用地仕入れとは?流れや成功のポイント、営業の課題も解説
開発用地を取得する「用地仕入れ」は、不動産開発における最初のステップであり、プロジェクト全体の成否を左右する非常に重要な工程です。しかし、現場では情報の非対称性や業務の属人化といった課題が顕在化しており、担当者のスキルや経験の差が成果に直結しやすいのが実情です。
本記事では、用地仕入れを経験された株式会社WHEREの代表である阿久津岳生氏に御協力を頂き、用地仕入れの基本的な定義や目的から実務の具体的な進め方、成果を上げるためのポイント、属人化を克服するための最新の取り組みまで、現場のインタビューを交えてわかりやすく解説していきます。
【目次】
用地仕入れとは?

用地仕入れとは、マンションや戸建て住宅、商業施設、物流拠点などの民間開発を前提に、建築可能な土地を選定・取得する業務のことです。
また、福祉施設や介護施設といった社会インフラの整備を目的としたケースもあり、単に土地を購入するだけでなく、「どのエリアに、どのような建物を建て、どのように活用するか」までを見越して行う、戦略性と専門性の高いプロセスです。
仕入れ対象の土地を見極めるには、立地条件、法規制、周辺環境など、複数の要素を総合的に判断する必要があります。そのため、実務をこなすためには、豊富な経験や的確な見極め力、良いタイミングを逃さない判断スピードが求められます。
こうしたスキルの有無が、用地仕入れの成果を大きく左右すると言えるでしょう。
用地仕入れの目的
用地仕入れの最大の目的は、開発事業において収益性が見込める土地を適正な条件で確保することにあります。仕入れた土地は、以下のように多様な開発プロジェクトに活用されます。
- 分譲マンションや戸建て住宅の建設用地
- 商業施設や店舗の出店に向けた敷地
- 高齢者向け施設や福祉施設などの介護インフラ整備
- 物流センターや工場といった産業用途の開発用地
- PFI(民間資金活用型)やPPP(官民連携)などの手法による公共施設・インフラ整備に伴う土地取得
用地仕入れは多様な事業展開の起点として、極めて重要な役割を担っています。
不動産仕入れとの違い
不動産仕入れと用地仕入れは一見すると似た業務に思えますが、目的や取り扱う物件には明確な違いがあります。
不動産仕入れは、すでに建物が存在する中古住宅や収益物件などを対象とし、それらを再販・再活用するケースを含みます。これに対して、用地仕入れは更地を取得し、ゼロから建物を開発するケースが中心です。
また、用地仕入れは、建築可能性の検討や行政との協議、周辺環境との調整など、開発に関わるリスクや難易度が高くなる傾向があります。そのため、法規制や都市計画に対する深い理解、精緻な事業計画の策定、中長期的な視点が不可欠です。
このように、両者は共に不動産事業の要でありながら、求められる知識やスキルには大きな違いがあります。不動産仕入れの全体像については、以下の記事で詳しく解説しています。
不動産仕入れとは?営業で成果を出すコツと課題、最新ツールを解説
どのような事業・開発目的で行われるのか?
