2019/10/31

スマートフォンなどで利用できる店舗向けのモバイルオーダープラットフォームを提供する株式会社dinii

株式会社dinii|山田CEO

第2回東大IPC起業支援プログラムに採択された株式会社diniiの山田CEOへお話を伺ってきました。スマートフォンなどで利用できる店舗向けのモバイルオーダープラットフォームを提供する株式会社dinii。その取り組みはユーザの待ち時間を減らしたい店舗側と注文した商品を早く受け取りたいユーザ側、さらにはスタジアムなど公共的なスペースを提供する施設側のすべてにメリットを与えています。

 

株式会社diniiが提供するサービスは好評で、対象地域や店舗、業種の拡大を続けています。今回は起業のアイデア段階からユーザ拡大に至るまでの過程や起業にまつわるお話などの核心に迫ります。

 

「まずは、事業概要のご説明をお願いします。」
簡単にご説明すると、店舗向けのモバイルオーダープラットフォームを提供しています。回転率の向上や事務経費の低減をしたい飲食店が、店舗で注文を受けるのではなく、ユーザにモバイルから事前に注文・決済をしてもらうことで、課題を解決する仕組みになっています。消費者向けのプラットフォームとは違い、我々は企業にモバイルオーダーの仕組みを提供し、企業は自社のブランドを押し出す形で消費者にサービスを提供することができます。

 

「売上はどこから得られるのでしょうか?」
店舗はモバイルオーダープラットフォームを利用することで回転率を上げて売上が伸び、我々はプラットフォーム経由の売上の一部を決済手数料として店舗からいただいています。また、イートインのようにユーザの注文が既にモバイルオーダーとなっている店舗の場合は、Saasモデルとして月額利用料をいただいています。

 

「LINEデリマなどの他サービスとの違いは何でしょうか?」
LINEデリマは消費者向けのプラットフォームで、ユーザ自体が便利にテイクアウトしたいと思った時に、プラットフォームに入ってお店を決めるというように、解決するのはユーザ側が抱える課題なんですね。一方我々の場合、目の前の行列をどうにかしたい、ホールスタッフの人件費を圧縮したいといった店舗側が抱える課題を解決しています。そのため、店舗側から利用料を徴収するという点では同じモデルではありますが、我々は店舗側の課題を解決しているので、無料などにせず利用料をいただいています。

 

「大企業のモバイルオーダー参入の動きをどのように見ているのでしょうか?」
モバイルオーダーという市場は完全には出来上がっていないので、あまり意識しても仕方がないと思っています。それぞれの企業のサービスとしてではなく、飲食店におけるモバイルオーダーサービスとしてみんなで盛り上げていきたいですね。

 

「dinii様のサービスを利用する企業を見ると、スポーツ系の企業が名を連ねていますが、その理由は何かあるのでしょうか?」
あえてスポーツ市場を狙っているわけではないのですが、モバイルオーダーがどういった課題を解決するのか考えた時に、需要と供給が一時的に崩れているところに注目し始めました。すると、スポーツ会場やコンサート会場、日常的にユーザで溢れる有名店などが見つかって、その中のターゲットの1つとして現在スポーツ業界に深く入っている状況です。

 

「サッカー業界で最初にアプローチしたチームが川崎フロンターレ様と記事で拝見しましたが、どのようにアプローチしたのでしょうか?」
最初はホームページに掲載されている問い合わせ先へ電話やメールをしていましたが、新しいことを受け入れてもらいにくく、ある程度上の人に繋いでもらわないと厳しいことがわかりました。そこで友達や知人の中でスポーツチームの決裁者と繋がっている人を探して、その人経由で一緒に営業していきました。

 

