2023/11/15

独自の液晶レンズ技術によるオートフォーカスグラスで、ヘルスケア・XRに革命を

株式会社エルシオ | 代表取締役 李 蕣里

2022年度に開催された第6回の1stRound支援先の一つである株式会社エルシオは、「液晶レンズを通じて、ライフスタイルを改善し、未来に貢献する」という理念のもと、液晶レンズ技術を活用したオートフォーカスグラスを開発している、大阪大学発スタートアップ。2023年9月には7,000万円の資金調達を行った代表取締役CEOの李蕣里氏に、独自の液晶レンズ技術を事業化してきた道のりや今後の展望、1stRoundで役立ったことなどを聞いた。

大学発の液晶レンズ技術で事業化を図り、次世代メガネにフォーカス

―まず、エルシオの事業について教えてください。

大阪大学での技術開発を経て完成した液晶レンズ技術を活用し、度数を変えられる老眼鏡を開発しています。スマートフォン経由で近視用と遠視用にピントを調節でき、従来の遠近両用眼鏡などに比べて目の疲労を軽減するもので、2024年半ば頃に試験販売を始める予定です。

またヘルスケア用途に加え、応用領域における技術革新も行っています。たとえば、メタバース空間でこのレンズを使うと物がはっきり見え、映像酔いを軽減できます。そこでスマートグラスメーカーからの引き合いもあり、並行してXR端末向けの次世代レンズの研究開発を進めています。

―液晶レンズ技術ということですが、どのように事業化を進めてきたのですか。

この技術は共同創業者の澁谷義一の発明によるものです。液晶分子を動かすことでレンズ様の光の波面を生成し、ピントを調節できるというもので、2014年より論文も発表しています。レンズは口径が小さいとスマートフォンやカメラ用となりますが、当社は事業化にあたり、大口径化にチャレンジすることを決め、それに向いた構造を採用して研究開発を進めました。

私が事業化に取り組み始めたのは2015年で、2017年には開発にも加わり、レンズの大口径化と老眼用メガネへの応用を目指して、市場ニーズや資金面も検討し始めていました。たとえば大阪大学医学部附属病院でリサーチして、小児弱視の治療ニーズに応えられる可能性を見つけました。   

―李さんはもともと起業志向だったのですか。

私の専門は化学で、半導体や電子材料の開発を有機合成のアプローチで行っていました。大学院修士課程のときに、そのまま研究者や教授を目指すか、自分で開発した技術で起業するかで迷っていたとき、アントレプレナーシップ講座に参加したところ、開発したものとニーズが結びつけば世の中に出せるという道筋が腑に落ちました。そんなときにこの事業化のプロジェクトと出会って手応えを感じ、これで起業しようと考えました。

―会社を設立したきっかけは何でしたか。

開発を続けるには各種の助成金に頼る必要があり、その申請のために法人格が必要だったのです。それでもともとこの液晶レンズの開発者だった澁谷と共同創業して、2019年4月に当社を設立しました。2人とも技術者・研究者ではありますが、澁谷には開発に専念してもらい、それ以外は全部私が引き受けることとしました。ですが私自身、会社で勤務した経験がないので、リーダーシップや経営についての知識をつけるため、会社経営と並行して経営大学院などの外部の教育機関で学んだりもしました。

1stRoundの支援で、会社体制の整備や企業とのPoCを推進

―そうして2022年度の第6回1stRoundに採択されました。応募された経緯を教えてください。

その頃は事業化のためにNEDOの助成金を得るなど、とにかく資金面でいろいろと動いていました。それで東大IPCにも出資の相談をしたときに、当時の事業の状況ではまだ出資は難しいが、その手前の支援をする1stRoundならマッチするのではないかと紹介されたのです。

―具体的に、どのような支援が役立ちましたか。

まず事業化について、メガネの事業でPMFがちゃんとできているか、ユーザーの声をどう活かしていくかなど、磨き込むべき点に必要な助言をいただけました。ロゴを作るなど会社としての形を整えることも、この時期に行っています。プレゼンテーションの壁打ちはもちろん、デザインを見てもらえる人を紹介いただいて資料もブラッシュアップできました。助成金アドバイザーも紹介してもらい、その方の協力で実際に助成金が2件獲得できています。

