2024/1/16

体重管理などヘルスケアの習慣化で、生命力溢れる世界の実現を目指す

issin株式会社 | 代表取締役CEO 程 涛

2022年度の1stRound支援先の一つであるissin株式会社は、東大発ベンチャーの走りであるpopIn(ポップイン)を創業・バイアウトした程涛氏が2021年4月に設立。日常生活に溶け込んだヘルスケア体験の実現を目指し、体重計とバスマットを一体化させて体重管理する「スマートバスマット」など、健康管理のソリューションを開発・提供している。2023年1月には5.3億円の資金調達を行っている代表取締役CEOの程涛氏に、プロダクトの特徴や、2度目の起業に至った経緯、今後の展望などを聞いた。

体重変化を記録&先読みするバスマットで、健康意識を向上

―まず、issinの事業について教えてください。

程:最初に製品化したのは「スマートバスマット」といって、体重測定ができるバスマットです。風呂上がりに3秒乗るだけでスマホに体重とBMIの変化が記録されるため、無意識に体重管理が習慣化できます。

さらに、この体重管理と組み合わせたサービスとして、管理栄養士などの専門家がAIと協働して、行動変容モデルに基づき生活習慣の改善を促すプログラム「Smart Daily(スマートデイリー)」と、AIパーソナルコーチと1日5分のエクササイズで心拍数を上げるスマートバンド「Smart 5min(スマートファイブミニッツ)」を開発・リリースしました。

これにより、体重測定習慣・生活習慣・運動習慣というヘルスケアの習慣化をワンストップで支援します。時間やお金、労力を抑えながら、楽しくヘルスケアに取り組める仕組みを提供するのが当社の事業です。

―最初の「スマートバスマット」の製品化で、最も苦労したことは何ですか。

程:バスマットと体重計を両立させることです。バスマットはどこに立ってもいいですが、体重計は真ん中に立つ必要があり、それを意識せねばなりませんでした。また、事前のアンケートでは、女性は自分の体重を見るのがストレスだという声もあり、数字を見せないというのもチャレンジでした。

そして「家族の健康」にも留意しました。最大8名分までデータを取れ、各自のアカウントで確認できる他、離れて住む家族のデータもリモートで確認できます。その他、単に体重を記録していくだけでなく、体重変化の傾向をAIが解析し、未来の体重変化を先読みしてくれる機能により、健康意識を高めます。実際にユーザー調査によれば、約30日間の利用で平均0.8kg体重を減らせています。バスマットとしても、洗濯機で丸洗いできる珪藻土入りのソフトなもので、快適に使えるようにしています。

―競合する製品はないのでしょうか。

程:フランスで似たようなアイデアはあったようですが、まだ製品化されていません。また、体重計は高機能なものが多数販売されていますが、サービスまで含めてきちんと提供されたものはないと考えています。

また、ヘルスケア領域だとウェアラブルデバイスも多いですが、血圧が測れるスマートウォッチは、装着していなければデータが取れません。面倒でつけなくなってしまうことも多いでしょう。私が目指すのは「無意識の健康管理」です。そのために体重変化を管理することを考え、できるだけ毎日同じ時間帯で測れるタイミングを検討した結果、服を脱ぐ入浴時に目をつけたのです。

30代のラストチャレンジで、健康をテーマに2度目の起業を決意

―程さんが起業されたのはissinが2社目です。1社目のpopIn(ポップイン)株式会社について教えてください。

程:私が学部生の頃は、FacebookやTikTokが全盛期で、憧れの存在でした。また、当時やっていたプログラマーのアルバイトは待遇も良く、好きなことで稼げるのが楽しいと感じていました。そんななかで将来起業したいと思ったのです。そして東京大学大学院情報理工学研究科の修士課程に在籍していた2008年に、研究成果である自然言語処理のユーザーインターフェースの技術を元に、UTECの支援でpopInを創業しました。2015年に中国検索大手Baidu(百度)の日本法人と経営統合した後も子会社として活動を続け、2017年にはプロジェクターとBlueToothスピーカー、シーリングライトを一体化させた「popIn Aladdin(ポップインアラジン)」を開発し、3年間でシリーズ累計販売台数20万台を超えるヒットとなりました。