「サッカーチームにサービス提供してみて、1番高かったニーズとは?」
施設と店舗とユーザの3つの観点があります。まず施設では、スタジアムのコンコースが混雑すると通路として機能しなくなるという課題意識が強くて、できるだけ混雑しない状態を作りたいというニーズがありました。店舗は、とにかく毎試合できる行列を効率的にさばいて回転率を上げて、機会ロスをなくしたいというニーズが強かったです。ユーザはスタジアムフードをあれもこれも堪能したいのに、1つ買うために30分ほど並ばないといけない。ハーフタイムならトイレにも行かないといけないし、試合にも間に合わないという状況でした。

 

「スポーツ業界に留まらず、利用店舗拡大に向けた営業戦略は?」
ちょうど作成しているところなんですが、成約率の高いルートは誰かからの紹介だというのは見えてきました。既存のクライアントであるお店からの紹介は、1番実績をわかっているし、血の通ったメッセージで他のお店に紹介してくれるというのが1番いいと思っていて、その状態をいかに作り上げるのかというのが直近のやるべきことだと思っています。

 

「紹介による利用店舗拡大は、サッカー業界において実現できているように見えます。」
そうですね。他のチームから、川崎フロンターレの試合の視察に行かせてくださいと言ってくることもあって、それをきっかけにサービスを導入するチームも物理的に広がっています。またサポーターの方々もTwitterなどのSNSでつぶやいてくれています。サッカー業界は中に入るのは難しいのですが、1度中に入って話題になると、ある程度のスピードで広がっていくなと感じています。

 

株式会社diniiCEO山田氏インタビュー

 

「現在の社内体制を教えてください。」
フルコミットしている正社員は6名で、業務委託やアルバイト・インターンを含めると10名くらいになります。正社員のバックグラウンドはほとんどエンジニアで、サービスを見ていたいという人が多く、私や竹内が営業などで取引先を回っています。

 

「起業しようと思ったきっかけは?」
創立メンバーである大友とは大学に入る前から仲がよくてプログラミングなどもしていたので、軽い気持ちで一緒にプロダクトを作ってみない?と誘って始めました。最初は全然モバイルオーダーの領域ではなくて、昔話題になったブロックチェーンの技術と高度な社会概念のようなものの実装ができたら楽しいだろうなと思ったのがきっかけでした。

 

「最初のプロダクトができるまでの期間は?」
勉強の時間を含めて3ヶ月程度で作り上げました。PoliPoliってご存知ですか?政治版のTwitterで、議員が主軸となって議論をしていく場所で、ここにトークンエコノミーが絡んでいるんです。議論の中で案件が採用された人にはトークンが渡るという仕組みで、街のことをよく考えている人ほど幸せになるんです。

 

これに近しいプロダクトを作っていて、街や政治に対する想いをトークンエコノミーに乗せることで、数値化して他人へ伝播していくものでした。作った後は実証実験をするために献身的な自治体を探して、北は北海道、南は宮崎県まで足を伸ばして行ったんですけど、結局実証実験には至らず、それが1番最初の挫折でした。自分たちがいいプロダクトだと思っていても、それを自治体の人が求めてなかったので、だったらもっと個人の強いニーズがあるものを作ろうという思いが強くなりましたね。

 

「1回目の起業の経験が、その後に生かされていると感じるところはどこでしょうか?」
自分たちがこれがいいと思ったとしても、実際にユーザが使った声や反応や仕草を見ない限りは、絶対に実装しないという意識を持つようになりました。また、技術的なやり方も1回目と2回目では大きく変わりました。初めて作ったプロダクトの時は誰も教えてくれなかったので、いわゆるスタートアップのやり方がわからず、ただプロダクトを作っていました。そのような1回目で失敗したやり方を蓄積していくことで、2回目のプロダクトに生かされたと思います。

 

「プロダクトの実証実験の際、ユーザにはどうやって使ってもらったのでしょうか?」
プロダクトの実験に賛同してくれた店舗に来ている大学の友人に、これを使えば待つ必要ないよと直接宣伝をしたり、クーポンの配布をしたりしました。ちなみにクーポンは、安さにつられて1回だけ使って終わりというユーザが多く、あまり効果はありませんでした。そういうところも学びながら検証をしていきました。

