2024/4/15

「ミリ波×メッシュネットワーク」で、5G、6Gの通信環境を向上&低コストに

株式会社Visban | 代表取締役 桒田良輔

2023年度の1stRound支援先の一つである株式会社Visban(ヴィスバン)は、2022年9月に設立し、通信のミニ基地局をガラス基盤で作る、低コスト&高信頼性のミリ波ネットワークデバイスの開発に取り組んでいる。この度、創業者・取締役の桒田良輔氏に、事業の特徴や起業の経緯、1stRoundで役立ったこと、今後の展望などを聞いた。

高周波の熱にも強い「ガラス基盤」のデバイスで、世界をリード

―まず、Visbanの事業について教えてください。

桒田:超高周波であるミリ波は同時に送信できる情報量が多く、高速で通信できるため5Gで使われますが、直進性が高く遠距離に届きにくいという物理特性があります。弊社では、ビルの屋上などに設置された基地局から、建物内で使われるスマホなどにピンポイントで電波を届けるデバイスを作ろうとしています。高機能なwi-fi中継機のような10cm×20cm大のデバイスで、電波の贈幅やノイズカット、ビーム・フォーミング、ビーム・ステアリング機能を付加しながら、電波を25-50mまで飛ばすことを目指しています。

―御社ならではの技術面の特徴は何ですか。

桒田:電子・電化製品に入っているプリント基板(絶縁層の板に導体の配線を配置させた部品)の多くは樹脂製ですが、ミリ波は高周波のため部品が熱を持ちやすく、基盤と部品の熱膨張係数が異なると破損や故障が起こりやすいという問題があります。そこで弊社では、部品と熱膨張係数が近い「ガラス」で基板を作ろうと考えたことが特徴です。

ガラスを使うメリットは他にもあります。普通の電波は電線やコード(電線)の全体を使って信号が走りますが、高周波のミリ波では導体の表面しか走りません。そのため、樹脂製基盤の凹凸をなぞると通信距離がすぐ倍になってしまいます。しかしガラス製基盤なら表面が滑らかなので、通信距離を最短にできるのです。

―それだけ優れた基盤材料になり得るガラスが、これまで使われなかったのはなぜでしょうか。

桒田:同様の効果を狙ったセラミック製の基盤はありますが、通信とガラスを結びつけて考える人はいなかったからでしょう。弊社は創業メンバ-全員が半導体と通信、そしてディスプレイに通じているため、ガラスを使うのは自然なことでした。そして、2023年9月にインテルが、次世代のIC・パッケージング技術としてガラス基盤を採用すると公表したことで、ガラスを使うことへの懐疑的意見がなくなりました。まさに弊社にとって追い風ですね。

―ガラス基盤というアイデアで先行した御社の、ビジネス面での強みを教えてください。

桒田:ディスプレイの潮流が有機ELとなり、液晶ディスプレイメーカーのほとんどが中国企業となるなか、弊社では私が社外取締役を務める株式会社ジャパンディスプレイと大変密接な関係を築き、ナショナルセキュリティに関わる通信の世界で、ガラス基盤を展開するための安定的なサプライチェ-ンを確保できました。

また、既存の基地局は1機で半径300-400mのエリアをカバーしますが、弊社のデバイス100-150個をメッシュでNetwork化することで、それを代替できます。コストは基地局1個が3000万円なのに対し、弊社デバイスは1機5万円を想定しており、500-750万円、つまり4分の1から6分の1の投資で済むのです。

2人のメンタ-が、投資家目線の厳しく的確な指摘で事業を鍛えてくれた

―弊社の設立は2022年9月ですが、起業に至った経緯を教えてください。

桒田:Visbanは元々イギリスで設立された会社で、創業者のエス・ビー・チャとアロキア・ネイサンの名前が社名の由来です。2人とも半導体や通信、ディスプレイという領域の高名な博士であり、多くの特許を保有し、起業経験もあります。私自身も日米の大手企業やスタ-トアップでの経験があり、欧米のビジネスに通じながら、日本やアジアの市場にも詳しいため、当初は彼らのビジネスを手伝う立場でした。

高周波のミリ波で使われる材料や部品は、日本の製造業が非常に強い領域です。そこで開発や生産ラインの確保のために、その技術や能力をもつ日本企業とのパートナーシップが多々必要であり、その関係構築を私が担っていました。やがて、材料・部品の調達から製造パ-トナ-まで、全てを日本企業が占めるようになったため、イギリスを離れて日本法人を設立しました。その2022年9月のタイミングで私もフルコミットして、日本での共同創業者となったのです。

