭」のアイデアのみで、事業計画しかありませんでしたが、話を聞いてみると面白く、ぜひ事業として手がけてみたいと思いました。

当時、私は企業の研究所に所属して、論文を書きつつ、新規事業立ち上げに関わっていました。ですが、技術的には課題を解けても、ビジネス面やスピード感などの問題で製品化にたどり着けないことが多く、ジレンマを感じていたのです。それが、近藤さんの話はそれまで見てきたどのビジネスプランよりも優れていました。ただ、仕方のないことですが、技術面では、この順番ではないとか、この機能の開発はそう簡単ではないなど、実現可能性が少し甘いように感じました。逆に、そこさえうまくいけば事業化できるということ。素晴らしいところと、ちぐはぐなところが混ざっていて、エンジニアとして、ぜひ一緒にやりたいと思ったのです。

 

――もともとスタートアップやゼロイチに興味はあったのですか。

矢部:研究職なので、ゼロからイチを生み出すことには興味はありました。新しいものを創って、物事がちょっと良くなればいいなという思いですね。大手からスタートアップの創業期に飛び込むには、周りに流されず、自分がいいと判断できるかが重要です。その点、私の場合はそのまま大手にい続けても、その環境で新規事業創出が本当にできるかは疑問でした。それよりはファンファーレのほうができそうだったのですね。

スタートアップ自体に思い入れがあるわけではなく、むしろその界隈は技術的にはふわっとしたことを言いがちだと思っているくらいでした。しかしそのなかでファンファーレは、技術的難易度や市場のポテンシャル、そこに関与しているメンバーなどを考慮すると、前職の大手よりも成功の確度が高いと感じました。

 

――とはいえ、大手企業からスタートアップに移って、資金力や技術者の数・質に不安はありませんでしたか。

矢部:それは全くないですね。確かに大企業には、たくさんの技術者がいます。一方で、求める人材にリーチできるか、スピーディーに意思決定ができるかといったことが組み合わさると、適した人材を集めるならスタートアップのほうが楽だ、という感覚ですね。たまたま揃えば大企業のほうが楽だし、そのときのポテンシャルは計り知れないでしょうが、いざそれを大企業で意図的に集めるのは大変です。優秀なエンジニアを他部署から引き抜けるか、事前にどれだけ予算が確保できるか、がんばりに見合う報酬が得られるかなどと考えると、大企業にさほど魅力は感じませんでした。

 

――スタートアップであるファンファーレで、エンジニアとしての環境は十分でしたか。

矢部:入社当初、フルタイムの役職員は近藤さんと私の2人だけでした。プロダクト開発にあたっては、まず業界の課題を正しく捉え、プロダクトの一番奥にある数理最適化のAIでアルゴリズムを動かし、最終的にUI/UXで見せるということが肝心です。その重要な両端を近藤さんと私で押さえることができていました。ほかの部分は全く足りていないけれど、1つずつやっていけばいいということ。ですから環境としては整ってはいないけれど、一番重要なパーツは揃っていたという感覚です。

 

東大IPCは資金調達やVCについて、フラットに聞ける貴重な存在

――東大IPC1stRoundでは、何が役立ちましたか。

近藤:利害関係なく、支援やアドバイスが得られたのは、東大IPCならではでした。たとえば、資金調達に向けて、個々のVCの印象について相談すると、フラットに業界内でのポジションを教えてもらえたので、話しやすかったです。一般的には、VCという投資のプロに対して情報の非対称性がある状態でコミュニケーションするのは、経験の浅いスタートアップの起業家にとっては不利でしかないもの。そこを埋めてもらえるのは、大きな価値でした。

また、弁護士や公認会計士、弁理士など、基礎的なことを支援してくれるチームが揃っているので、会社として最低限の骨格を作る意味でも助かりました。

 

矢部:実際に紹介いただいた弁護士事務所と、そこから紹介された弁理士の方を通じて、いくつか特許申請手続きを手伝ってもらいました。タイミング的にも、たいへんありがたかったです。

 

