2026/2/24

日本の失明原因第1位である緑内障の早期発見を、検査機器開発&検査環境の整備で目指す

株式会社クリュートメディカルシステムズ| 代表取締役社長 江口 哲也

2013年にHOYAからカーブアウトした株式会社クリュートメディカルシステムズ(以下、クリュート)は、眼の機能評価・視野検査機器を中核とする医療機器メーカー。「人々のQOV(Quality of Vision)向上に貢献する」を掲げ、日本人の失明原因第1位である緑内障の早期発見・診断につながる視野計をポータブルな形状で開発してきた。東大IPCでは2017年夏に、初の直接投資案件として同社に出資。その後も継続的に追加出資を行って事業成長を支援している。その事業の特徴や国内外における展開の進捗、東大IPCによるハンズオンを含めた支援について、代表取締役社長の江口哲也氏と、東大IPCの投資担当者である河原三紀郎氏に聞いた。

小型・可搬でクリニックに設置しやすい視機能検査機を開発

―まず、クリュートメディカルシステムズの事業について教えてください。

江口:当社は、眼科領域を中心とした医療用診断機器の開発・製造・販売を行う医療機器メーカーです。特に注力しているのが、緑内障をはじめとする視機能障害の早期発見・継続的な評価に資する診断機器です。特に緑内障は日本における失明原因の第1位。網膜神経節細胞が死滅する進行性の疾患であり、一度失った視野は治療で回復することはありません。しかも初期段階では自覚症状が乏しいのです。この検査環境を整えることで早期発見を促したいと考えています。従来は大型で設置制約の大きかった眼科検査機器を、小型・可搬で患者負担の少ない形に再設計することを、事業の軸としています。

―技術や事業における優位性は何でしょうか。

江口:当社の強みは、光学設計・ハードウェア・ソフトウェアを一体で開発できる点です。HOYA出身のエンジニアを中心に創業しており、精密光学技術とデジタル制御技術を融合させた製品開発が可能です。
また、製品がポータブルでありながら臨床現場で求められる検査精度・再現性を確保している点も、当社の競争優位性だと考えています。

浸透に時間がかかる医療機器事業に、腰を据えて投資を決定

―東大IPCとの出会いについて教えてください。

江口: HOYAからのカーブアウト後、既に支援をいただいていたUTECから紹介されました。当時は事業としてはまだ立ち上げ段階で、国内市場をどう固めていくかを考えていく時期でした。そうした中で河原さんには、短期的な数字だけでなく、長い時間軸で事業を一緒に考えてもらえると感じ、強い信頼感を持つようになったのです。

河原:東大IPCとしてはちょうど直接投資を本格化するフェーズで、クリュートは直接投資の第1号案件となりました。魅力だったのは技術力を持ったチームと、医療機器という難易度の高い領域に真正面から取り組む姿勢でした。単なる研究開発で終わらせず、事業として社会に実装しようとしている点が、東大IPCの投資方針と合致していました。

―投資を決定した決め手は何でしたか。

河原:私自身、医療系スタートアップでCxOを務めた経験から感じているのですが、医療機器分野では、技術の新規性以上に「本当に医療機器としての量産プロダクトを作れるか」「医療現場で使われ続けるものを作れるのか」が重要です。この点で、クリュートのチームは開発力が高く、プロダクトの完成度も非常に現実的でした。また、医療機器は市場に浸透するまでにどうしても時間がかかる領域です。その点でも、医療業界の経験を持つプロのチームであれば、長期的に事業が立ち上がっていく過程を一緒に作っていけると感じました。

江口:私たちとしても、医療機器事業の特性を理解し、腰を据えて支援してくれる投資家を探していました。東大IPCは、事業の難しさや時間軸を理解した上で期待をかけてくれ、非常に心強かったです。

やるべき手を打っていれば、フッと浮上する瞬間が自ずと来るもの

―事業初期の課題と、その際の東大IPCの関わり方について教えてください。

江口:当時販売していたヘッドマウント型の視野計は、実際の医療現場で使っていただく中で、重さなどの操作性に課題が出てきており、形状を見直す必要がありました。実は、取締役会ではマーケティングや営業面についても議論されたのですが、河原さんは製品そのものの改良を支持してくれてありがたかったです。

河原:そもそもハードウェアのプロダクトは、複数回の改良を経て完成度が高まっていくもの。ですから、現場の声を踏まえてブラッシュアップしていけば問題ないと考えていました。実際、のぞき込む仕様に変更したことで売上も順調に推移し、今では国内外1,000以上の医療機関で導入されています。

―東大IPCや河原さんの支援については、どのように感じられていますか。

江口:長い事業の過程では、戦略がうまくはまらずに、経営者として悶々とするような苦しい時期もあるのですが、そうした時も河原さんには別の視点をいただくなど、精神的な支えという意味でも非常に大きな存在でした。

河原:当時は、営業などの質問やアドバイスは他の投資家の方々もかなりされていたので、短期的な施策に関する経営陣へのインプットはもう十分だと思ったんです。それよりも、医療系スタートアップの経験がある自分としては、製品の浸透には時間がかかることは仕方なと思っていて、「今やるべき手を打っていれば、フッと浮上する瞬間が自ずと来るもの」という感じで、それまでは言葉を重ねてもあまり意味がないと感じていました。

―そうした河原さんの考えは、どう受け止められましたか。

江口:そのとおりですね。私もHOYA時代から感じていたのは、医療機器が広まるためにはドクターの口コミが必要だということです。中でも「KoL(キー・オピニオン・リーダー)」となるドクターが増えることで、広がりが加速します。今回もその心づもりではありましたが、河原さんの言葉には大変救われました。

グローバル展開にも東大IPCの「地道な」ハンズオン支援が貢献

―国内での事業展開の手応えについて教えてください。

江口:仕様を変更して以降、拡大フェーズに入ったという実感がありますね。現在は眼科領域にとどまらず、運転免許センターや眼検診、調剤薬局など、より広い用途への展開を進めようとしています。

―海外展開の実績と、今後の展望を教えてください。

江口:海外では、まず米国市場に注力し、大手パートナー企業を通じた販売を進めてきました。その結果、すでに一定の販売実績を積み上げることができています。欧州ではCE(EU法規制適合)取得に向けた準備を進めており、アジアや中東では当社主導でディストリビューター開拓を行っています。日本市場と比べると、海外市場は5〜10倍の規模があると言われていますが、簡単に成果が出るわけではありません。時間はかかっても、一歩ずつ確実に市場を広げていきたいと考えています。

―海外展開における東大IPCの支援について教えてください。

江口:資金提供にとどまらず、事業を共に進めているという感覚です。特に米国展開においいては、河原さんは当社の名刺を持って現地を飛び回り、市場調査からパートナー探し、ピッチまで先陣を切って動いてくださいました。投資家がそこまで踏み込んでくれるケースは少ないと思います。

河原:海外で事業を立ち上げるには、相応の準備期間が必要です。本格的に動き出す前から先行して検討を進め、フェーズに応じた支援を行うことを意識してきました。

―今後の事業展開と、東大IPCとしての期待を教えてください。

江口:主力製品の「アイモ vifa」は、ソフトウェアの追加によって機能を拡張できるプラットフォーム型のデバイスです。今後も検査機能を拡充し、視野検査機にとどまらない「視機能評価機」として発展させていきたいと考えています。

河原:クリュートは、日本発の医療機器を世界に届けられるポテンシャルを持った企業です。東大IPCとしても、短期的な成果だけでなく、中長期でのグローバル成長を見据え、引き続き伴走していきたいと考えています。

 

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