2022/12/7

カーブアウトとは?メリット・デメリット、手順・スキームを解説【事例あり】

カーブアウトとは?

カーブアウトとは?

カーブアウト(英語:Carve-out)とは、経営戦略の一環として、親会社が子会社や自社事業の一部を切り出し、新しい会社として独立させる行為を意味する言葉です。

欧米では事業ポートフォリオ(手掛ける事業の構成)をスピーディーに入れ替えるための手段として用いられるケースが多い一方、近年の日本ではベンチャーやスタートアップを創設する手法として、カーブアウトの活用事例が増えています。

大企業の中核から外れた技術・ノウハウなどを切り出し、親会社による出資と外部資本の注入を組み合わせることで、新規事業の育成をスピーディーに進めることが可能と言われています。

なお、カーブアウトと混同されやすいビジネス用語に、スピンアウト(英語:Spin-out)およびスピンオフ(英語:Spin-off)が存在します。スピンアウトとは、親会社から資本の供給を受けることなく、完全に独立した状態で新たな企業を立ち上げる経営手法です。カーブアウトとは違い、独立した企業は親会社から資金援助を受けなくなる点に大きな特徴があります。

また、スピンオフとは、親会社との資本関係を維持した状態で、独立企業を立ち上げる経営手法をさします。カーブアウトとは異なり、独立した企業は親会社の現物出資によって経営され、外部からの資金調達を受けない点が特徴的です。

ここからは、カーブアウトを実施するためのスキーム(手法)として、以下の2つを順番に解説します。

  • 会社分割
  • 事業譲渡

会社分割

会社分割とは、M&Aスキームの1つで、既存の会社を他の既存の会社または新設する会社に分割する行為のことです。カーブアウトにおいては、既存の会社の権利義務の一部を新設する会社に移転する方法を取るのが一般的です。

会社分割では、既存の会社の権利・契約・許認可などをまとめて移転できるため、新設する会社が個別に契約の巻き直し・許認可取得のやり直しなどを行う必要は原則としてありません(ただし、後述しているデメリットの項目に詳細をまとめておりますが、契約内容や業界によっては、契約の巻き直し・許認可の再取得などが求められる場合もあります)。

また、従業員も引き継がれるのが一般的であり、手続きが比較的スムーズに進みやすいです。

事業譲渡

事業譲渡とは、M&Aスキームの1つで、会社(譲渡側)が事業の全部または重要な一部を他の会社(譲受側)に譲渡する行為のことです。カーブアウトを行う際は、自社の中核ではない事業や不採算事業などを相手先企業に譲渡するのが一般的です。

事業譲渡の場合、会社分割とは違い、会社の権利義務の一部が相手側に包括的に譲渡されるわけではありません。そのため、個別の契約の巻き直しや許認可の取り直し、従業員との雇用契約の締結などの実施が求められます。

また、転籍に同意しない従業員が退職してしまうリスクが伴います。

M&Aについて詳しく知りたい場合は、以下の記事をご確認ください。スタートアップにおけるM&Aの位置付けやポイントを中心に解説しています。

スタートアップM&Aのポイント、課題と対策【事例あり】

カーブアウトする理由

ビザスク社主催のイベント記事「東大発VCの投資事例から学ぶ!新規事業を成功させる、カーブアウトの可能性」において、東大IPCの投資責任者である水本尚宏は、カーブアウトを行う理由として「現金化したいため」「戦略が不一致であるため」「そうせざるをえないため」の3点を挙げています。

1つ目の「現金化したいため」は、事業ポートフォリオの整理を通じて売却して現金を獲得し、他の事業に投資するためにカーブアウトを行うケースです。

2つ目の「戦略が不一致であるため」は、元会社が自社の本業に近い事業に対してさらに投資を行うためにカーブアウトを行うケースで、創薬会社で多く見られます。

3つ目の「そうせざるをえないため」は、子会社がカーブアウトを望んで親会社を説得し、カーブアウトを勝ち取ったケースです。

水本が登壇したオンラインイベントのハイライトレポート全文はこちら

東大発VCの投資事例から学ぶ!新規事業を成功させる、カーブアウトの可能性|ハイライトレポート

カーブアウトのメリット・デメリット

カーブアウトのメリット・デメリット

本章では、企業がカーブアウトを行うことで生じる可能性のあるメリット・デメリットを順番に解説します。

メリット

まずは、カーブアウトの実施によって期待されるメリットの中から、代表的な3つをピックアップし、順番に解説します。

選択と集中ができる

カーブアウトにより切り出される事業の多くは、将来的に大きな成長が見込まれるものの、現状は主力事業として扱うことが難しい事業です。カーブアウトでは、こうした事業を別の企業に任せられるため、親会社は残された本来の主力事業に経営資源を集中させられます。これにより、事業の成長スピードが加速すれば、企業価値の向上や利益の増加なども期待できます。

