2025/11/27

次世代を担うフュージョン(核融合)エネルギーの社会実装に、ベリリウムの安定供給で貢献

株式会社MiRESSO| 代表取締役CEO 中道 勝 COO / 執行役員 今井 智章

2023年度の第9回1stRound支援先の一つである株式会社MiRESSO(ミレッソ)は2023年5月に創業した、量子科学技術研究開発機構(QST)認定のフュージョン(核融合)スタートアップ。フュージョンエネルギーの材料として不可欠なレアメタルの一種、ベリリウムを低コスト・省エネルギーで生成する技術の社会実装を目指している。代表取締役CEOの中道氏とCOO / 執行役員の今井氏に、事業の概要や起業に至った経緯、1stRoundで得たものなどを聞いた。

独自の低温精製技術で、世界的に不足するベリリウムの安定供給を担う

―MiRESSOの事業について教えてください。

中道:フュージョンエネルギー領域では世界中でさまざまな研究が行われていますが、当社の低温精製技術は他に類を見ない独自技術であり、すでに日本とオーストラリアで特許を取得しています。さらに、現在は他4カ国でも権利化を進めているところです。
この技術の新規性のポイントは、難溶解性の物質を溶かす技術にマイクロ波加熱を組み合わせたところにあります。マイクロ波加熱とは電子レンジにも使われている技術ですが、これを乾燥した固体に照射することで溶解を可能にしました。原理はシンプルですが、適切な条件の設定など、長年の研究によって蓄積したノウハウが必要であり、この点で当社は他社を大きくリードしていると自負しています。

―事業としては現在どのようなフェーズにありますか。

中道:技術実証のためのパイロットプラントを整備中で、2027年度中の稼動開始を目指しています。また、事業化には精製する原料鉱石の安定供給が欠かせませんが、当社では、伊藤忠商事で資源エネルギービジネスの経験を積んだ今井さんがCOOとして調達を担ってくれています。

今井:自社内に調達チームを持って、海外からの鉱物資源の確保を進めています。現在10社以上の企業と交渉が進んでおり、これはフュージョンエネルギー領域のスタートアップとして世界中のカンファレンスに参加して認知度を上げてきた成果ですね。自社調達をベースにしてコストを抑えつつ、総合商社やJICA、JETROなど複数ルートで安定供給を図る予定です。
また、私は事業開発も担当しており、ベリリウムの販売に関しては現在すでに十数社から購買に関する興味を書面でいただいています。

1stRoundで事業開発の重要性を知り、バリューチェーンを意識するように

―2023年5月にMiRESSOを設立されていますが、起業に至った経緯を教えてください。

中道:私はもともと量子科学技術研究開発機構(QST)で核融合の研究に従事しており、2008年からベリリウムの主担当になりました。そうして、核融合炉の設計段階においてベリリウムの調達困難という課題に直面し、2017年頃から精製技術の開発に着手しました。
その結果、低温精製技術を開発できたのですが、QSTは国の研究機関であるため、特許を取得しても自ら事業化することはできません。そこでこの技術を社会実装すべく、採択されてプロジェクトリーダーとして遂行した科学技術振興機構(JST)の共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT:育成型)において、様々な企業に協力を仰いでコンソーシアム形成を目指しました。しかし、なかなか突破口が開くことができませんでした。ベリリウムの安全管理上のハードルが高いこともあり、このままでは核融合炉の設計が制約の多いものになってしまうという危機感から、社会実装を加速させるべく自ら起業することとしたのです。

―1stRoundに応募されたのはなぜですか。

中道: 当社のコーポレートを担っていた執行役員の西原さんが東大卒というご縁もあり、彼が1stRoundを見つけてきてくれました。私自身は事業の経験がなく、西原さんも起業経験はありますが個人事業としてのものだったので、ディープテックの事業化は手に余るものだったのです。1stRoundの審査会が6月で、10月にプログラム開始でしたから、会社設立してすぐの絶好のタイミングでした。

