2025/8/4

ゲームからAIソリューションへ。クラウドコンピューティングやロボティクス分野のイノベーションを推進

株式会社ユビタス | 代表取締役CEO ウェスリー・クオ

東大IPCでは、「協創1号ファンド」「AOI1号ファンド」を通じた国内外80社を超える大学関連のスタートアップに投資を行っている。その投資先であるスタートアップの経営者が描くビジョンや展開するビジネスの魅力、可能性について今回、株式会社ユビタスにインタビュー。

世界最高水準のGPU仮想化技術とクラウドストリーミングプラットフォームを運営する同社は、台湾から日本に本社を移転後、ゲームを中心にグローバルに事業を展開する中で、AI技術の活用をさらに加速させている。2024年12月に東大IPCより資金調達を行った代表取締役CEOのウェスリー・クオ氏と、投資担当者の片山達彦氏に聞いた。

世界最先端のGPU技術とクラウドゲーミングで培った経験で、AI事業を加速

―まず、ウェスリーさんの経歴やご経験を教えてください。

クオ:国立台湾大学でコンピューターサイエンスを学び、卒業後にiaSolutionという会社を台湾で起業しました。組み込みJavaプラットフォームの事業で台湾でトップシェアを取るまでになり、2004年に日本のゲーム会社アプリックスに事業譲渡して、日本で3年ほど取締役を務めました。東証マザーズ(現グロース)市場上場企業だったため、そこでの経験を通じて日本市場について深く理解することができました。そうして3年経ち、次のステップに進もうと思い、2007年、台湾に戻って立ち上げたのがユビタスです。

―台北から東京へ本社を移転されたのはなぜですか。

クオ:当時はクラウドゲーミングの先進企業として、あらゆる端末やネットワーク、プラットフォームにまたがるゲーム配信を実現し、世界各国の現地通信キャリアやオンラインサービス事業者、ゲーム事業者と協同で事業展開していました。さらなる成長のために、台湾よりゲーム人口が多い日本に本社を移転。それにより、ソニーや任天堂、セガなど、ゲーム業界で世界トップクラスの日本企業と関係構築を強化したい狙いがありました。以来、日本を本社とし、台湾は研究開発拠点としています。社員数は合わせて約140名です。

―近年はクラウドゲーム事業に加えAI事業に注力されていますが、その背景や狙いを教えてください。

クオ:昨今のように生成AIがブームになる以前、GPU(Graphics Processing Unit:画像処理装置)クラウドが良く使われる分野は、ゲームやCG、仮想通貨のマイニングでした。ですから当社も当時はGPUクラウドを事業として、Nintendo SwitchやソニーPlayStation、カプコン、セガといったゲーム関連で主にサービス提供をしてきました。

また、当社は社内にAIの研究開発チームを持っていますが、ChatGPTが登場したとき、そのアルゴリズムを見た当社のAI開発エンジニアは、自社のゲームソフトウェアの技術に非常に似ていると感じました。そこで、当社のGPUクラウド技術はAI分野でも十分活用できると考え、注力していくことに決めました。

―AI事業を行っていくうえで、ユビタスならではの強みや優位性は何でしょうか。

クオ:当社はもともとソフトウェア開発会社であり、インターネット関連会社やコンテンツ提供会社、通信キャリアと長年にわたって築いてきたネットワークがあります。また、ヨーロッパのVodafone、アメリカのVerizon、韓国のKTといったグローバルの通信キャリアや、amazon、Googleなどとのパートナーシップも厚く、AI事業を加速させる上でも大いにプラスとなっています。

また、ChatGPTのような文字のやり取りだけでなく、AIとのチャットやアバターなど、ゲームでの経験を活かしています。このようにゲームでGPUの特性をよく理解しているのは強みです。

さらに、当社はGPUで世界トップクラスのエヌビディアから2024年3月に資金調達を行いました。そのエヌビディアからは最新技術がいち早く提供され、さらにはGPUが非常に競争力のある価格で提供されており、開発スピードやコスト面での競争優位性を生んでいます。

松尾研とLLMを共同開発。韓国では「量子コンピューター×AI」の取り組みも

―2024年12月に東大IPCより資金調達を行われましたが、東大IPCとの関係はどのように始まったのですか。

クオ:ユビタスは、もともと研究開発においてさまざまな大学の研究室とタイアップしてきました。日本では、東京大学の松尾・岩澤研究室の研究成果を開発・実装するベンチャー企業である松尾研究所と連携して、日本市場向けに最適化された大規模言語モデルの開発を進めてきました。2024年6月にはAWS Summit Japanにおいて、松尾研究所と共同でAIデジタルヒューマンを発表しています。