――現在のメンバー構成を教えてください。

近藤:副業比率がまだまだ高く、正社員はいま9名です。現在は主に開発チームが割合を占めるのですが副業も含めると25名程度の組織です。営業職は、産廃システム出身のベテラン営業の方や、産廃業者の3代目など、業界知見のある方が在籍しています。そのほか、バックオフィスのスタッフという構成です。

 

――技術面のリソースは足りていますか。

矢部:エンジニアを集めるのは難しいので、常に足りていませんね。いま正社員のエンジニアは私を含め、4名です。それ以外に副業や業務委託の方がいます。弊社に協力してもらえるのは、事業への共感や、技術的難易度の高さを魅力に感じて、といったところでしょう。

 

――ホームページには、大手の企業家や投資家の方々から応援メッセージが多数寄せられています。こうした方々に応援しようと思ってもらえる雰囲気ができているのでしょうか。

近藤:私自身が、共感してくれる人を創業期には多く集めたいというモチベーションがありました。産廃業界は社会インフラの一つなので、日本社会や自身の生活環境を考えたときに協力したいと、日頃から意思を持って活動されている方に出会える機会も多く、そのなかで少しずつ「仲間」を集めています。

 

――今後の事業展開を教えてください。

近藤:技術的な強みである、配車アルゴリズムを他の業界に横展開しないのかとよく聞かれるのですが、それはないんです。弊社は、廃棄物業界の労働力不足という課題を解決するというミッションドリブンの企業ですので。実際、「配車頭」を導入いただいた企業では、配車効率が10%以上向上されたり、属人化の解消においてもベテランの配車担当の方が休みを取りやすくなったといった反響があります。

今後は、廃棄物の中間処理など、この業界の他の領域の業務削減やDXを推進しようと考えており、「配車頭」を軸に、拡張しやすいところから着手していきます。

ですので、弊社では多くの人材を求めています。エンジニアは、サーバーサイドとフロントエンドが特に必要。私が担ってきたUI/UXについても、お任せできる人が欲しいですね。経営者と一緒になってUI/UXを創れるのは、スタートアップでも貴重な機会だと思います。そのほか、営業組織をゼロから立ち上げれる方や、「配車頭」の利用者の満足度を向上させるカスタマーサクセスも求めています。

 

矢部:数理最適化のエンジニアも、まだまだ必要です。世の中にAIを手がけられる機会はいろいろありますが、その中でも弊社は受託開発ではなく、自社プロダクトを作っています。それを数理最適化でやるのは実は何重にも難しさがあり、真っ向からやろうという会社は珍しいのです。そこに価値を感じる方、興味のある方はぜひ一緒にやりたいですね。

――最後に、起業を考える方へアドバイスをお願いします。

近藤:起業は、もしやりたいと思えば、ぜひやるべきです。さらにいうと、技術ドリブンではなく、課題ドリブンで。もし課題を解決したいけど、自分は当事者でないのにいいのか?と悩んでいる方がいれば、むしろ自分に馴染みがない領域であるからこそやるべきであると背中を推したいです。原体験から起業する方も多く、ピッチなどで訴求力があり「Why you?」について、原体験が無い方は悩むことがあるかもしれません。ですが、例えばネイティブの英語話者より、第二言語として学んだ人の方が文法構造を理解しているように、当事者でないからこそ、その領域を俯瞰できる強みも一方であります。私は産廃業界に長年いたわけではありません。自分で社会に対して共感性を拡張させ、そこで見つけた課題に対して事業を起こすということには利点があります。ですから、社会の問題を自分とは関係ないと思わずに、何かを課題だと感じたら、ぜひ行動してほしいですね。

 

矢部:東大生や東大出身のエンジニアに向けて伝えたいのは、この技術が一番だという優位性を起点にしないほうがいいということです。優位性というのは、言語化が簡単なので喧伝しやすいですが、それだけを強みにしていると、他社が本気で参入してきたらどうするかという問いに常に悩まされることになってしまいます。

そこで弊社では、「複雑性」を意識するようにしているのです。技術単体での優位性ではなく、総合的な組み合わせでの勝負ですね。それだと真似がされづらく、本当にオンリーワンになれるポテンシャルがあると考えています。競争した時点で負けになることがないよう、競争自体にならない土俵を選ぶべきだと思います。

 

 

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