2020/5/12

ハイドロゲルの再生医療への応用を目指すバイオベンチャー

ジェリクル株式会社|増井CEO

第3回東大IPC起業支援プログラムに採択されたジェリクル株式会社の増井CEOへお話を伺ってきました。東京大学の酒井・鄭研究室の酒井教授が開発したハイドロゲル。ゲルとはゼリー状のもので身近な商品だとソフトコンタクトレンズや紙おむつなどに使われていますが、従来のものは構造が不均一で脆いという弱点がありました。その弱点を無くした均一構造のものがジェリクル株式会社のハイドロゲル。現在、ハイドロゲルの幅広い応用可能性が注目を集めており、ジェリクル株式会社はハイドロゲルの再生医療への応用を目指すバイオベンチャーです。

 

2019年10月には医工連携事業化推進事業(開発・事業化事業)に採択されるなど事業のスピードが上がってきたジェリクル株式会社。大学研究室発のベンチャーの起業モデルがそこにはありました。

 

「まずは、事業概要のご説明をお願いします。」
我々が持っている東京大学の酒井先生が開発したハイドロゲルの技術をいかに産業化していくのかということを中心に研究開発しているバイオベンチャーです。ゲルの素材のポテンシャルは非常に大きく、逆にいうと今まで物性の制御が難しいがゆえに医療で使われてこなかったという実情がありました。我々はそれを解決できる技術を生み出して臨床用開発がたくさんできるという利点があります。

 

「現在の事業フェーズは?」
今は研究開発のフェーズです。我々が開発したゲルがいかに使えるのか研究開発をして、日々動物実験をしたり、新しいゲルの開発を並行して進めたりしながら事業の勘所を見極めているところです。

 

「現在の社内体制を教えてください。」
会社のメンバーは4名です。私は経営を中心に見ていて、成田は特許と営業を担当しています。昔は東大TLOに在籍していましたね。2020年2月にジョインした鎌田はもともと酒井ラボの卒業生で某バイオ企業出身です。今は研究開発に携わっています。酒井先生はいかにゲルをコントロールして効果を出すのかという観点でサポートいただいています。

 

「今後事業展開はどのように進めるのですか?」
ゲルという素材のポテンシャルは 非常に高くて、いろんな臨床領域に使えると考えています。使えるものを1つ1つ開発していくビジネスを想定しています。ゲルプラットフォーマーというような言い方をしていて、例えば下肢静脈瘤には止血剤という使い方などがあって、色々な方向性に向かって大学と共同研究を進めています。ゲルプラットフォーマーというとVCさんに嫌われてしまうんですけど笑

 

「ゲルプラットフォーマーが嫌われるのはなぜでしょうか?」
伸びしろの問題が大きいのかなと。プラットフォーマーは基本的には自分たちの技術を早期に企業にライセンスアウトすることによって収益を得るビジネスモデルなんですけど、よく言われるのは「それって技術の安売りだよね?自分たちで開発したほうがもっと伸びるんじゃないの?」と。ただ我々のスタンスとしては、いかにこのゲルを患者さんに届けるかというのがファーストプライオリティなので、いろんな企業さんと開発をしていくことによって効果的な製品を世の中に出していきたいです。

 

「東大大学院工学部に入ったきっかけは?」
大学は金沢大学で薬学部を専攻していました。その中で感じたのは、デイリーのワークが合わず一生の仕事にするのは難しいと感じたことと、薬学部の研究は臨床からかなり遠く市場に出るのは20,30年後ということでちょっとスタンスと違うんじゃないかと思ったんです。その時に僕が一番興味を持っていた技術がDDS(ドラッグデリバリーシステム)でした。DDSで1番すごい先生の所に行こうと思って当時それをやっていたのが東大工学部の片岡先生で、入学後に研究室へ入ろうとしましたが人気であえなく落選、、。そんな時に誘っていただいたのが鄭先生でした。入ってみると研究のレベルは高く、他の研究室との交流もあって自分の視野が大きく広がりました。

 

「その後IT企業で活躍された後、退職して一路1年弱ほど世界一周の旅へ出て日本に帰国されました。その後研究室に戻るきっかけは?」
日本に戻ってからはフリーコンサルをしていました。みなさんから声をかけてもらって仕事はたくさんありましたが時間もたっぷりあって、Facebookに「暇や〜」みたいなことを書いていたんですけど、酒井先生が「暇ならちょっと来ない?」と声をかけていただいて。僕も酒井先生に会いに行きたいと思っていたので、ちょうどいいタイミングでした。

 

「酒井先生は事業化しようと思われていたのでしょうか?」
酒井先生はポケモンみたいに、「キミに決めた!」みたいなスタンスだったんですけど、ちょっと待ってもらいました笑。いろいろデータを見せていただいて、誰のために会社をやるなどのコンセプトをある程度決めてからやらせてもらいました。最初からやる、やらないと判断せずにいろいろとまずは話を聞くことに注力しました。