―東大IPCに期待することは何でしょうか。一般的なVCとの違いをどう感じておられるかもお聞かせください。

クオ:東大IPCにはディープテックや大学発スタートアップのネットワークがあるので、特にAI分野でスタートアップを紹介いただき、事業に活かせればと期待しています。現在、AIスタートアップは数多く存在しますが、その中でも東大IPCがすでに投資している、あるいは今後評価を検討している企業であれば、そのプロダクトには大きな可能性があると考えられます。互いにとって良いコラボレーションになるでしょう。

また、AI関連の投資先や投資家、顧客候補となる事業会社などの紹介や、東大卒業生等に向けた人材採用支援も期待しています。これらは、一般的なVCではなく、東大IPCだからこそお願いしたい領域といえます。また、松尾研に限らず、他のAI関連の研究室との連携にも興味があります。

―大学との連携に力を入れられていますが、何か先進的な事例がありましたら教えてください。

クオ:韓国の延世大学では、2024年1月にIBMの量子コンピューターを導入しています。127量子ビットのIBM Quantum Eagleプロセッサーを搭載した量子システムですが、ユビタスのGPUと掛け合わせて計算システムを作り、新素材や新薬、レアアースの開発に取り組むというプレスリリースを2025年7月に行いました。ユビタスから提供するのは、エヌビディアの次世代GPUアーキテクチャBlackwellを採用したB200というNVIDIAの最新チップです。

量子計算とAIを掛け合わせ、実際に素材開発などに活かしていくという世界でも最先端の試みであり、日本でもこうした新基軸のプロジェクトをぜひやってみたいと考えています。

GPUデータセンター開設や外食向けAIサービスロボットを展開

―今回東大IPCから出資を受けた資金は、どのようなことに用いますか。

クオ:日本国内にGPUデータセンターを開設するべく、いくつか候補を挙げて原子力発電所に近い土地を検討しており、膨大な電力を確保できるよう準備を進めています。電力が確保できれば、まず受電容量2メガワット程度からスタートし、次の2メガワットも早い段階で実施できるよう進めます。2年以内に合計24メガワットまで拡大する計画です。

―ユビタスでは、AIロボットも多数手がけられていますが、どのように事業展開されていますか。

クオ:ロボットメーカーと共同で、大規模言語モデルなど頭脳の部分を担っていきます。博物館やレストラン、病院など、生活に近いサービスロボットは、自然言語を理解することが重要です。日本ではまだあまり普及していませんが、いくつかの国ですでに提供が始まっています。当社では台湾のマッケイ記念病院にて、エヌビディアの最先端技術と当社独自のAIモデルを組み合わせて、さまざまな医療用途に設計されたインテリジェントロボットを3種類共同開発しました。2025年5月にはプレスリリースも発表しています。台湾では日本同様、高齢化が急速に進んでいます。病院での人手不足解消のために開発したこのロボットは、患者の案内や登録サポート、検体や医療物資の搬送、ガスや熱などの異常検知などにも対応しています。

また、台湾のある博物館では、中国語/英語/韓国語に対応して展示の説明を行う自律走行ロボットを提供しています。音声でもタブレットへの文字入力でもインタラクティブにコミュニケーションができ、展示エリア間を移動して案内もします。人による遠隔操作は不要で、Wi-Fiや5Gを経由してデータ照会し、自然な回答や対応が可能となっています。

レストラン業界でもAIロボットによる席案内や注文受付が進んでいて、当社でも日本のある外食チェーンと商談を行っているところです。日本ではロボットによる省人化ニーズが大きいため、当社としても注力していきます。長期的には、地球の人口80億人のうち、半分は将来、家庭用に家事ロボットを導入するようになるでしょう。その未来を見据えています。

―では最後に、日本の事業会社へのメッセージをお願いします。

クオ:AIロボットについては、日本ではまず外食産業からアプローチを始め、他国での先行事例も参考にしながら、将来は病院、銀行、博物館などにも広げていきたいと考えています。

当社は、ハードウェア面ではエヌビディアはじめ、数多くのパートナーシップがあるため調達には問題がありません。ソフトウェア面でも、経済産業省のGENIAC生成AI基盤モデル開発者に採択されるなど、高い信頼があります。

さらに、ユビタスは日本で長年ビジネスを行っており、日本の独特な商慣習も熟知しています。そのうえでディープテックの目利きであり、大学機関である東大IPCからの支援を受けていることも、日本のお客様にとって安心材料となるでしょう。ぜひユビタスの製品・サービスに興味を持っていただき、御社のビジネスに役立てていただければと思います。

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