2022/9/7

譲渡制限株式とは?ポイントと譲渡の流れ、注意点をわかりやすく解説

譲渡制限株式とは?

譲渡制限株式

譲渡制限株式(英語:Share with Restriction on Transfer)とは、譲渡に関して制限が設けられている株式を意味します。具体的にいうと、株式を譲渡する際に、会社の承認が要件として設けられます。

譲渡制限株式を発行する会社では、さまざまなメリットの獲得が期待できます。特にスタートアップや中小企業などでは、会社の乗っ取りや、意図しない人物に自社株式が渡ってしまうことなどを防止する目的で用いられるケースが多いです。

そのほか、役員の任期を伸ばして会社を安定化させる目的で用いられることもあります。もともと役員の任期は、会社法によって、取締役および会計参与については2年、監査役については4年と規定されています。しかし、発行するすべての株式が譲渡制限株式である会社の場合は、定款によってそれぞれの任期を10年まで延長することが認められています。

なお、譲渡制限については、種類株式として設定する方法以外に、株主間契約としても設定できます。例えば、譲渡に際して経営株主の承認を得る旨を設定することで、実質的に譲渡を制限することが可能です。

種類株式について詳しく知りたい場合は、以下の記事で解説しています。併せてお読みいただくことで、譲渡制限株式と他の種類株式の概要や関係性などを深く理解できますので、ぜひご覧ください。

種類株式とは?全9種類、活用するメリット・デメリットを解説

譲渡制限株式のポイント

譲渡制限株式のポイント

本章では、譲渡制限株式を活用する際に把握しておくべき重要なポイントとして、代表的な
2点をピックアップし解説します。

譲渡を制限

もともと株式には、譲渡自由の原則があります(会社法127条)。

この原則が設けられている理由は、株主が投下した資本を回収するためには、会社の解散に伴う残余財産の分配および剰余金の配当などを除くと、株式を譲渡するしか方法がないためであると考えられています。

株式譲渡自由の原則により、株主は、その有する株式について、たとえ相手が見ず知らずの第三者であっても、自由に譲渡することが可能です。

ところが、株式譲渡自由の原則には、例外が存在します。これが、定款の定めによる譲渡制限であり、株式に譲渡制限(譲渡に会社の承認が求められる旨)を付与することを定款に定めることが可能です(会社法107条1項1号、108条1項4号)。このような株式を、譲渡制限株式と呼んでいます。

不本意な第三者を経営に参画させない

特にスタートアップや中小企業などでは、会社にまったく関係のない者や対立関係にある者などが株主になってしまうと、実質的に経営が困難になる可能性が高いため、信頼関係にある者に株主を限定したいというニーズがあります。

上記のようなニーズを満たすうえで、譲渡制限株式は非常に役立ちます。譲渡制限株式を活用することで、株主総会や取締役会などの承認を得ない限り、第三者に対して株式を譲渡できないよう制限を設けることができ、株主として好ましくない第三者が会社の経営へ参画することを未然に防ぐことが可能です。

譲渡制限株式の譲渡の流れ、注意点

譲渡制限株式の譲渡の流れ、注意点

本章では、譲渡制限株式の譲渡の流れと、その注意点を解説します。

共通の流れ

はじめに、株式の発行会社(以下、本章では「会社」という)が譲渡を承認する・否決する、いずれのパターンにも共通する手続きの流れを解説します。

  1. 譲渡希望の株式の譲渡制限を確認
  2. 譲渡対象株式の会社に対して承認請求
  3. 株主総会もしくは取締役会で承認の諾否を決定

まず、譲渡を希望する株式の譲渡制限の有無を、定款や登記事項証明書などで確認します。次に、譲渡対象株式の会社に対して、譲渡の承認請求手続き(株式譲渡承認請求書の提出)を行います。

その後、株式譲渡承認請求を受けた会社では、原則として株主総会もしくは取締役会を開催し、請求を認めるかどうか審議します。この審議の結果によって、その後の手続きの流れは大きく変わる点に注意が必要です。

譲渡を承認する場合

たとえ会社から譲渡を承認されたとしても、すぐさま譲受人に対して株式を譲渡できるわけではなく、以下の流れで手続きを進める必要があります。

①株式譲渡の承認通知の到着

まず、株主総会もしくは取締役会から譲渡承認請求が認められた場合、会社側から請求者に対して承認した旨の通知が送られます。

②株式譲渡契約書の作成・締結

次に、承認を受けた請求者は、譲受人と株式譲渡契約を締結します。ここでは、書面で譲渡の事実および取り決めについて明記しなければなりません。譲渡価格は当事者間で決定できます。なお、株券発行会社の株式の場合、譲渡人から譲受人に対して株券を交付します。

③株主名簿書換請求

その後、譲渡人・譲受人が共同で、会社に対して株主名簿書換請求を行います。書き換えのタイミングによっては、二重譲渡(同一の株式を複数の者に譲渡すること)が問題となるおそれもあるため、速やかに行わなければなりません。

④株主名簿記載事項証明書の交付

最後に、譲受人は、会社に対して、株主名簿記載事項証明書の交付請求を行います。この証明書には、譲受人の個人情報・株式保有数などの記載に加えて、会社の代表取締役の署名もしくは記名押印が求められます。