―採択されて、実際に役立ったことを教えてください。

中道:古川尚史さん、古川圭祐さんのお二人がメンターでしたが、この百戦錬磨の方々から当社の技術を「これは面白い」と言っていただけたのが、まず大きな自信になりました。事業シーズとして評価されたのは、アカデミア時代にいただいたどんな賞よりも嬉しく、励みになりました。
特に印象的だったアドバイスは、事業開発の強化です。当時の当社は技術メンバーと西原さん中心のコーポレート機能のみの体制でしたが、「顧客開拓を強化しないと資金調達もままならない」と強く指摘されました。そこで、数ヵ月後にはさまざまな媒体を使って採用活動を始め、そこで出会ったのが今井さんなのです。そのおかげで、原料調達も含め、当社内でバリューチェーンを構築できるようになったことが何よりの成果ですね。

―その他に役立ったことはありますか。

中道:あるパートナー企業と共同開発をすることができ、1stRoundから得られたノンエクイティの事業資金でマイクロ波装置を導入しました。それまではQSTの装置を借りていたので実験にも制約がありましたが、自社で装置を保有できたことで実験を加速させることができました。
また、2024年3月にシードラウンドで2.5億円の資金調達を行いましたが、この段階では特に採択実績などの客観的な評価が投資判断に大きく影響したと思います。良いスタートを切れたことで、2025年8月にはシリーズAの1stクローズで総額18.3億円の資金調達を実現することができました。

2031年にベリリウム市場の世界シェア1/3獲得を目指す

―総合商社でキャリアを積まれた今井さんが、MiRESSOにジョインを決めたのはなぜですか。

今井:先に退職を決めて複数社から内定をいただいていたのですが、私は資源エネルギービジネスで腕を振るいたいという思いが強くありました。その中でMiRESSOの事業に魅力を感じた理由の一つが、市場が寡占状態であることです。ベリリウム市場は世界全体で年間約300トンと小さいのですが、MiRESSOが大型プラントを建設すれば、市場の3分の1程度の供給を押さえることが可能です。資源エネルギービジネスにおいて、このように小さな投資で大きな市場シェアを獲得できる可能性があるケースは非常に稀有であり、この投資規模に対する影響力は大きな魅力でした。
さらに、ベリリウムはフュージョンエネルギー領域だけでなく、金属市場など様々な領域での活用の可能性があり、勝ち筋が多様に考えられます。複数の分野で事業を展開することで、リスクを分散できるのも魅力です。スタートアップでありながら、日本の上場企業ではできないようなチャレンジができると思い、MiRESSOへの参画を決めました。

―今後の事業展開はどのように考えていますか。

中道:まず2027年度中にパイロットプラントでのベリリウム生産を開始する計画です。このプラントは、量産プラントの技術的・経済的実証を目的としており、年間1トンの生産規模を目指します。2028年にはフルスペックでの稼働を開始し、2029年には稼働率を上げて年間2トン弱の生産を計画。この時点で黒字化を目標としています。
その後、このパイロットプラントでの実績を基に、年間100トン規模の量産プラントを建設。2031年には稼働を開始し、世界のベリリウム総生産量の3分の1のシェア獲得を目指します。また、このタイミングでIPOも目指し、調達資金を活用して世界展開を加速させ、さらなる量産プラントの建設や、技術開発を進めたいと考えています。

今井:MiRESSOは、日本の核融合エネルギーの実現を加速させることを目指しています。スピンアウト元のQSTへのベリリウム安定供給は、当初の存在意義でもあり、絶対実現したいですね。
さらに、日本への供給と並行して、アメリカやヨーロッパなど世界市場への挑戦も視野に入れています。日本の技術力とビジネスのプロフェッショナルが結集したチームで、核融合エネルギーの未来を切り拓いていきます。

―最後に、起業を考える方へアドバイスをお願いします。

中道:自信を持つことが大事です。技術がどんなに素晴らしいものでも、自分自身がその価値を信じられなければ、結果的にその価値を下げかねません。事業化しスケールしていくときに出会う仲間に対しても、自信を持って認めてもらうことが大切です。

今井:経営の観点では、CEOだけでなく、COOやCFOという立場で会社の運営を担う事も可能です。また、大手企業に勤める方々にも、スタートアップに経営メンバーとして参画することをぜひキャリアの選択肢に加えてほしいです。それによりスタートアップエコシステムが活性化し、日本の経済や社会がより良い方向へ進みます。私自身、総合商社を辞めてスタートアップに参画し、人生において最大のチャレンジをしていますが、大きなやりがいを感じています。

 

 

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