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東大IPC

Story

東大IPCでは、ベンチャー投資だけでなく、「東大IPC 1stRound」という 創業3年以内の起業家や起業前のチームに対し、
事業資金・ハンズオン支援・東大やパートナー企業のリソースをZero Equityで提供するプログラムを提供しています。
採択先に対しては、ビジネス推進から資金調達まで東大IPCが並走して支援します。
創業までの経緯、どのような支援が実際にあるのか、起業家たちに語っていただきます。

ハーベストエックス市川CEO

ハーベストエックス市川友貴CEO(前編)イチゴの受粉・収穫ロボットで 日本の野菜工場技術を海外へ。 そして安定した食糧生産の実現へ――

2020年度の東大IPC・1stRound採択企業のひとつであるHarvestX株式会社。彼らはイチゴの栽培工程のうち、工場化のネックになっていた「受粉」、そしてヒトの足腰への負担の大きい「収穫」を自動で行うロボットを開発している。その技術の独自性、工場栽培というマーケットのトレンドと今後の目論見、そしてものづくりを愛してやまない市川友貴CEOのバックグラウンドについて、たっぷり1時間語ってもらった。

 

果菜栽培のボトルネックだった「受粉」を、ロボットで自動化

 

――2021年春、ラボの中に小さなイチゴ工場が稼働し始めたとか。

そうなんです。ハーベストエックスは東大IPCと同じ、東大医学部の南研究棟に入っているのですが、その2階に小さい工場を設けました。そこに協力企業で育てた苗を運び込んでイチゴの水耕栽培の検証実験をやっています。

 

イチゴファームの前のハーベストエックス市川CEO
2021年春に竣工した室内ファームの前に立つ市川CEO

――栽培工程の中で、人間によるお世話はどれほど必要なのですか?

僕らの技術は、イチゴ栽培の全行程のうち「受粉」と「収穫」をロボットを用いて自動でやるというもの。実は栽培そのものに人の手はそれほどかかりません。必要な手作業は、葉っぱの間引きくらいです。脇芽が増えると実に栄養がいかなりますから。あとは枯れた葉を除いたり、液肥を与えたり。

水耕栽培のシステム自体は既存の技術でほぼ確立できているんです。いま野菜の栽培工場は全国各地にあって、すでに工場で採れた野菜が業務用を中心に広く流通しています。セブンイレブンのサラダやカット野菜用の葉物なんかもそうです。

半導体工場のクリーンルームを転用して野菜を育てている例も多くあります。ただ、多くの企業が手がけているのは低単価の葉物野菜がメインで、果菜類の工場栽培はなかなか広がってはいません。なぜなら「受粉」がネックになるからです。

通常のイチゴのハウス栽培ならミツバチを放して受粉させるのですが、工場内にミツバチを入れてもなかなかうまくいきません。閉鎖的な空間のためかハチが花に向かわなかったり、ストレスで死んでしまったり。また死んでしまうと死骸が腐敗して、衛生面でのリスクになる。受粉にミツバチを使うことで、植物工場の持つ「無菌栽培」という最大のメリットが消えてしまうんですね。

つまり、完全な栽培自動化のためにはミツバチに代わる高度な受粉技術が必要なんです。そこをロボットで解決しようというのが、僕らのコア技術なんです

 

ヒトの目と手で行う作業を、カメラとアームに置き換えた独自技術

 

――人工受粉というと農家の方が花の中心部を筆先で撫でているのをイメージするのですが、ロボットではどうやるんですか?

 

そのやり方と基本的には同じです。人間のやる作業をロボットが代行するんです。カメラで撮って画像を分析し、花を検出したらアームの先についたアタッチメントで花の内側をそっと刺激します。

収穫も同じようにカメラで見て画像で判断して、アームで収穫します。

自動化といっても僕らの場合は人間と全く違うやり方をするのではなくて、作業の内容はほぼ人間と同じ。農家の方が目で見て形や色を判断して、手で細かい作業をやる。それをカメラとロボットアームでやっているわけです。

 

ハーベストエックスのロボットアームによるイチゴの人工授粉
ロボットアームの先端がやさしくイチゴの花を撫でる。

――そこがハーベストエックス社の独自技術なんですね。

 