―そのように成功された中で、issinを起業されたのはなぜですか。

程:仕事は楽しく充実していましたが、40代を目前に健康診断の結果は悪くなる一方だったため、30代でのラストチャレンジとしてヘルスケアの新事業を考え始めました。そこでpopInの代表を務めながら、2021年4月にまず会社を設立。その年末にはバスマットを体重計にするアイデアに行き着き、工場など製造工程の検討・確保を進めて、2022年4月にはスマートバスマットの事業化を本格始動しました。プロトタイプを作り、量産に向けて3ヵ月のクラウドファンディングで3000万円を募ったところ、3200万円を集めることができ、11月には一般向けに販売を開始しました。

このあたりの、自分が欲しいと思うものを形にし、クラウドファンディングでマーケティングの手応えと資金を得るというのは、popIn Aladdinでの経験が生きています。アイデアを思いついても、世界で他に似たようなことを考えている人がいるかもしれませんから、いち早く形にして世に出すことが大事だと思います。

Non-Equityの資金提供や大手との協業可能性は、1stRoundの大きなメリット

―2022年度の1stRoundに応募されたのはなぜでしょうか。

程:採択されると、株式の取得なしに500万円の事業資金が提供されるのが魅力でした。この資金は、金型の製作や開発費などに使いました。また、支援期間中にコーポレートパートナーと協業や実証実験を行うと、さらに最大500万円が別途提供されます。当社ではヘルスケアを幅広くライフスタイルに溶け込んだ形で提供していこうとしているので、不動産業界や保険業界など、さまざまな企業とコラボレーションの可能性が考えられます。実際にある企業との実証実験が実現しており、資金とともに貴重な縁をいただけたと感謝しています。

―そのほかに、1stRoundで役立ったことはありますか。

程:採択されることにより、会社やサービスの知名度が上がりました。また、広報に関して、ビジネス誌の取材を仲介いただいたり、今も新しいサービスをリリースすると東大IPCのアカウントからも発信されるなど、協力いただいています。

支援期間後にも、当社に興味があるという人材を紹介され、面談したところマッチしたので、すぐに採用を決めさせてもらいました。スタートアップだと採用は苦労しますが、紹介手数料もかからず、真に興味を持ってくれる人材と出会えて有難かったです。

―程さんのように最初の起業で大成功を収めた方にとっても、1stRoundの支援は価値があるものですか。

程:前回とは全く別の事業ですし、創業期には必ずリソース不足が課題になるものです。それを少しでも補えるのは有難く、その点1stRoundではハンズオン支援も含め、たいへん良い形で支援してもらえたと思います。

習慣化のフレームワークを横展開・海外進出へ

―今後の事業展開はどのように考えていますか。

程:体重管理を入口に、そのために重要な要素である食事と栄養摂取まで一貫して管理できるソリューションを、ワンストップで提供できる基盤がようやく整いました。これを一般消費者のなかで健康意識の高い層に提供するとともに、むしろ重要といえる、意識の高くない層に対しても健康保険組合や自治体を通してリーチしていこうとしています。

実際に今、スタッフは15人程度で、いったん必要な人材は揃いました。直近で採用したのは管理栄養士と事業開発です。専門家によりヘルスケア系プログラムのさらなる充実を図り、健保や自治体への生活習慣改善プログラムの提供を、事業開発で推進してもらいます。

2024年はまずこうした活動により、習慣化のフレームワークを構築します。そうして将来は、睡眠やメンタルヘルスへの転用も見据えています。また、海外展開もまずどこか1ヵ国で挑戦を考えています。

―最後に、起業を考える方へアドバイスをお願いします。

程:何かアイデアがあれば、まず実際に行動に移すことが最も重要です。頭の中でいくら考えていても答えは出ません。

私自身、中国人ですが特に裕福な家庭ではなく、2001年に来日しましたが、友人や親戚などの人脈やお金のない状態でした。そんなマイナスからのスタートでも、ビジネスを形にし、成功することもできています。日本人の方であれば、より良い状態でスタートラインに立てるはずですから、ぜひ自信を持ってチャレンジしてほしいですね。

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