ただし、株券発行会社の株式を譲り受けた場合、株券を有している者が株主であると推定されることから、株主名簿記載事項証明書の交付請求は不要です。

譲渡を承認しない場合

会社から譲渡請求を認められなかった場合は、以下の流れで手続きを進めるのが一般的です。

①否決通知の到着

譲渡請求の否決後、会社は2週間(定款でそれを下回る期間が定められている場合はその期間)以内に、請求者に対して否決した旨の通知を行います(2週間経過しても通知が届かない場合、不手際の有無に関わらず、譲渡対象株式の会社が「譲渡を承認した」とみなされます)。

②買取先の決定

不承認の決定後、請求者から会社もしくは指定譲受人(会社に代わって、対象株式の全部もしくは一部を買い取る者のこと。会社から指定される)が買い取る請求を受けた場合、会社側は「会社」「指定譲受人」「二者(会社・指定譲受人)共同」の中から買取先を決定します。

会社が買取先の場合、供託を証明する書面(1株あたり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額)を請求した株主に対して交付し、否決を通知した日から起算し40日以内に買い取る株式の種類・数を決定します。その一方で、指定譲受人が買取先の場合、否決通知の日から起算し10日以内に請求者へその旨を通知します。

③特別決議

会社が買取先の場合、株式の買い取りの承認を受けるために特別決議を行います。このときには、たとえ株式譲渡請求を否決した機関が取締役会であっても、買取決議については株主総会で行う決まりです。

④供託

買取先(会社もしくは指定譲受人)は、株主への買取通知前に会社の本店所在地で買取相当額(1株あたりの純資産額×買取株式数)を供託します。

また、株主に対して供託を証明する書面を交付し、会社が買い取る旨・買取株式数を通知します(期限は、会社が買取先の場合は否決した旨の通知から起算し40日以内、指定譲受人が買取先の場合は否決した旨の通知から起算し10日以内)。

⑤株券供託

株主は、譲渡の対象となる株式の株券が発行されている場合、株券を供託します。この期限は、供託したことを証明する書面の受領日から起算し1週間以内です。供託後は会社へ遅滞なく供託した旨を通知しましょう(供託せずに1週間が経過すると、買取先は譲渡契約を解除できる)。

⑥協議・申し立て

買取通知の受領後は、株主と会社もしくは指定譲受人の間で協議を行います。この協議で譲渡価格に関する合意可否が決まり、合意に至らない場合は最終的に裁判所に決めてもらいます。

買取通知の受領後20日以内に「株式譲渡価格決定の申立」を協議当事者のいずれかが行います(株主が申立をせずに20日間が経過すれば、会社もしくは指定譲受人が供託した金額が譲渡価格となる)。

⑦裁判所による適正価格の算定

申立後、裁判所は審問で双方の言い分を聴取し、専門家の意見も参考にしながら、適正価格を決めます。なお、裁判所から和解を促されることもあります。

協議当事者のいずれかが裁判所が決めた価格に不服がある場合、裁判の告知を受けた日から起算し2週間以内に抗告することも可能です。

譲渡制限株式で変わる会社の呼び名

譲渡制限株式で変わる会社の呼び名

譲渡制限株式の定めが存在するかどうかによって、会社は以下の3種類で呼称されます。

株式譲渡制限会社(非公開会社)

発行するすべての株式の譲渡について、会社の承認を必要とする旨の定めを定款に置いている会社のことを、株式譲渡制限会社(英語:A Company Subject to Restrictions on Transferability)と呼びます。そのため、種類株式を用いて一部の株式のみに譲渡制限をかけている場合、株式譲渡制限会社には該当しません。

なお、定義に含まれる「会社の承認」とは、原則として取締役会もしくは株主総会における承認をさしますが、定款で別段の定めを置くことも可能です。また、株式の譲渡制限の定めを定款に置くためには、株主総会の特殊決議(議決権を有する株主の過半数、かつ当該株主の議決権の3分の2以上の賛成)が必要となります。

株式譲渡制限会社では、信頼できる人間のみを経営に参画させられます。株式が自由に売買できる状態であると、会社の経営にとって不都合な人物が株主になってしまうリスクがあります。

こうした人物が株式を多く取得し発言権を強めてしまうと、経営に支障が及ぶ可能性が高いです。しかし、株式譲渡制限会社であれば、経営者の意にそぐわない人物に株式が行き渡ることを防げます。つまり、経営者の意に適う人物のみを株主にできるため、経営者の経営権を確立させるうえで非常に役立ちます。

公開会社

全部または一部の株式について、譲渡制限がない株式を発行できる旨の定めを定款に置いている会社を、公開会社(英語:Publicly Listed Company)と呼びます。

なお、会社法上の公開会社は、証券取引所における上場企業を意味しているわけではありません。上場企業の株式は株式市場で自由に取引できるため、譲渡制限がありません。そのため、上場会社は公開会社だといえます。しかし、必ずしもすべての公開会社が上場企業であるとは限りません。譲渡制限を設けていない株式を発行している非上場企業は、公開会社ではあるものの、上場企業には該当しないのです。

上場について詳しく知りたい場合は、以下の記事をご確認ください。

上場(IPO)とは?条件や方法、メリット・デメリットを分かりやすく解説

まとめ

譲渡制限株式は、経営者の経営権を確立しやすく、企業にとって望ましい体制作りに役立つといった恩恵を自社にもたらす一方で、譲渡時の手続きの流れが複雑というデメリットも存在します。想定されるリスクには、事前に対策を講じておきましょう。まずは、譲渡制限株式のポイント・注意点を念入りに把握することが大切です。

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