―当時、プロダクトはどのような段階だったのですか。

有線では駆動できる状態で、行動範囲は広くなく多少の移動はできるという程度でした。レンズのクオリティもまだ今より低かったです。その後、助成金でワイヤレスのメガネの試作品を作ることができました。装着したメガネのつるにあるスイッチで、自分で度数を変えられるというものです。それがなければ、後のVCからの資金調達(2023年9月)は難しかったでしょう。

―すると、1stRoundは事業化にかなり役立ったわけですね。

そうですね。1stRoundを通じて企業とのPoCも行うことができましたし、メガネ事業でやっていくための技術的課題が明確になり、開発観点で非常に良い知見が得られました。また、PoCでご支援をいただけたこともあり、単なる研究開発だけでなく、事業提携なども目指して活動しているという当社の姿勢も積極的に発信できました。

また、1stRoundの担当者からは、周囲からの支援にきちんと応える姿勢や態度といったマインド面も指導されました。学術的な助成金をもらうのとは違って、スタートアップは他の企業や機関からの支援があって成り立つものです。支援いただいていることに感謝はしていたのに、それを表現できていませんでした。社長として社内を統制しながら、外部の方とも円滑にコミュニケーションを図る重要性にも気づかせてもらいました。

次世代アイウェアのキーデバイスとして、ヘルスケア・XR領域を支える

―現在、会社の体制はどのようになっていますか。

共同創業の2人に加え、業務委託や嘱託を含めて6人のメンバーがいます。大手メーカー出身の光学系の設計者、技術評価責任者などが中心です。60代など、経験豊富なベテランが多く、期間や内容を明確に指示させてもらうことで製品開発を進められています。

また、当社では知財領域を重視しており、専任の社員を1人おいて、外部の弁理士と一緒に知財戦略を考えてもらっています。液晶は80年代からある技術なので、既存の特許を侵害しないよう進める必要がありますし、競合も開発を活発化させているので、知財戦略が特に重要なのです。さらにXRグラスではGAFAMもプレイヤーになるので、そのなかでどう戦っていくか、あるいは当社の価値を彼らにどう示していくかという点でも、知財戦略が肝になります。

―事業や会社全体の今後の展望を教えてください。

最初はB2Cのビジネスモデルを考えましたが、資金調達を目指すなかで、B2Bに切り替えました。現在は、国内外のメガネリテーラーと商談を進めています。たとえば国内大手OEMと連携して、当社のレンズのモジュールやメガネを卸して販売を委託するモデルなどを検討しています。

2024年前半には、企業向けに試験販売を行えるプロダクトの完成を目指しています。そこで量産化を検討し、体制を組んで、うまくいけば半年から1年後に量産販売を始めたいと考えています。

社内の体制では、今は私が開発の進捗管理を行っていますが、今後、製造含め、任せられるメンバーを採用したいです。私自身は会社のフェーズに合わせ、事業化のためにもっと様々な企業と出会いたいですし、海外市場の調査も行っていきたい。また、広報を強化することで採用にも活かせますので、役割をもっと対外的な活動にシフトさせようとしています。

―その先に目指す世界観はどのようなものですか。

当社のレンズやメガネは、装着するだけで目の病気を見つけたり治したりできるポテンシャルがあります。世界でいち早く高齢化社会を迎えている日本でそれをスタートさせるのは、大いに意義があるでしょう。また、液晶レンズは半導体を用いるデバイスなので、日本で再び最先端の半導体技術を勃興させていくことにも意欲を持っています。その際には多くの企業と連携し、エコシステムの形成を推進していきたいですね。

XRグラスについては、スマホを代替するインフラとなる可能性があります。そこに当社のレンズ技術が使われれば、視力を悪くすることもなくせますし、グラスデバイスによりハンズフリーで何でもできる世の中を、当社の技術が支えられるでしょう。人が目を使って視覚情報を得る限り、レンズは必ず使われるものなので、白内障の眼内レンズのように埋め込むものを含め、インフラとして絶対的に価値があります。当社のレンズが大きな歴史の転換点を生み出すかもしれないと言いたいですね。

―最後に、起業を考える方へアドバイスをお願いします。

起業すると決めたら、とにかく覚悟を決めてやり続けることですね。当社もキャッシュアウト目前になりながらも助成金で何とかつなぐような経験をしてきました。ソフトウェアならピボットもしやすいでしょうが、ものづくりではそれも限界があります。それでも私は、メガネ事業でとことんやり抜こうと決めています。

 

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