また、カーブアウトを通じて設立された会社側でも、事業に専念しやすくなります。一般的に、大企業には既存事業に最適化された組織・文化が根強くあり、それに適したメンバーが集まる傾向があります。そこで、カーブアウトを通じて会社を設立し、親会社とは別の環境を作ることで、組織・文化を一新でき、新たな事業を集中的に進めることが可能です。

外部から資金調達ができる

カーブアウトにより設立された会社では、外部から融資や資金援助などを受けることが可能です。資金調達だけでなく、会社を運営するうえで必要不可欠な人材・技術などの経営資源を外部から仕入れられるため、事業の成長が大きく促進されます。

カーブアウトにより設立された会社が将来的に有望である場合、外部から多くの資金を集めることができ、親会社の事業の一部門にとどめるよりも遥かに大きく成長させられる可能性もあります。

親会社の経営資源を活用できる

スピンアウトとは違い、カーブアウトでは、親会社と新会社との間に資本関係があります。そのため、カーブアウトによって設立された会社は、親会社の経営資源を活用しながら、事業の成長を図ることが可能です。

デメリット

続いて、カーブアウトの実施によって生じるおそれのあるデメリットの中から、特に問題となりやすい3つをピックアップし、順番に解説します。

意思決定が煩雑になる

カーブアウトを通じて設立された会社では、外部から出資を通じた資金調達を行えるメリットがある一方で、出資に伴い外部の持株比率が高まるほどに経営に介入されるリスクが高まります。

外部から経営に介入されると、意思決定のプロセスが煩雑化し、事業の推進スピードが低下するおそれがあります。こうした事態を避けるためには、株式を用いた資金調達(例:エクイティファイナンス)の実施にあたって、持株比率を考慮することが大切です。

エクイティファイナンスによる資金調達について詳しく知りたい場合は、以下の記事をご確認ください。

エクイティファイナンスとは?資金調達でのメリット、デットファイナンスとの違い

人材不足に陥る可能性がある

カーブアウトの実施にあたって新会社に投入される人材は、親会社からの転籍者となるのが一般的です。カーブアウトでは、たとえ親会社と資本提携していても、新会社は完全な独立法人となることから、親会社からの転籍者の中には、転籍を望んでいないにもかかわらず転籍を余儀なくされた人材もいます。

こうした人材の中にとっては、これまで描いていたキャリアプランに変更が生じることになるため、場合によっては離職を希望する社員が発生することもあります。

つまり、カーブアウト実施により離職率が上昇する可能性があることから、リスク軽減のためにも社員のモチベーションを向上させる施策(例:取り組みや成果にインセンティブを設定する、キャリアアップのプラン・将来像を明示するなど)を講じることが望ましいです。

許認可の再申請

カーブアウトにより設立された新会社が、親会社から引き継ぐ形で許認可を要する事業を行う場合、親会社から許認可を承継しなければなりません。

このとき、自動的に許認可が引き継がれる事業の場合(例:浴場業、クリーニング業など)は、所定の機関に対する届出が求められます。

また、契約内容や業界によっては、上記の手続きに加えて、所定の機関から承認を受けることも求められます。例えば、一般旅客自動車運送事業の場合は国土交通大臣による認可が、ホテル・旅館営業の場合は都道府県知事による承認がそれぞれ必要です。

その一方で、許認可の承継が認められず、新規取得が求められる事業の場合(例:建設業、宅地建物取引業など)は、事業の開始当初から許認可を受けられるよう、あらかじめ所定の手続きを進めておくことが大切です。

カーブアウトの手順

カーブアウトを進める際の手順は、大まかに以下の5つに分けられます。

  1. 親会社と綿密に話し合い
  2. スキームを決める
  3. 譲渡するものとしないものを整理
  4. 会計管理情報を調整
  5. 適時開示

それぞれのステップを順番に解説します。

①親会社と綿密に話し合い

まずは親会社と綿密に話し合い、カーブアウトの実施について納得してもらう必要があります。なぜなら、カーブアウトにより設立された会社は、親会社から経営資源の提供や許認可の承継などを受けることから、親会社と引き続き良好な関係を築いていくことが望ましいためです。

ここでは、「事業を成長させるうえで必要であるためにカーブアウトを実施したい」旨を、親会社の経営陣に対して丁寧に伝えることが大切です。

②スキームを決める

次に、親会社との話し合いを通じて、カーブアウトを行うためのスキームを決定します。前述のとおり、カーブアウトの際に採用される主なスキームは、会社分割と事業譲渡の2つです。

