2019/6/28

株式会社estie

株式会社estie|平井CEO

第3回東大IPC起業支援プログラムに採択された、株式会社estieの平井CEOへお話を伺ってきました。

 

事業用不動産というこれまで未開拓だった事業分野に着目し、テナント向けのオフィス探しをシンプルにするソフトウェアプラットフォームや、機関投資家向けのデータベースと解析技術の提供を行うベンチャーです。2019年夏にサービスをリリース予定の株式会社estie。様々な苦難を乗り越えてきた姿を追います。

 

「まずは、事業概要のご説明をお願いします。」
私たちは不動産テックのベンチャーで、特に事業用不動産を対象として大きく2つのサービスを提供しています。

 

1つ目は事業用不動産を探しているテナント向けのサービスです。今はオフィスを探すために、既存の検索エンジンや懇意にしている仲介会社を使っても、なかなか良いオフィスに出会うことは簡単ではない状況です。

 

そんな中、我々が工夫をしてテナントが最適なオフィスを探せるように、最新のテクノロジーを使って支援をしていきたいと考えています。また同時に、不動産会社自体がテクノロジーをうまく使いこなせておらず、営業マン個人の努力に左右される営業をしています。

 

その状況を打破するために、営業マンがテナントへスムーズに情報提供できるようなシステムの提供も行っています。2つの両輪で動かしており、2019年夏頃にサービスをリリースできる予定です。

 

住宅は何回か選んだことがある人も多いと思いますが、オフィスの場合は選んでいる人と意思決定をする人が違ったり、総務の担当者であってもオフィスを選ぶということに関してはプロでは無かったりします。

 

オフィス選びで大事なポイントは、信頼できる良い仲介会社を早く選ぶということです。Webアプリケーションを使ってスムーズに実現できるサービスを、僕らは作りたいと思っています。

 

2つ目は、「estie pro」というサービスで、機関投資家や投資ファンド、不動産ディベロッパーなどに向けて、事業用不動産のデータベース兼マッピングサービスを提供しています。

 

不動産の広さなどのハードな部分や、適正な賃料などのオペレーションの部分など、様々なレイヤーの情報を綺麗に地図上でひとまとめにして、閲覧やダウンロード、分析ができるようにしています。

 

「機械学習の技術にフォーカスを当てられることも多いですが、どの部分にそれらの技術が使われているのでしょうか?」
投資家向けのサービスで僕らが実際にやっているのは、オフィスの賃料坪単価の推定です。統計的な解析で機械学習のアルゴリズムを使うことで、高精度の分析が可能になっています。

 

加えてテクノロジーを使って解決したいのが、営業マンが持つ知識や経験の活用です。テナントに向けてどんなオフィスを提案すれば成約率が上がるのかということは、プロの営業マン達が毎日、自分たちの足を使って得た経験をもとに、頭を使って分析しています。

 

このような統計的なもの以外でも、全く違うアプローチで機械学習を使うことができると思っています。今、表に出ているものは数値解析ですが、ここで大事になってくるのは、分析するデータベースをいかに整理するかという点です。特に住宅ではない不動産の場合、情報が全然出回っていないんです。そのため、少ないデータをきちんと分析して、数字を出して予測をしていく難しさはあります。

 

これらは宮野CTOと一緒に作っていますが、不動産の言葉もわからない中でのアルゴリズムの作成において、きちんとオフィスや事業不動産をやってきたという知見と、テクノロジーを駆使してプログラムを構築できるという知見の双方が必要かなと思っています。

 

「営業マンの経験はどのように収集するのでしょうか?」
僕自身がオフィスの営業をしていたこともあり、営業の中でも暗黙的に意識している指標はある程度理解しているので、どこまで分析可能な形でデータセットに落としこめるか、チャレンジングな分野ではありますがやってみたいと思っています。

 

株式会社estieの平井CEOインタビュー

 

「貴社の体制を教えてください。」
創業者3人がフルタイムで動き、パートタイマーなどを含めると総勢では、エンジニアを中心として10名程度で事業を進めています。私平井と藤田が大手のディベロッパーに2019年3月までいて、4月からは会社を辞めてestieに専念しています。

 

基本的には私がCEOで、プロダクトや技術の全般、営業を見たり、宮野CTOとアルゴリズムを作ったりしています。宮野CTOは技術全般の責任者で、機械学習のアルゴリズムの作成やデータセットの整備、AWS(Amazon Web Services)等のインフラ設計や構築、さらには面白い新しい技術が出てきた時には、社内で勉強会を開催しています。藤田は経理や財務などのバックオフィス周りの対応に加えて、オフィス賃貸プラットフォームのestieでは実際にプロダクト開発の指揮を取りながら自らもコードを書いています。

 

「創業者の方々が出会ったきっかけは?」
僕とCTOの宮野は中学・高校の同級生で、大学も一緒です。藤田は僕の1個下のゼミの後輩で仲良くなって、その後も同じディベロッパーの会社に就職していました。藤田も宮野とは大学の同級生になるので、元々知っていた仲でした。