はい。実は受粉ロボットは海外で1〜2件ある程度で、あまり他には事例がないんです。それもミツバチを模した小型のドローンのようなものを植物工場内に飛ばすといった、別種のアプローチ。人間の手による受粉作業を再現しているのは多分うちくらいじゃないかと思います。とりわけ人間の「目」にあたるカメラによる検出能技術、また「手」にあたるハードウェアのアタッチメントについては、いい成績が出ていますし、僕らの技術的な強みだといえますね。

そのさらなる検証のためにつくったのが今回のファームです。通常のイチゴ栽培は長くても時期が5月まで。ファームができて検証の環境が整ったので、通年で実験ができるようになりました。

 

通年需要×高単価のイチゴは、ロボットという投資に見合う商材

 

――ところで、なぜイチゴなのでしょうか?思い入れの面でも、ビジネス戦略的な面でも、理由があれば教えてください。

 

そうですね。僕自身がイチゴが好きだったっていうのがきっかけとしてはあります(笑)。浜松出身でイチゴの栽培が有名なんですよ。静岡だと紅ほっぺや章姫という品種がよくつくられています。石垣イチゴという独特の農法もあったりして、おいしいんですよ。浜松市の南で、地元にメーカーや工場が多く、ものづくりとイチゴ栽培との両方が盛んな土地に育って、その影響は受けているのかなと思っています。

ビジネス面でいうと、イチゴって通年需要があるんです。そのまま食べる生食用だけじゃなくて、ケーキの装飾に欠かせませんよね。ジャムなどの加工にも用いられますし。そしてなにより体積あたりの単価が他の作物より格段に高いんです。工場にロボットを導入するには初期コストがかかるので、収益が大きくないと難しい。そこで利幅の大きなイチゴは最初に取り組む品目としてふさわしいと判断しました。

展示会などで葉物工場の方からヒアリングすると、食品メーカーから引き合いはあるそうなんです。「お宅はフルーツはやらないんですか」「ぜひイチゴをつくってもらえませんか」という打診はあるけれど、育てて葉が伸びたら収穫すればよい葉物野菜とは違って、イチゴは花を咲かせて実をつけなくてはいけないため、受粉が障壁になって実現していない。ならばそこにマーケットがあるのではないかと考えてこの事業を始めました。

 

受粉ロボットがあれば、日本の高い工場栽培技術の輸出が可能に

 

――イチゴの受粉・収穫ロボットが商業的に軌道に乗った暁には、その後どのように展開していきたいとお考えですか?

 

やっぱり海外に展開していきたいですね。うちの事業って誤解されやすくて、植物工場自体を手がけていると思われがちなんですが、そうではなくて植物工場の設備があるところにソリューションとしての受粉ロボットを提供する、というスタンスです。

イチゴなどの果菜類をやりたくても受粉がネックになってできなかったところに、僕らの技術が入ることで栽培が実現する。葉物野菜は単価が低いので高い収益は見込めません。そこに受粉ロボットが入ることで収益化を手助けできればベストです。

また、中東やシンガポールのように、国土面積の小さいところや気候的に栽培の難しさがあるところに日本の植物工場の技術を輸出できれば、とも考えているんです。実際、果菜類の工場技術には、日本は抜きんでたものを持っています。ただ、それをそのまま持っていくことはできない。検疫の問題から、受粉用のミツバチを連れていけないからです。でも受粉ロボットがあればその問題をクリアできますよね。ですから、事業展開するならその方向だろうと踏んでいます。

 

ロボットはヒトの仕事を奪わない。

人間の拾い切れないないジャンルをカバーする存在に

 

また、これは僕の夢でもあるのですが、作物の完全自動栽培が一番やってみたいことなんです。人間の食べるものを生活の裏側で機械がつくってくれている、これってちょっと未来的というか、夢やロマンがあるというか、そんな気がしませんか。

イチゴの受粉技術はもちろん他の作物に応用できますから、メロンやトマトなどにも転用可能です。ロボットを用いた自動栽培は農家のみなさんと競合するのではなく、農家の方が手がけなくなった品種に広げていけたらいいと思うんです。

