東大IPC

Story

東大IPCでは、ベンチャー投資だけでなく、「東大IPC 1stRound」という 創業3年以内の起業家や起業前のチームに対し、
事業資金・ハンズオン支援・東大やパートナー企業のリソースをZero Equityで提供するプログラムを提供しています。
採択先に対しては、ビジネス推進から資金調達まで東大IPCが並走して支援します。
創業までの経緯、どのような支援が実際にあるのか、起業家たちに語っていただきます。

住み続けられる地球を、EVの充放電システムで「屋根から」創る

第4回1stRound支援先の一つである株式会社Yanekara。「地球に住み続ける」ことをミッションに掲げ、2020年6月に会社を設立。創業メンバーの松藤氏、吉岡氏で事業開発を進めながら、東大・大学院の学生でハードウェア/ソフトウェアのエンジニアを集め、2021年9月には5500万円の資金調達を実現。脱炭素化の未来に向け、プロダクトのブラッシュアップを加速させている。その事業の中身とそこに至った思い、2人がビジョンやアイデアを事業化してきたプロセスについて聞いた。

屋根にある太陽光パネルとつないで、EVに蓄電

――まず、Yanekaraの事業は、どのような社会課題を解決するものなのですか。
松藤:再生可能エネルギーをこれから日本で最大活用していくことを目標とし、そのために電気自動車(EV)の充放電システムを開発しています。
これから電気自動車をいろんな企業や自治体が導入していくときに、複数台をつなぐと建物単位での電気容量を超え、設備改修の手間やコストが発生してしまいます。これは3台、5台などとまとめて企業で導入する際には、必ず発生する課題となります。地域単位でも同様で、その地域での変電所の容量に限りがあるため、家屋でブレーカーが落ちるように地域でも電力供給が行えなくなりかねません。
そこで複数台のEVを1基の機器で充放電できるハードウェアを自社で開発しています。屋根に設置した太陽光パネルでつくった電力を直接EVに充電できるもので、電力変換ロスを従来の約1/3に削減できるため、エネルギーを最大限活用でき、コストも抑えられるのです。

吉岡:EVを太陽光エネルギーでまかなえれば、モビリティを脱炭素化できることになります。また、太陽光とEVがセットになれば、たとえば自然災害のような非常時にもその地域では最低限電気とモビリティーは自給できます。こうした拠点を日本全国に広げられれば、日本全体の災害レジリエンスが向上するでしょう。
つまり、脱炭素化の推進により気候変動の抑制ができ、かつ、すでに起きている気候変動がもたらす自然災害に対しても適応力の高い社会づくりに役立つわけです。

2019年元旦に決意表明し、ビジョンを策定。 アイデアの決定は半年後

――2020年6月に会社を設立されていますが、どのようにして起業に至ったのですか?

松藤:創業メンバーである私たち2人の出会いは2018年です。当時、私は東京大学の2年生で、理Ⅰから後に工学部電気電子工学科に進みますが、脱炭素の実現を技術面から探るゼミにおり、2050年の電力システムというテーマで発表報告したときに、後輩が興味の近いエネルギッシュな人として吉岡を紹介してくれたのです。そこで、当時ドイツの大学で学んでいたの彼とオンラインで意気投合し、日本のエネルギーについて隔週で勉強会をやるようになりました。そうしたところ2019年の元旦に電話で「一緒に再生可能エネルギー100%の未来を創ろう」と決意表明され、そこから今に至る本格的な活動が始まったのです。

 