用地仕入れは、さまざまな開発プロジェクトの実現に向けて実施されます。例えば、以下のような事業目的に応じて土地を確保するケースが一般的です。
| 事業目的 | 詳細 |
|---|---|
| 住宅開発 | 戸建て住宅や分譲マンション、宅地分譲などの住宅地づくりを目的とした仕入れ |
| 商業施設の建設 | ショッピングセンター、コンビニエンスストア、飲食店などの出店用地としての取得 |
| 産業用地の確保 | 物流センターや製造工場といった、産業インフラの整備を目的とした用地取得 |
| 公共施設の整備 | 病院、学校、福祉施設など、地域の生活インフラを支える施設の建設用地 |
| 都市再開発プロジェクト | 駅前の再整備や老朽化した街区の再生など、都市の再開発を見据えた土地取得 |
用地仕入れは多様な事業の起点となる重要な工程であり、目的に応じた適切なエリア選定や企画力が求められます。
用地仕入れの流れ

用地仕入れは単なる土地の取得ではなく、開発の成否を左右する極めて戦略的なプロセスです。そのため、各ステップでの的確な判断が求められます。
以下、用地仕入れの一般的な流れと各フェーズで押さえておきたいポイントを解説します。
1. ターゲット(対象顧客)設定・事業性の検討
まず、「どのエリアに、どの規模で、どのような建物を建てたいのか」を明確にすることから始まります。想定する土地面積や用途地域、分譲や賃貸といった収益モデルをもとに、必要な条件を具体化していきます。
この段階の戦略設計を誤ると後の工程すべてに悪影響が及ぶため、最も重要なステップと言えます。
2. エリア調査・市場分析
次に、開発を想定する地域について、人口の推移や競合物件、交通インフラ、行政の開発方針などを調査します。駅からの距離や周辺の生活環境に加え、再開発の動きや地価の動向なども確認します。市場の相場感を把握することで、仕入れ予算や収益性の精度が高まります。
3. 候補地の抽出・現地確認
不動産会社や現地調査を通じて、条件に合う候補地をピックアップします。
Googleマップなどのデジタルツールだけではわからない、現地の雰囲気や周辺環境、土地の形状、接道状況などは、実際に足を運んで確認する必要があります。間口の広さや高低差、道路幅員などは現地でしか判断できない情報です。
4. 所有者調査・アプローチ
候補地の地番をもとに登記簿謄本を取得し、所有者を特定します。その後、電話・手紙・訪問などの手段でアプローチを行います。
個人所有か法人所有かによって効果的な接し方は異なる上に、不在地主や相続登記未済といった複雑なケースでは、所有者とすぐに連絡が取れなかったり、売却手続き自体が進められないこともあります。
特に相続登記が未了のままだと、登記上の所有者がすでに故人であるため、現所有者との間で法的な契約を結ぶことができません。
こうした場合には、相続人を特定して登記を完了させる必要があり、調整や手続きに時間がかかるケースが多くなります。
5. 条件交渉・契約締結
売却意向のある所有者との間で、価格や引き渡し時期、境界確定、建物解体などの条件を交渉します。必要に応じて司法書士や税理士、不動産会社などがサポートに入り、条件を契約書に明記します。
開発許可が下りなかった場合の「白紙解除特約(契約を無条件で解除できる条項)」など、リスクに備えた特約条項の設定が不可欠です。
6. 行政協議・法令確認
対象地が都市計画区域に該当するかどうか、用途地域、建ぺい率、容積率、接道要件などの法的条件を調査します。また、高さ制限や文化財保護区域、景観条例の有無も確認します。
場合によっては、開発許可申請や近隣住民への説明会が必要になることもあります。
7. 決済・登記・引き渡し
契約に基づき決済と登記手続きを行い、所有権を正式に移転します。一般的には、売主と買主、金融機関、司法書士が一堂に会し、同時履行を行います。
引き渡し後は地盤調査や仮囲い工事、行政への各種届出など、次の開発工程へと進みます。
以上のとおり、用地仕入れは調査や交渉、手続きといった複数の工程が連携して成り立つ業務です。各フェーズを丁寧に進めることが、安定した事業運営と収益性の高い開発につながります。