ご存知のように果物の人気品種にもトレンドがあって、いまは生食用イチゴであれば大粒で色が赤く、甘いもの、一番は「あまおう」に人気が流れています。するとその分、従来の小粒で酸味の強い品種は作付面積を減らしているわけです。けれど酸味のあるイチゴの需要が減っているわけではありません。例えばショートケーキの上に乗せるイチゴにはやはり生クリームとの相性を考えると酸味や硬さが求められますから、一定の需要があります。また、ジャムやお菓子などの加工用となると、見た目よりも、気象条件に左右されずにこの時期までにこれだけの「量」が確実に欲しい、というニーズがあります。

デリケートな世話が必要で商品価値の高い品種は、農家の方が手間ひまかけて栽培する。反対に、人間の手による農業だけでは応えきれないニーズを、植物工場がまかなう。そういう住み分けができたらいいんじゃないでしょうか。

イチゴファームをチェックするハーベストエックスの市川CEO
ラボでイチゴの状態をチェックする市川CEO。

――現在、ビジネスの障壁となっているものは何ですか?

 

いまお話ししたように、新型コロナの影響で植物工場の安定性が見直されて、業界として伸びている部分もあるのですが、ハーベストエックスの成長を考える上ではコロナによる移動制限がいま大きな足かせになっています。

本郷にオフィスを構えてやっていますが、これからロボットをさまざまな植物工場に納品していこうとすると、各工場を自分の目で見て、現場にどのような課題があるのか考え、具体的な設置スペースや作業動線なども知りたい。

植物工場には広い土地が必要ですから、地方で大規模にやっている企業が多いんですよ。移動が制限されている2020年、21年と、見学して実地に研究する機会が乏しく、実証実験がスムーズに進められないのが悩みといえば悩みです。

 

安定した食糧生産の実現は、国を支える基盤になる

 

――市川さんは、ご自身の事業で世の中にどんな変化を起こしたいとお考えですか?

 

学生のときの技術開発というのは、いい意味でも悪い意味でも独りよがりなところがあったと思います。自分が満足できればいいというスタンスで、純粋に探究心からやっていた。それが会社となると、経営的な視点も必要ですし、やっぱり自分の技術が世の中のためになってくれたらそれに越したことはないと思います。ただ、あくまでも自分が楽しんでやっているのであまり気負っているつもりはなくて、世の中の役に立ってやるぞ、っていうのはないかな。

やっぱり僕は食べることが好きで、みんながおいしいものを、10年、50年、100年後まで食べられたらいいと思っているんです。気候変動などもあって作物を十分に生産することだってこの先難しくなるかもしれません。みんながおいしい果物や野菜を味わって食べているその裏で、ロボットがせっせと食糧生産しているというイメージが僕の中にはあって、それが実現したらいいなと思います。

真剣に語るハーベストエックス市川社長
食糧生産の安定に貢献したい、と熱く語る市川CEO。

人間にとって「持続的」に必要なものに心を惹かれるんです。食べ物というのはライフラインの一つです。大げさな言い方になりますが、自動栽培の手法を確立して気象条件に左右されずに確実な収穫量を上げられたら、国の農業基盤を強化できますよね。

新型コロナの感染が広がったときに、国によっては食料の輸出を規制したところもありました。世界情勢が不安定になると、そういうリスクもあります。特に日本は輸入に頼るところが大きいので、既存の農家への支援とは別に、植物工場の強化というのは一つのソリューションとしてあるだろうと考えています。

ですから、もし植物工場関連の方でハーベストエックスの技術にご興味を持っていただけたら、ぜひお気軽に声をかけてほしいなと思います。また、一緒につくってくれる人ともどんどんお話ししてみたいですね。自分自身がソニーでインターンをさせてもらったり、本郷テックガレージに通って学んだことがとても大きかったですから、エンジニア志望の学生さんのインターンも大歓迎です。話をするだけでも、気軽にご連絡いただけるとうれしいです。(前半・了)

 

後編では、市川さんがどのようにしてものづくりの道に進むことになったのか、学生時代から起業までの歩みについてお伺いします。

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