 

「実証実験をやって得られたものは?」
そもそも本郷地域は課題感が低い地域で、課題の大小が大事だというのは強く感じましたね。同じ飲食店で待つという行為でも、本郷地域くらいの待ち時間ならいいやと思うのか、人がいっぱいで飲食店が足りないような地域だともう待てないとなるのか。課題としてはみんな持っているものの、課題の耐性は地域によって違いました。

 

「実証実験の次の一手は何だったのでしょうか?」
最初はイートインの店舗をターゲットにしていたのですが、テイクアウトの方が待ち時間が長いということに気が付き、サブウェイはすごくいいんじゃないかという発想に行き着き、営業をかけて一緒に実証実験をすることになりました。するとテイクアウトにぴったりはまるということがわかって、しばらくはテイクアウトに注力しようという意思決定に繋がりました。

 

「サブウェイという大企業とコンタクトを取るのは難しいと思いますが、どのように開拓していったのでしょうか?」
ある程度の地位にいるサブウェイの方を知人に紹介してもらい、その方に社長や役員に向けたプレゼンの場を設けてもらいました。私自身が大学1年の時にサブウェイでアルバイトをしていた経験があり、その経験が好評で「実験くらいはしてみようか」という流れになりました。

 

「起業から今に至るまで、どのようにメンバーを増やしていったのでしょうか?」
ほとんど共通の友人で、例えば研究室の友人・先輩・後輩とか。東大のテックガレージ(東大生のために準備されたプログラミングや工作用のスペース)にも所属していたので、手伝ってよとか、こういう人紹介してよとか、テックガレージのネットワークも活用していました。

 

「起業してみて良かったこと、楽しかったことは?」
ほぼ全部なんですが、単純に自分達が夢とか未来とかを描いた中で、いろんな仲間が夢を共有してくれて、一緒に夢を実現しようと動いてくれることは、日々すごく楽しいと感じています。

 

「会社を経営するにあたり、これまで経験したことのない領域はどのようにカバーしていったのでしょうか?」
未然に防ぐことは全然できていなくて、今思えばこういう風にしておけば良かったということが無限にあります。アドバイスの意味を理解したつもりでも、実際は理解していなくて、後から振り返ってこういう意味だったんだとわかることが多いですね。

 

「こういう風にしておけば良かったというポイントの中でも強く感じていることは?」
新しい人を入れる時に、この人は優秀だから取るのではなくて、今求めている職種や能力、任せたい仕事内容などに適する人を入れるということですね。過去に優秀な友人に入ってもらったんですが、あまりマッチせずひどい別れ方をしてしまったことがありました。

 

「運転資金はどのように工面していったのでしょうか?」
最初は自分達の貯金を入れたり、テックガレージからいただいたプロジェクト資金を入れたり、東大IPCの支援プログラムに申し込んで得た資金を入れたりしていました。その中で、この領域でやっていけると判断して起業して、エンジェル投資家から資金調達をしていきました。

 

「東大IPCの支援を受けて助かったところは?」
似たようなフェーズや、少し先にいる学生の起業家を紹介していただくことで、有益なアドバイスをもらえたことはすごく助かりました。

 

「学生の時から起業を目指したいという方に対してアドバイスをお願いします。」
在学中に本気でスタートアップとして起業するんだと決めたら、退学することをオススメします。東大は日本で1番頭の良い大学と見られることが多くて、東大を退学したらもったいないと思われる方が世の中に非常に多いんじゃないかと思うんです。そういう方々って、実際に東大を中退した人を見ると、もったいないと思うのと同時に応援してくれるんです。東大を中退したというのはまだコモディティ化されていないので覚えてもらいやすく、身の回りの応援団が圧倒的に増えるということは身をもって体験しました。スタートアップはどうしても周囲の力を借りなくてはならないので、そういうアプローチはアドバンテージになるのでオススメです。

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