用地仕入れに求められる力
用地仕入れの実務は、継続力と情報収集の工夫、そして非効率な作業を前提とした柔軟な対応力が求められます。
株式会社WHERE代表の阿久津岳生氏は、不動産ベンチャーでサラリーマンとして働いていた当時の経験をこう振り返ります。

「地主と見られる方を直接訪問してアパート建設の飛び込み営業を行っていました。電話営業も並行して行い、地図で大きい家を探し、電話帳で番号を調べてひたすら電話をかけていましたね。」
さらに、こうした営業スタイルを2年ほど継続したのち、物上げ業務の導入により効率化を図ったと語っています。
「現地調査を毎日継続するのは決して簡単ではなく、1~2か月はできても1年継続するのは非常に困難でした。雨の日も現地に行く必要があり、チーム全体の成長が伸び悩みました。」
このように、現地での調査を粘り強く続ける力と、非効率を前提とした行動の積み重ねが、当時の営業活動の中心でした。また、現場の非効率さに対する問題意識も明確に語られています。
「最近になり、インターネットやGoogleマップの活用により現地調査の効率は多少向上しましたが、所有者調査や謄本取得などの業務内容は昔から変わりません。」
「登記簿はPDFデータで提供されるので、テキスト化やコピー・ペーストの作業が必要になります。」
これらの発言から、属人的かつアナログな現場で成果を出すには、単なる営業トーク以上に『継続力』『泥臭い作業への耐性』『細部を正確に扱う力』が必要とされていることが分かります。
用地仕入れを成功に導くためのポイント

用地仕入れは単なる営業ではなく、市場の分析力や戦略的な計画、人脈の構築、現場での柔軟な対応といった多角的なスキルが噛み合って初めて成果に結びつく仕事です。
本章では、用地仕入れ成功のために欠かせないポイントを、3つの視点から具体的に解説します。
エリア・物件タイプ別の仕入れ戦略
エリアや物件の種類に応じて、用地仕入れの戦略は大きく異なります。「どこに」「どのような建物を」「どの予算で」建てるのかといった事業方針に基づいて、仕入れ基準を明確に設定することが不可欠です。
例えば、以下のような基準が挙げられます。
| 建物タイプ | 詳細 |
|---|---|
| 分譲マンション | 駅から徒歩10分圏内、敷地面積40坪以上といった条件は、一定の収益性を確保するうえで一つの目安とされます。用途地域は商業地域や近隣商業地域が好まれる傾向にあり、容積率も300%程度あると計画の幅が広がるため、開発候補として検討されやすくなります。 |
| 戸建て住宅 | 旗竿地や高低差のある土地も、設計の工夫や条件次第では活用されることもあるため、比較的対象範囲は広いとされています。また、学区や日当たり、周辺施設など、生活環境も購入検討者の重要な判断材料となります。 |
| 高齢者施設・医療施設 | 一定の敷地面積や行政との協議が必要となるケースが多いため、住宅密集地よりもやや郊外で落ち着いた環境が適しています。 |
物件の用途ごとに必要な条件を事前に整理し、対象エリアの相場や開発可能性との相性をすぐに判断できる体制を整えておくことが、効率的な仕入れにつながります。
ネットワークと情報ルートの活かし方
用地仕入れにおいては、「どれだけ質の高い情報を早く手に入れられるか」が成功のカギを握ります。特にポータルサイトや一般市場には出回らない「水面下の情報」をどれだけ得られるかが、仕入れ成果を大きく左右します。
そのためには、以下のようなネットワークの構築と活用が重要です。
| ネットワーク | 詳細 |
|---|---|
| 地場の不動産会社・仲介業者 | 日常的に信頼関係を築いておくことで、売却相談があった際に他社よりも早く情報提供を受けられる可能性が高まります。 |
| 士業や専門業者 | 司法書士、税理士、解体業者など、相続や事業整理、空き家対応などで所有者に直接関わる立場の人たちと連携することで、売却の可能性が出る前から動けるようになります。 |
| 地元住民・町内会関係者 | 再建築不可や長年放置された土地といった、取引の難易度が高い物件に関する情報は、地元に根差した人々から得られることが少なくありません。ポータルサイトでは見つからない貴重な情報源となります。 |
