2022/12/27

サーチファンドとは?仕組みやメリット・デメリット、社会的意義を解説

サーチファンドとは?

サーチファンドとは?

サーチファンド(英語:Search Fund)とは、経営者を目指す個人(人数は1人または2人が一般的)が主体となって自ら経営したい中小企業を発掘(サーチ)し、出資者の支援を得ながらM&A(企業・事業の合併や買収)を通じて対象企業の経営権を取得し、企業価値の向上を目指す活動を意味します。

プライベートエクイティ(未公開株式)投資の1つの形態であり、優秀な経営者候補と魅力的な中小企業をつなぎ合わせる社会的意義の高い投資手法です。

なお、サーチファンドに取り組む経営者候補は「サーチャー」や「ネクストプレナー」などと呼ばれており、MBA(正式名称:Master of Business Admiration、経営学修士)取得後のキャリアの1つとして、特に英米圏のビジネスパーソンから注目されている存在です。

サーチファンドの手法は、1984年にアメリカのビジネススクールで誕生したと考えられています。誕生以来、数多くのサーチファンドが設立されており、とりわけ近年はサーチファンドの設立が世界中で急激に拡大している状況です。

日本におけるサーチファンドの活用事例は英米圏と比較して多くはないものの、最近では経営者候補を目指す人のコミュニティや研究会などが現れ始めているうえに、事業承継や地域活性化などの観点からも大きな注目を集めています。

M&Aについて詳しく知りたい場合は、以下の記事でご確認ください。

スタートアップM&Aのポイント、課題と対策【事例あり】

サーチファンドの仕組み

サーチファンドの仕組み

従来のM&Aは2者間で実施するケースが多いですが、サーチファンドでは3者間(経営者候補、出資者、譲渡企業)でM&Aを行うケースが多く見られます。

サーチファンドの大まかな仕組みを説明すると、M&Aによる買収対象企業を発掘する前に、出資者が企業経営に高い意欲を持った経営者候補に対して投資を行うのが一般的です。ここでの投資によって、対象企業の発掘・選定を含めた手続きやM&A取引に必要な資金、デューデリジェンズ費用などを負担するファンドが設立されます。

そして、主として一定の歴史・事業基盤を持つ中小企業を対象として、M&Aにより経営権を取得します。

これと併せて、経営者候補は、対象企業から経営を委託される形で、対象企業の経営者となるのが一般的です。経営委託に伴い、経営者候補は対象企業の後継者となり、通常5年〜7年の期間をかけて企業価値の向上に取り組みながら、上場(IPO)・MBO・第三者への譲渡などを通じたイグジットを目指すことになります。

上場(IPO)およびイグジットの詳細は、以下の記事で解説しています。

上場(IPO)とは?条件や方法、メリット・デメリットを分かりやすく解説

イグジットとは?意味や種類、動向を解説

サーチファンドのメリット・デメリット

本章では、サーチファンドの手法を用いることで生じる可能性のあるメリット・デメリットを、譲渡企業および経営者候補の立場から解説します。

メリット

まずは、サーチファンドの活用によって期待されるメリットの中から、代表的な4つをピックアップし、順番に解説します。

後継者が明確

従来のファンドを通じたM&Aでは、M&A取引後に譲受側企業によって経営体制の構築が行われるのが一般的であり、M&A交渉の段階では経営者となる人物は明確に決まっていません。これに対して、サーチファンドを通じたM&Aでは、必ず経営者候補が対象企業の次期経営者となります。

そのため、譲渡側企業の経営者からすると、M&Aの交渉時から後継者の人柄・能力・価値観・承継する企業や事業への熱意などを就任前に知ることができます。

経営未経験でも挑戦できる

たとえ優秀な人材であっても、経営者候補が個人でM&Aの資金を調達したり、必要なプロセスを進めたりすることは決して容易ではありません。

サーチファンドを活用することで、経営者候補は、出資者(ファンド)から、対象企業の経営権取得のために必要な資金を調達できます。また、出資者から、資金面だけでなく、経営権取得に必要な手続きを円滑に進めるためのサポート・アドバイスを提供してもらえることもあります。

このように、サーチファンドには、経営の経験がない人材であっても、M&Aによる経営権取得に挑戦しやすい環境が整備されています。

時間をかけて探すことができる

従来のM&Aでは仲介会社・マッチングサイトなどを利用することが一般的で、豊富な案件から自身の条件に合う相手先をピックアップしてもらえる点に効率性・利便性があります。その一方、M&A契約締結までに当事者が顔を合わせる回数は少なく、相手の企業理念や価値観を見極める機会が乏しくなりマッチングに失敗しやすい点はデメリットだと考えられています。

これに対して、サーチファンドを通じたM&Aでは、経営者候補は、「この企業を自身の手で経営したいのか、成長させられるのか」「この企業の文化や経営者の価値観は、自身の価値観と合うのか」などの観点をもとに、じっくりと時間をかけて対象企業をサーチし見極めることが可能です。これにより、経営者候補は、自身の価値観に合った対象企業を探しやすくなります。