吉岡:私のほうは、幼少から家族とアウトドアに親しみ、環境問題に興味を持ちました。調べるとドイツが環境先進国だというので留学を志し、日本で高校を卒業すると環境都市として有名なフライブルクの大学に進学しました。そこで学ぶなかで、エネルギーが温室効果ガスをもっとも排出する大本になっており、そこを脱炭素化できれば社会のクリーン化を大きく前進させられると強く思うようになります。途中で1年間イギリスのウォーリック大学でエネルギー政策を学び、北欧も旅するなどして各地の再生可能エネルギーの市民活動を取材しますが、再生可能エネルギーの量的な導入のスピード感を増すためにテクノロジーを活用するなど、新たな解決策の必要を感じました。
そんなときに、エンジニアである松藤と出会い、具体的に事を起せると思ったのです。元旦の決意表明は、渡欧して学んで2年半、もう行動を起こす時期だと痛感した、そんな心の叫びでした。

――なるほど。吉岡さんは技術面を必要とし、技術から入った松藤さんは何をやればよいのか、実情を知りたかった。互いに求めている点がマッチしたわけですね。そこから、次は何をされましたか?

松藤:まずビジョンを1ヵ月ほど話し合って決めました。それから、ビジネスアイデアをいろいろ考え、半年後の6月くらいに出てきたのが、EVという大きな蓄電池を使ってそこにうまく太陽エネルギーを蓄え、必要なときに使えるようにしようというアイデアだったのです。
ただ、いきなりEVを扱うには知見もなかったため、まず電動自転車の電池でトライすることにして、東京大学産学協創推進本部が運営する、本郷テックガレージという開発施設で予算をいただきながら、東大の屋根に太陽光パネルを置いて2ヵ月実験を実施しました。それを指導教官が見て、電気自動車のスマート充電や電力システムを研究されている、当時東京都市大学工学部准教授の太田豊先生(現在は大阪大学工学研究科特任教授)を紹介され、2020年1月に私たちのアイデアを説明させてもらったのを機に、その研究室でEV版のプロトタイプを作らせていただきました。そうしたサポートを得て少しずつ形になってきたこのアイデアが2020年度の未踏アドバンスト事業に採択されることとなり、それが決まった6月に会社を設立したのです。

――半年ごとに着実に、次のステップへと駒を進められた感じですね。

松藤:大事なのは、私たちは起業をしたかったわけではなく、再生可能エネルギーをよりうまく使える日本社会を目指していただけなのです。ですから、最初は大学の中で技術研究プロジェクトとしてやっていました。いつでも会社にする選択肢はありましたが、フェーズによっては大学でやるほうがいい場合もあるものです。未踏で採択が決まり、その流れでいろいろな企業とお話するなかで、この技術が社会に求められており、ユーザーもつきそうだと実感しました。それならば会社を作り、スタートアップとして一気に技術を広めるほうが社会のためになると考えて、起業を選んだということです。

「モメンタム」を維持して、製品&事業開発を軌道に乗せる

――声を聞き、社会ニーズがあるかを探れたのが大きかったのですね。ニーズがないと起業に踏み切りにくいし、投資も集められないものです。

吉岡:本郷テックガレージに所属していた頃から、Yanekaraが他のチームと違っていた点が2つあります。まず、開発にかけた時間の長さと密度です。春休みはフルに没頭しましたし、東京都市大学での開発も毎日十数時間やりました。もう1つは、顧客インタビューを多数行ったことです。未踏に申請するまででも約30件、大企業から中小企業、EVのユーザーなどにアイデアを説明し、どんなペインがあるかを聞いてきました。その2点で、他のチームより勝っていたと自負しています。
アイデアを形にする時期には、そのように密度濃く活動することが大事です。たとえば開発がうまく進まないときも悶々と考え込まずに、とにかく手と足を動かすことを心がけました。ほかの開発項目で手を動かしたり、別のアプローチを試みたり、顧客の話を聞きに行くほうに時間を割いて足を動かすなどですね。

 

松藤:動きを止めていたら勢いが削がれ、起業にも至らなかったかもしれません。これは本郷テックガレージや産学共創推進本部の皆さんに教えていただいたことですが、Yanekaraでは「モメンタム」を大事にしています。プロジェクトの勢い、動いている感じを途切れさせないということですね。スタートアップにとって、このモメンタムを維持することが何より重要です。

 

―そうしてプロトタイプができ、ユーザーの声も集めて2020年6月に会社を設立後は、どのように活動をしてきましたか?