こうしたネットワークから得た情報をリスト化し、状況に応じてアプローチする体制を整えておくことで、安定して成果を出し続ける仕入れ活動が可能になります。
現場の工夫と継続フォローの重要性
候補地にアプローチしても、初回の訪問や連絡だけで契約が決まることはほとんどありません。用地仕入れを行う際は、「断られてからが本当のスタート」という意識が非常に重要です。
以下に、現場で成果につなげるための工夫と継続的なフォローのポイントをまとめました。
| 工夫 | 詳細 |
|---|---|
| 現地に何度も足を運ぶ | 時間帯や季節によって変わる雰囲気や生活の気配を確認しながら、周辺の状況や地元の声を拾い上げていきます。顔を覚えてもらえば、地域との信頼関係も築きやすくなります。 |
| 仮説をもとに地図に書き込みを重ねる | 「隣地と合わせれば再建築が可能なのではないか」といった仮説を地図上に記録し、物件ごとの可能性を見極めていくことが大切です。 |
| 断られた理由を記録しておく | 価格や時期、家族構成の変化など、断られた背景をきちんと記録しておくことで、数か月〜1年後の再アプローチ時に的確な提案が可能になります。 |
| アプローチ方法に変化をつける | 電話だけで終わらせず、手紙やポスト投函、訪問など複数の手段を組み合わせて、情報が確実に届いているかを確認する姿勢が重要です。 |
このように、継続的なアプローチと情報の積み重ねによって、「今すぐではないが、将来的に売却したい」といった潜在的ニーズにも応えられるようになります。タイミングを逃さず、確実にチャンスをつかむための下地づくりが、成果へとつながっていきます。
用地仕入れの今後の展望
不動産開発における用地仕入れは、依然として属人的な情報収集や経験に依存するケースが多く、業界全体としても「仕入れの非効率さ」が課題視されています。特に『良い土地情報』は限られたネットワーク内で流通することが多く、営業担当者の人脈や勘に頼らざるを得ない状況が続いています。
阿久津氏も、こうした業界の構造的な課題について以下のように言及しています。
「不動産業界は人脈がすべてで、良い土地情報は人脈経由でしか得られないことが多いです。」
しかし近年では、AIやデータ活用の浸透とともに、用地仕入れ業務のデジタル化・標準化を模索する動きも進んでいます。
実際、阿久津氏が率いる不動産スタートアップの株式会社WHEREでは、従来の属人的手法に代わる新たなアプローチとして、不動産仕入れ支援SaaS「WHERE」を提供しています。

「良い土地を仕入れたいが、能動的に効率よく情報収集する方法がない」といった声に対して、WHEREの導入によって現場が自ら情報を探し、仕入れに動くという変化が生まれています。
さらに阿久津氏は、今後の情報流通の在り方について次のような展望を語っています。
「現在でも上流の情報取得は人脈からの紹介に頼る割合が大きいですが、これをデジタルで解決できるようになれば、業界全体の効率化が期待できます。」
このように、用地仕入れの未来は『誰かの勘や経験に依存する属人的な仕入れ』から、『データと仕組みによって再現性のある仕入れ』へと移行しつつあります。
今後は、営業担当者のスキルやネットワークに依存しすぎない、フェアで透明性のある情報取得環境をいかに整備するかが、企業の競争力を左右する鍵になるといえるでしょう。
用地仕入れの経験談、WHEREの開発背景や導入事例、今後の展望については、開発者・投資家へのインタビュー記事で詳しくご紹介しています。
不動産仕入れ支援SaaS「WHERE」の詳細は、株式会社WHERE公式サイトからご確認いただけます。
まとめ
用地仕入れは、現地を見極める観察力や人との信頼関係を築く人脈力、可能性を見出す仮説構築力など、複数のスキルを組み合わせて成り立つ専門性の高い業務です。
ただし、今後は、個人の経験や勘に依存するのではなく、デジタルツールを活用して誰でも再現可能な仕組みに移行することが重要になります。属人性に依存しすぎない、再現性のある仕組みづくりが、これからの用地仕入れにおいて求められています。