 

「バイオベンチャーをやろうと思ったきっかけは?」
人の人生に影響を与えるとか、人を救うとか、社会貢献性の大きい事業をやりたいとずっと思っていました。いつか難易度が高いと思っているバイオの領域に踏み込むことはあるんだろうなと考えていて、今自分ができるチャレンジの中で1番リスクが高くできるものがここだったという感じですね。

 

ジェリクル株式会社CEO増井氏

 

「起業までの準備は何を?」
まずはお金、あとは色々調べる必要があったので知識。それと一緒にやれそうな人を探すというところですね。結局はヒト、カネ、モノです。これに集約されるかなと。

 

「起業してから2ヶ月で東大IPC起業支援プログラムに採択されました。」
実は、東大IPCさんへの応募は鄭先生が勧めてくれたんです。我々として1番最初にすべきことは、臨床においてゲルのポテンシャルと市場性、ターゲットを早急に定めることで、そこをひたすらやった2ヶ月間だった気がします。

 

「東大IPCの支援は?」
お金とビジネスモデルの壁打ちがメインでした。僕はバイオといっても知識が少なかったですし、資金調達をしたことも無いので、僕の考えの精度が低かったり、間違っていたりすることが多くて少しずつ修正をして成長できたのかなと思っています。あとは、資金調達をする上での投資家へのアピールの仕方や僕がプレゼンした内容で抜けている点、懸念点を指摘していただきました。

 

「資金調達の考え方は?」
今は助成金の採択を目指しています。初期はいろんなVCさんと話をしていたんですけど、VCさんはファンドの期限があるので、事業化まである程度の時間が必要な我々としては、資金調達を今の時点ですることは適切でないと判断しました。VCさんからの資金調達はもう少し後のフェーズですね。

 

「2019年10月に医工連携事業化推進事業(開発・事業化事業)で採択された際のテーマは?」
我々のゲルは止血の効果があって、例えば血がたれているところにゲルをかけると血液と反応することによって血が止まるんです。血液が止まりにくい患者さんやどこから血が出てくるかわからないという場合でも、全体的にゲルを振りかければ血を止めることができる止血剤の開発というテーマです。

 

「事業に採択された要因は?」
大きく3点あります。1点目は基礎的なデータを蓄積してバックグラウンドを固めておくということと、2点目は臨床でこれは使えそうだぞと思わせられるだけのデータを揃えておくということ。3点目は自分たちの大義や臨床におけるペインをわかりやすく資料化してプレゼンすることが重要じゃないかなと思っています。東大IPCコミュニティの中にも助成金を多く採択している方がいてアドバイスをもらいに行ったこともあります。その時には、「ワイドショーのように書きなさい、小学生が見てもわかるようにちゃんと重要なところを強調して」と言われてとても参考になりました。

 

「起業してよかったこと、楽しかったことは?」
今のところ僕らが会社を立ち上げることによって、損をしている人が本当に誰もいないなと思っています。自分が起業するということは、ある意味で自分のエゴでもあり、患者さんを救うというメリットもあると思うんですけど、僕は自分のやりたいことができているし、従業員や先生のすごい実力も見ているし、みんな楽しく働いているし。先生も論文数や特許数がバンバン増えているんですよね。そういういい連鎖が起きてみんなハッピーになってるんじゃないかなって個人的には考えています。でもやっぱり僕らが最終的にハッピーにしなきゃいけないのは患者さんなので、そこに向けてのアプローチは非常に重要だなと思っています。

 

「起業して苦労したことは?」
毎日大変ですね。学ぶことは多いし、分からないことは多いし、お医者さんの先生も含めて頭のいい人も多くて変なことは言えないし。役員報酬も僕は会社から出せてないんですが、それは覚悟してやってるんで想定の範囲内ではありますね。技術の前提としていた1人の先生の半年のデータが飛ぶこともありましたが、それも絶対に起こりえることなので。それで辛いなんて言ったら他の起業家に顔向けできないです。

 

「起業を目指している方、起業になかなか踏み出せない方に向けてアドバイスをお願いします。」
僕は起業家の中でも人生波乱万丈だと思っていて、もっと頭が良かったらとか、実力があったらある程度最初にリスクを見つけて避けられることってすごいたくさんあったと思うんです。でも自分の人生を振り返ってみると後悔してる事ってないんですよね。自分がやりたいことをずっとやっていて、自分ができるベストを目指して、関わる人の幸せを常に願っています。迷っているけど自信があるんだったらやるべきです。実際、僕は何回もどん底に落ちていますけど、それで人生がリセットしたとか、レベルが下がったなんてことはありません。やりたいならやる。迷っているならやる。これが1番のアドバイスかなと思います。

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