松藤:製品開発と事業開発を並行して注力しています。
具体的に製品開発では、充放電器のハードウェアとソフトウェアの開発を進めており、2020年秋には実証実験として福岡県八女市で地元企業の協力を得て、太陽光パネルとEV2台を用いて半年間、データ収集を実施。それにより技術的課題が明確になりました。そのため、2021年に入って東大IPCの1stRoundやNEDOのEntrepreneurs Program(NEP)に採択されて余裕ができたときに、その技術的課題に対応できる新メンバーを加えました。ハードウェアとソフトウェアそれぞれのエンジニアで、みな東大生です。売上が立つまでは社会人の社員を引き受けるのは荷が重いですし、何よりカルチャーがフィットするので、自然と東大関連のメンバーが集まりました。それで実証実験の頃から一段レベルアップして、充放電器とクラウドが製品化できつつあります。

 

吉岡:インターンを含め、16人の良いチームができました。うちハードウェアの開発チームは、Yanekaraの拠点である東大柏ベンチャープラザで、ソフトウェアの開発チームは基本リモートワークです。バックオフィスは私が3名のインターンと担い、エンジニアが気持ちよくものづくりを行える環境整備に努めています。
また、事業開発として、EVの大規模ユーザーとなる大企業を中心に、営業活動も行っています。これは創業者の役目ですので、松藤と私の2人の大事な仕事ですね。

起業を考える前にまず、成し遂げたい目標をクリアにすべき

――東大IPCには、何を最も期待されていますか。

松藤:Yanekaraは東大コミュニティからの支援にずっと助けられてきています。本郷テックガレージでのプロジェクト初期から東大IPCの方たちが、顧客インタビューに行く前に 資料をレビューしたり、未踏に応募するときも壁打ちしてくれました。まだ学生で社会経験がなく、企業やVCとの接点もないなかで、通用するように鍛えていただいたのです。それは今も続いていて、プレゼン資料で細かいニュアンスのチェックや、自分たちが意図していない伝わり方をするような箇所を指摘してもらえるのは、本当に有難いですね。

 

吉岡:さらに営業面でも、パートナー企業などのネットワークをうまく活用させていただき、より大きな実証実験なども今後行っていければと思います。また、製品化を目前にした今のフェーズでは、学生だけでなく経験豊富なエンジニアの採用も行っていきたいので、東大IPCのアセットを体制強化に役立てたいです。2021年9月には東大IPCを通じて資金調達ができましたので、積極的な人材採用や充放電器の実証実験・量産準備により注力していきます。

――最後に、起業したい方へのアドバイスをお願いします。

松藤:起業は手段でしかないので、その前にまず大事なのは、成し遂げたい目標をクリアにすることです。そのうえで、それを実現するにはスタートアップでやるか、大学での研究か、NPO/NGOか、リソースの豊富な大企業に入ってやるのか。手段は何通りもあって、その1つが起業なわけです。そして、起業を選んだときには 東大IPCのサポートはとても手厚く、日本では右に出るものはないと思います。そうした環境があることを知って、活用してもらいたいですね。

 

吉岡:周りの後輩からも起業に憧れを持ってよく相談されますが、最初にビジネスアイデアを考えていたり、こういった技術があるのでこれを使って何かできないかといった出発点の人が多いと感じます。ですが最初の段階ではアイデアや技術以上に大事なのが、ビジョンです。強い原体験によるものなど、どんな苦難があってもそこを目指し続けることができると感じさせるものですね。それに共感してくれる仲間は、良いチームになります。言い換えれば、自分の時間をこの人たちと使って具体的に何かやってみようと思ってもらえることが大事。そんな魅力あるビジョンを、まず考えてほしいです。

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