デメリット

続いて、サーチファンドの活用によって生じるおそれのあるデメリットの中から、特に問題となりやすい2つをピックアップし、順番に解説します。

サーチファンドの認知度が低い

日本ではサーチファンドが一般的に広まっておらず、出資者となる投資家がサーチファンドを知らないケースがあります。

そのため、経営者候補が資金を募る際は、まずサーチファンドの基本的な情報を投資家に対して説明することから始めなければならない点はデメリットだといえます。

成否はサーチャーの能力への依存度が大きい

サーチファンドの性質上、その成否はサーチャーである経営者候補の個人的な能力に大きく依存してしまいます。

譲渡側企業の経営者からすると、自身よりも高度な経営手腕が見込めたり、提示した取引条件を受け入れてくれたりする相手でないと、譲渡したくないと考えるのが実情です。

また、サーチファンドの投資により期待される利回りが、出資者である投資家の要求よりも低ければ、投資の実行に至らないこともあります。

以上のことから、サーチファンドにおける経営者候補として適しているのは、一定の譲渡案件の発掘能力や中小企業の経営能力などを備えた人材であると考えられています。

サーチファンドの社会的意義

サーチファンドの社会的意義

近年の日本では、経営者の高齢化・廃業に伴う経済への悪影響が大きく取り沙汰されています。

中小企業庁の2016年の発表によると、現状のまま後継者不在の問題を放置すれば、2025年までの累計で650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性があります。

こうした問題の解決に向けて、今後は中小企業の事業承継の手法の1つとして、サーチファンドを活用した事業承継が社会的意義を帯びてくるものと考えられています。

参考:中小企業庁「中小企業庁長官 平成30年 年頭所感」

サーチファンドの流れ

最後に、サーチファンド活動を行う際の一般的な流れを5つのステップに分けて、順番に解説します。(記載している期間はあくまで目安です。業界や業態、投資方針など様々な要因で変動します。

①サーチに対する支援要請:1~2カ月

まずは、経営者を目指す人材が、サーチ活動のために必要な資金の出資やその他の支援を投資家に対して要請します。‍このときは、自身のこれまでの経験・強み・意気込みなどを投資家に対して説明するのが一般的です。

②サーチ活動:6カ月~2年

次に、経営者候補は、出資者の支援を得ながら、自身が経営するのに相応しい企業を探します。

納得できる企業が見つかったら、相手側企業の経営者との話し合いや会社の実態精査などを行い、「本当に自身の手で経営したい企業なのか」「自身の手で成長させられる企業なのか」などを見極めます。

③投資家による出資の実行:3~6カ月

対象企業が決まり、投資家である出資者との間で投資計画を具体化させたら、M&A取引に必要な資金を調達します。

ここでは、出資者に対して、成長戦略・リスクへの対策・自身と対象企業との相性などを説明し、魅力的な投資案件であることをアピールしながら出資を依頼するのが一般的です。

④投資先企業の経営:3~5年

その後、経営者候補が自ら対象企業の経営者に就任し、企業価値の向上に向けて経営を行っていきます。

⑤投資資金の回収

最後に、企業価値の向上に成功したタイミングで、経営者候補は出資者に対して資本を還元します。このときには、上場・MBOなどの中から企業を長期的に成長させるうえで最適なイグジット手法が採用されます。

なお、経営者も主にストックオプションを通じて、経済的なインセンティブを享受します。

まとめ

サーチファンドとは、経営者を目指す個人が主体となり、自ら経営したい中小企業を発掘し、出資者の支援を得つつM&Aによって対象企業の経営権を取得し、企業価値の向上を目指す活動のことです。

一般的に、サーチファンドでは、M&Aによる買収対象企業を発掘する前に、出資者が企業経営に高い意欲を持った経営者候補に対して投資を行うのが一般的です。ここでの投資によって、対象企業の発掘・選定を含めた手続きやM&A取引に必要な資金、デューデリジェンズ費用などを負担するファンドが設立されます。

サーチファンドの活用によって期待されるメリットの代表例は、「後継者が事前に明確化されている」「未経験の人材でも経営に挑戦できる」「時間をかけて対象企業を探せる」などです。

ただし、サーチファンドの活用にあたっては、「認知度が低く投資家の理解を得る必要がある」「サーチャーの能力次第で成否が分かれる」などのデメリットの発生が問題となるケースもあるため注意しましょう。

日本におけるサーチファンドの活用事例はまだ多くはないものの、最近では経営者候補を目指す人のコミュニティや研究会などが現れ始めているうえに、社会的意義の観点からも大きな注目を集めています。サーチファンドの仕組みやメリット・デメリットと併せて、今後の動向にも注目してみましょう。

一覧へ戻る
東大IPCの
ニュースを受け取る
スタートアップ界隈の最新情報、技術トレンドなど、ここでしか得られないNewsを定期配信しています