2023/10/24

スマホアプリで診断・治療できるプログラム医療機器で、医療サービスの未来を切り拓く

株式会社ヘッジホッグ・メドテック | 代表取締役CEO 川田 裕美

2022年度に開催した第6回1stRoundの採択企業の一つである株式会社ヘッジホッグ・メドテックは、「テクノロジーの力で治療効果を向上させる」をミッションとして2021年10月に設立。日本初の頭痛治療用アプリの薬事承認を目指し、開発を進めている。2022年11月には1億4500万円の資金調達も公表した代表取締役CEOの川田裕美氏に、プログラム医療機器という事業の特徴や目指す世界観、起業までの経緯、1stRoundで役立ったことなどを聞いた。

患者は潜在層含め1000万人。若年層に多い「頭痛」治療でデジタル化を推進

―まず、ヘッジホッグ・メドテックの事業について教えてください。

川田:アプリやソフトウェア単体で医療機器として承認を取る、プログラム医療機器と呼ばれる領域で開発、運営、販売を行っていきます。プログラム医療機器は近年、新たな治療方法として注目されており、生活習慣病や禁煙、うつなどで治療用アプリが行動変容を促す効果が認められ、薬事承認を受けています。

その中で当社はまず、頭痛の診断用・治療用アプリの開発を進めています。片頭痛は潜在層まで含めると1000万人近くといわれ、受診している方だけでも300万人以上という市場です。また、他の生活習慣病と違って年齢層が若いという特徴があります。高齢者は対面の診療を好み、通院時間の節約ニーズもあまりないため、若い患者が多い疾患領域のほうが、デジタルソリューションがマッチしやすいと考え、頭痛領域での開発を決めました。

―頭痛対策のアプリはいろいろ出ていますが、それらとの違いは何ですか。

川田:当社では医療機器として薬事承認を目指し、2024年に治験、2025年に申請、2026年に承認を考えています。気軽に使える既存のアプリとは連携を図り、病院にかかった場合には医療機器版を利用してもらうなど、裾野を広げていきたいです。

また、2023年6月にはPMS(月経前症候群)向けアプリの研究開発も開始しました。これも一般的な管理ツールやアプリが比較的浸透している領域なので、ユーザーに馴染みやすいと考えています。

―診断用・治療用アプリの使い方を教えてください。

川田:最終的に目指すのは、アプリに情報を入れると自動的に診断がつき、シームレスに治療用のアプリを使うといったユーザー体験ですが、薬事承認プロセスではそれぞれ別のデータが必要なので、当初は診断用・治療用アプリを別々に作り、後につなぐ予定です。

使い方ですが、診断用アプリは、いつ、どれくらい、どんなふうに痛くなったかといった問診の情報を入力すると、頭痛の種類を判別します。通常の診療でもこのような問診を行って診断をしますが、頭痛診療を中心に行う医師でなくても容易に診断をつけられるよう、実際の患者の問診データと専門医の診断結果を学習データとしてアルゴリズムを構築しています。

治療においては、対面で効果が認められている認知行動療法をアプリで行います。認知行動療法は心理療法の一種で、1回約1時間、医師や心理療法士と面談して、痛みと考えや感情、行動との関係を客観的に見られるようにしていきます。ただ、継続的な通院が必要なため、国内では実施できている医療機関は少ないのが現状です。それがアプリなら自身のペースで進められます。

―ビジネスモデルは、どのように考えていますか。

川田:医療機器ですので、患者は医師からこのアプリによる治療を勧奨されて使うことになります。医療機関の窓口で支払う診療費のなかに、診察代や薬代などと同じようにアプリ利用料が含まれる、というのを想定しています。

このほか、企業向けに従業員の体調管理および受診勧奨サービスを行うモデルも構想しています。そうして受診前から実際に治療に入って伴走していくプラットフォームを、いくつかの疾患で展開したいですね。

臨床から厚生労働省、医療ベンチャーを経て、自ら起業を決意

―厚生労働省から医療ベンチャーなどを経て起業されていますが、もともと起業を目指していたのですか。

川田:全く考えていませんでした。大学では公衆衛生学を学び、その流れで医療行政に携わろうと厚生労働省に入省しました。医療ベンチャーに転職したのは、もっと医療現場の近くで新しい施策に取り組んでみたかったからです。そこでオンライン診療の普及に向け、行政と交渉したり学会医師らと議論したりしました。

その経験をふまえ、次にやりたかったのが、診療をオンライン化することでより良い治療が可能になるものを作ること。それで、薬事承認を目指して治療用アプリを作り、サービス展開したいと考えました。その実現を目指すなかで、起業すれば自分がやりたい方向で進められ、現場の声を尊重できると思ったのです。