それぞれメリットとデメリットの双方が存在するため、自社に適したスキームを採用することが大切です。スキームの選択に際して不明点があれば、企業経営に関する専門家に相談するのも良いでしょう。

③譲渡するものとしないものを整理

続いて、カーブアウト後に独立する新会社に対して譲渡するものとしないものを整理します。このときの検討要素の代表例は、以下のとおりです。

  • 従業員との雇用関係
  • 分割後の従業員の処遇(役職、待遇)
  • 各事業部を構成する資産や負債
  • 取引上の契約関係
  • 知的財産の取り扱い

④会計管理情報を調整

その後は、カーブアウトの実施にあたって対象とされる事業部の会計管理情報を調整します。特定事業のみの会計情報をまとめている企業は少ないため、会計管理情報を整理し、親会社と新会社それぞれに関連する情報を振り分けるプロセスが求められるのです。

このときには、管理会計データから部門別損益計算書や貸借対照表などを参考にして、「カーブアウト財務諸表」と呼ばれる財務諸表を作成するのが一般的です。

ベースとなる会計情報の精度が高ければそのまま応用できるものの、固定資産の処理・分裂範囲の調整・実態面の検討などを要するケースが多く、基本的には適宜調整が求められます。

⑤適時開示

上場企業や公開会社などが事業を譲渡するカーブアウトでは、投資家に対して投資・経営の判断材料を提供することを主な目的として、適時開示の実施が求められます。適時開示とは会社の重要情報を開示するプロセスで、企業の決定事項や企業に生じた事項・決算情報などを開示します。

また、カーブアウトを行う際は、原則として株主総会の決議が必要です。計画通りにカーブアウトを進めるためにも、ゆとりのあるスケジューリングを行い、適切なタイミングで株主総会を開催し決議を得ておきましょう。

カーブアウトの事例

カーブアウトの事例

最後に、カーブアウトにより設立された企業の事例として、以下の2社を紹介します。

  • ファイメクス
  • Onedot

なお、上記の2社は、ともに東大IPCが出資する企業です。

ファイメクス(武田薬品工業からカーブアウト)

ファイメクス(設立:2018年1月、本社:神奈川県藤沢市、代表取締役:冨成祐介氏)は、武田薬品工業のカーブアウトによって設立されたベンチャーです。

近年世界的に注目されている標的タンパク質分解誘導剤の新規医薬品の開発を進めており、武田薬品の研究成果を生かしつつ独立した創薬ベンチャーとして、国内外の幅広い製薬企業との連携を目指しています。

タンパク質分解誘導による新規医薬品の開発は世界中で進められているものの、最適な薬剤の設計が難しく、地道な設計・検証作業が必要とされています。こうした中で、ファイメクスは、最適な化合物を迅速に探索可能なプラットフォームを完成させ、タンパク質分解誘導剤のシステマチックかつ効率的な開発を実現しています。

参考:ファイメクス

Onedot(ユニ・チャームからカーブアウト)

Onedot(設立:2016年12月、本社:東京都港区、代表取締役CEO:鳥巣知得)は、日本の育児ノウハウ・商材情報などを強みに、中国及び海外での事業を展開することを目的に、BCG Digital Venturesとの共同プロジェクトを経てユニ・チャームが設立した企業です。

ソーシャルメディアやミニプログラムを通じた育児メディア事業のほか、優れた製品・サービスを持つ日系企業に対して越境EC等の中国デジタル戦略・マーケティング支援を行っています。

2020年5月、東大IPCは、Onedotに対して、東京大学の人文系の研究成果を活用したカーブアウトベンチャーとしてWithコロナ時代の日本社会から求められる役割を担っていくこと、カーブアウトベンチャーおよび起業家の新しいロールモデルになることを期待して5億円を出資しました。これにより、Onedotは、ユニ・チャームの連結子会社から外れ、独立したベンチャー企業としての成長を目指しています。

参考:Onedot

まとめ

カーブアウトとは、経営戦略の一環として、親会社が子会社や自社事業の一部を切り出し、新しい会社として独立させる行為です。

カーブアウトの実施によって期待されるメリットは、「選択と集中ができる」「外部から資金調達できる」「親会社の経営資源を活用できる」などさまざまです。ただし、カーブアウトの実施に際しては、「意思決定が煩雑になる」「人材不足に陥る可能性がある」「許認可を再申請しなければならないことがある」などのデメリットが生じるおそれもあります。

本記事で紹介したメリット・デメリット、手順やスキームなどに留意して、自社にとっての最善策を検討する際の参考にしてください。

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