―その後、2023年度の第8回1stRoundに採択されていますが、応募した目的を教えてください。

桒田:Visbanへの投資可能性を東大IPCに相談したのがきっかけでした。もともとイギリスの会社なので、まず1stRoundに応募して人々の目にさらされることを勧められ、同年12月に応募しました。そこで150社近くの中から採択企業8社に選ばれたのです。

―1stRoundの支援内容では、何が役立ちましたか。

桒田:創業期に必要な支援が多々得られました。たとえば、人材でこういう分野のコンサルが欲しいといえば適切な人につないでもらえましたし、弁護士や会計士はもちろん、東大IPC以外のVCや大企業も紹介してもらえました。

また、実際に企業を回ってみて、東大IPCへの信頼度が高く、そこで採択されたことで弊社への高い評価もいただけていると痛感しました。東大IPCは中長期でスタートアップを見ており、産業のプラットフォームとなる事業を支援していこうという姿勢が明確です。それが、Deep-Tech、Hard-Techベンチャー企業である我々が、大企業から高評価を頂けていることにもつながっていましたね。

―そのほかに、1stRoundで役立ったことはありますか。

桒田:1stRoundではメンターが2人つくのですが、その第三者目線で鍛えられた6ヵ月間が、その後の資金調達に本当に役立ったと感謝しています。ガラス基盤を使うことやメッシュネットワークについて、技術面での専門家ではない彼らに分かりやすく伝えるのは、投資家へのプレゼンの良い予行演習になりました。また、メンタ-は投資判断や事業の将来性のキ-となるポイントを上手く指摘してくれます。温かく見守りながらも、厳しいことも言われた6ヵ月間はまさにインキュベーション期間でした。これを終えて外に出ると、当時メンターに指摘されたような厳しい質問が矢のように飛んできて、答えられなければ終わりというような世界が待っていました。

より早い社会実装を目指し、IPOではなくバイアウトを選択

―今後の事業展開はどのように考えていますか。

桒田:ガラス基盤のデバイスによるメッシュネットワークで、基地局を仮想的に置き換えていくなかで最も注力すべき、メッシュネットワークのプロトコルおよびソフトウェア作りに資金を投入していきます。最終的に目指す世界感は、光ファイバーやwi-fiを介することでそのパワーを無駄にすることなく、5Gや6Gを通信キャリアが送信したそのままのパワー、品質で、どんな場所にいるユーザーにも届けることです。

そしてイグジットについてはIPOではなく、企業へのバイアウトを3~4年後に考えています。それまでに必要な特許を取得し、実証実験をある程度まで終えるイメ-ジで、その先は大手企業に任せるほうが、社会実装の実現が早いと考えるからです。そもそもアメリカ市場では、スタートアップのうちIPOするのは5~7%で、9割以上がM&A。弊社もIPOには固執せず、企業が買いたくなるような価値のあるレベルになるべく早く持っていくのをゴールとしています。

―日米のビジネスシーンをよくご存知の桒田さんにとって、日本で起業して感じられたことがあれば、教えてください。

桒田:オープンイノベーションを考えると、大手企業中心の社会である日本では、いったん大手企業と契約書を交わせば、たとえば共同開発だけでなく最後の品質管理に至るまで親身に助けてもらえます。アメリカでは、マネジメントが変わればいきなり関係も切れるようなドライさがあり、台湾や中国も同様で、ビジネスとして成果が出なければすぐ見捨てられるでしょう。こうした、大企業の懐の深さや人材・特許などリソ-スの豊富さを含め、日本はスタートアップにとって温かい環境だと感じました。

また、人材は日本に限る必要はないとも思います。グローバル市場に展開するときに、日本の法人であることにメリットを感じてもらえれば、海外の優秀なCxO人材なども呼び込めるでしょう。そういう人材と組むことで、グローバル市場に打って出やすくなります。

―最後に、起業を考える方へアドバイスをお願いします。

事業アイデアを考えるときには、このシーズをどう生かそうかと技術ドリブンになりがちですが、大事なのは課題ドリブン。世界に共通するような大きな社会課題を解決していこうという姿勢やビジョンだと思います。弊社が扱うミリ波も、国という障壁はありません。これでいこうと決めるまで3人で話し合ったときも、グローバルな社会課題を解決する前提で、自分たちの得意分野が生きる分野を考えました。そうして解決すべき課題やビジョンが決まると、不足しているものや人材などが明確になり、行動しやすくなります。

技術とビジョンがかみ合うと大きく前進できます。そのインキュベーションのために、1stRoundのような機会もぜひ活用して欲しいですね。

 

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