―ご夫婦で共同創業されていますが、背景を教えてください。

川田:プログラム医療機器で薬事承認を取るために治験を行い、承認後に医療機関に購入してもらうモデルだと、ビジネスとして売上が立つまでに時間がかかるので、外部から資金調達するのが前提でした。そのやり方を、ファイナンス畑の夫にいろいろと相談していたところ、ビジネスとして興味を持ってくれ、一緒にやることにしたのです。夫はもともと証券会社で資金調達やM&Aに従事しており、相談した頃はフィンテック系スタートアップで経営企画を担っていました。資本政策が専門の夫が関心を持ち、このビジネスに意義を感じてくれたので、起業に踏み切りやすかったですね。

エクイティとは別枠で資金や支援が得られる1stRoundは貴重

―そうして2021年10月会社を設立され、2022年度開催の第6回1stRoundに採択されました。応募された経緯を教えてください。

川田:助成金の機会やアクセラレーションプログラムがあれば積極的に応募していました。特に資金調達前だったため、エクイティに紐づかない形でいろいろ支援してもらえる1stRoundは魅力的だったのです。

―具体的に、どのような支援が役立ちましたか。

川田:まず選考段階で、プレゼンテーションの緊張を体感できたのが良い経験になりました。そうした場の空気をダイレクトに感じられたのは貴重でしたね。

プログラムでは、外部の方が伴走するように付いてくれ、定例会ごとに進捗を確認し、次回までに必要な行動を明らかにしてもらえたことで、着実に事業を前進させられました。当時はまだコアメンバーが2人で身内でもあったため、客観的に見てもらえたのが特に有難かったです。

また、オフィスを構える前でしたので、外部とのミーティング用に会議室を借りられたり、プロフィール写真をプロのカメラマンに撮影してもらえたのも役立ちました。特に写真は、ホームページを作ったりイベント登壇の際に必要ですが、創業時の忙しさの中では後回しになりやすいもの。広報戦略上も大事なので、きちんと撮ってもらえたのが良かったです。

起業したこと、求めていることを素直に伝え、周囲を巻き込む

―現在、会社の体制はどのようになっていますか。

川田:社員の人数は一桁ですが、フリーランスや兼業など、さまざまな働き方で参画してくれる人がいて、総勢約30名となっています。開発は内製で、フルスタックエンジニアのCTOのもと、フロントエンジニアやサーバーサイドのエンジニア、デザイナーなどがいて、チームで開発を進めています。

基本的には人づてによる紹介でメンバーを集めました。親しい人に個別に対面で、起業したことやエンジニアを探していることを伝えていったのです。後にホームページができると、SNSにコンタクトをもらうこともありましたが、初期はほぼ人間関係によるものです。エンジニアのネットワークがありそうな人や、スタートアップに興味がありそうな人に相談してみたり、互いの近況報告のなかで、どんな人なら興味を持ってもらえるかなど手前の相談をしてきた結果ですね。

―みなさん、どういう思いで参画されているのでしょうか。

川田:医療というのはビジネスとしては、医療の専門職でないと接点がなく、どういうふうに貢献できるかが分かりづらい領域の代表格だと思います。一方で、子どもが生まれたり、家族が病気に罹ったりすると、自分ごととして重要性を感じるもの。そこで話をするとエンジニアは、医療機器をソフトウェアで作れたり、医療のバックグラウンドがなくてもできることがあるのなら、何かしら携わりたいと言ってくれますね。臨床開発や薬事のメンバーには、従来の医薬品や医療機器と違い、新しい領域であるプログラム医療機器に興味を持ってもらえます。

―そうして仲間が集まり、2022年11月には資金調達も発表しました。次の目標は何ですか。

川田:まず、人はまだまだ必要なので、興味がある方はぜひ問い合わせていただきたいですね。

事業展開としては、初期的な試験は実施して良好な結果を得ています。そのうえで、さらに安定的に多人数での運用に耐えられるよう、プロダクトを改善していくのと、社内の運用体制も整備していきます。

―最後に、起業を考える方へアドバイスをお願いします。

川田:少しでも起業してみたい気持ちがあれば、周りの人にどんどん話してほしいですね。私の場合は、一番身近だった夫が実際にビジネス面でもパートナーになってくれました。チームを作っていくときにも、いろいろ話していく中で周りが助けてくれます。

事業アイデアについて、少し批判的に見られた場合も、そのおかげで事前に失敗を防げたりします。その意味でもまずは人に話していくことをお勧めします。

 

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