 

「起業しようと思ったきっかけを教えてください」
僕は前職で海外の不動産投資の仕事をしながら、一時期は会社の新規事業を作っていくというミッションを負っていたことがあったんですが、なかなか越えるのが難しいハードルがいくつかありました。そんな時にCTOとなる宮野を飲みに誘って、「何か自分達でやらない?」って聞いたら乗ってきてくれました。1年間くらいは会社に勤めながら、朝夜土日をフルに使って起業の準備をしていました。

 

ただ、最初からやりたいテーマがあった訳ではなくて、1年に5つくらいのテーマで開発したり、ユーザに試してもらったりして、estieのアイデアにたどり着いたのは、2018年の夏頃でした。他にも検討していたテーマはありましたが、何か新しいことを始めるに当たって、業界の知識やバックグラウンドなど、社会人になったからこそ出来ることをやった方が、面白いビジネスができると思いestieに決めました。

 

住宅領域は、テックのスタートアップが色々とチャレンジをしている分野ですが、事業用不動産の分野だけ穴が開いているように感じたんです。実は、世界一不動産テックが進んでいるニューヨークよりも東京の方が市場規模が大きいという事業環境もあり、私のキャリアとビジネスモデルがうまくはまりました。

 

「本番のリリース前にサービスを公開している理由は何でしょうか?」
ユーザの声を聞かないと、何が正解なのかが分からないと真剣に思っていて、小さくてもとにかく公開してリアクションをもらって次に生かしていく、という繰り返しをやっています。2018年の冬に公開をしましたが、そこから大きくサイトの形が変わっています。極端に言えば1週間後にまた大きな改善が入るかもしれないので、あえて更新した箇所の案内は出さずにやっています。

 

「サービスを公開して得られた手応えは?」
ユーザの声を実際に聞くと、営業マンでは気付けないような、「そんなこと思ってたんだ」という学びも多かったです。よくオフィス探しは面倒くさいと言われますが、それを突き詰めて考えている人は多くなく、それが私たちはできているのは良い傾向かなと思います。

 

オフィス移転に関しては、会社にとって大事な意思決定なのに、それを面倒くさいことと捉えられてしまっているので、すごくもったいないなとも思っています。アメリカを見ると、大企業が移転するとなったら、地方自治体がこぞって手を挙げるんです。そして企業も、どこに拠点を置いたら企業価値が上がるんだろうと真剣に考えます。面倒と感じてしまうとそこまで考えられないんですよね。それがもったいないです。

 

「起業して良かったこと、楽しかったことは?」
毎日24時間仕事のことを考えるようになりますし、自分たちのプロダクトがユーザにとって、業務のレベルを一歩前に進めたり、コストを削減できたりするような価値をしっかり提供できているのか、常に考えるようになりました。

 

また、宮野CTOや藤田とよく話をしているんですが、毎日文化祭の準備をしているみたいに仕事ができていて、それって本質的なことなんじゃないかなと思っています。楽しく張りのある毎日を送れています。

 

「起業してから1番つらい時は?」
起業する前なんですけど、CTOの宮野と新しいことをやろうとなってからの半年間は、お互い働いていて時間が無いこともあって大変でした。やはり大事なのは、エグゼキューション(実行)や、ユーザからの直接的なフィードバックなんですけど、それらを先伸ばしにしてひたすら開発や議論をしていました。アイデアはたくさん出ていたんですけど、実装して外に出すことを尻込みしていたため、なかなか進めないもどかしさもありました。

 

何かきっかけが無いと起業するという意思決定ができず、ずるずる行ってしまうという危機感があり、東大IPCの起業支援プログラムに応募したんです。そこで採択されたので、やるしかない状態になりました(笑)

 

「東大IPCの支援はいかがでしたか?」
プラスになった点が大きく2つあって、1つはきっかけになったということ。もう1つはペースメーカーになったということです。毎月1回ミーティングを行うのですが、支援してくれる人のために何か少しでもお土産を持っていきたいという思いがあって、それが事業を進める原動力になりました。1ヶ月進捗が無いのは死んでいるも同然ですので。

 

「最後に、起業を目指す方へアドバイスをお願いします。」
何かをやりたいと思ったら、悩む前にやらなきゃ恥ずかしいと思うような環境にするのが効果的です。やりたいと思った時ってすごく大事です。

 

僕がお世話になった東京大学の産学協創推進本部にいる馬田先生が出した「成功する起業家は居場所を選ぶ」という本があります。不動産屋的にも良い言葉なんですが、その本にも環境をどう作っていくのか戦略的に考えていくことの大事さが書かれています。

 

環境を意識して変えるということには、気持ち以上に行動を変えるという効果があるので、極端な例としては、友達を誘って乗ってきた時点ですぐに会社を作ってしまうという方法もありますね。ぜひ環境を変えて前に進んでもらいたいです。

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