2023/12/20

音声認識・自然言語処理技術により、商談の対話情報を日本企業の経営価値にする

株式会社ブリングアウト | 代表取締役社長 中野 慧

2022年度の東大IPC・1stRound支援先の一つである株式会社ブリングアウトは、「あらゆるコミュニケーションを、より透明で建設的にする」ことを目指し、商談の解析・自動テキスト化を行う営業DXツールを開発・提供している。2022年10月には2億円の資金調達を行った代表取締役社長の中野慧氏に、プロダクトの特徴、他の議事録ツールとの違い、起業に至った経緯、今後の展望などを聞いた。

議事録ツールと一線を画す、データドリブン経営のインフラ

―まず、ブリングアウトの事業について教えてください。

中野:99%の音声認識精度で文字起こしして、商談の可視化や報告書などの自動作成を行い、事務工数を大幅削減できる営業DXツール「Bring Out」を開発・提供しています。一般的な議事録ツールと大きく異なるのは、AIモデルのチューニングを行い、お客様の業界や事業の状況にカスタマイズできること。また、当社独自のAIは重要箇所を特定できるため、当該商談において予算や決済ルートなど重要事項の把握ができているか、コンプライアンス規定に則った営業トークができているかなども、80%を超える精度で自動判定と要約の生成を行います。

そして、このようなデータを構造的に整理し、経営に活用できるような形で提供するコンサルティングも合わせて行うことができます。

―商談の情報を経営に生かす事例にはどのようなものがありますか。

中野:営業担当者ごとの商談内容を比較してハイパフォーマーの特徴が分かれば、組織に横展開して全体の底上げを図れます。また、たとえば納期の合意と成約率に相関が見られれば、今後は納期の合意を商談時に徹底するなど、具体的なアクションにつなげられるので、営業部内の人材育成に役立ちます。そのほか、商談記録の作成を自動化できたり、商談内容をSalesforceに連携できたりするので、作業時間を短縮しながら、ポイントを押さえた報告・連携が可能になります。

さらに、商談から得られた顧客が本来望む仕様などの情報やニーズを製造・開発や商品企画に活かしたり、事業計画の達成確度を予測して経営企画に役立てたり、従業員ロイヤリティについて人事に活かせたりと、商談の対話情報には多様な価値が見込めます。これらを活用したデータドリブン経営を推進していきたいですね。

人生のテーマだった教育・育成を軸に、2社目を起業

―中野さんはもともと起業志向だったのですか。

中野:社会人として、20代は外資系コンサル会社で企業買収後の事業再生に従事しましたが、30代では社会に新たな価値を生み出すことをしたいと強く思っていました。私自身、大検で東大教育学部に入学しており、教育が人生において大きなテーマ。「インプットのされ方により、人がどう育つのか」に興味があったところ、縁あってリクルートでスタディサプリ事業に携わることとなりました。その後、事業開発なども担ううちに、次のステップとして起業があたり前の選択肢になっている風土に刺激され、自分でも起業を意識するようになりました。

また、コンサル時代にDXを推進することで現場の生産性が劇的に変わる体験をしました。リクルートでの業務でも、アナログオペレーションをDXして大きなインパクトを得る手応えを感じたため、DXで非連続な価値創造を生み出すような事業を自分で興したいと思いました。

―それで起業されたのですね。

中野:実は、ブリングアウトの前に1社、起業しています。組織で行ってうまくいったことを投稿し、コメントを付け合うナレッジマネジメントサービスでした。コンセプトは良く、上場を目指しましたが、共同創業者と考え方の相違があり、そこを離れて2020年12月にブリングアウトを設立したのです。

―事業アイデアはどのように考えたのですか。

中野:3~4ヵ月模索し、音声認識や自然言語処理技術が急速にレベルアップしている現状をふまえ、全ての対話情報を蓄積する中で組織に示唆できるものがあるのではと、今のビジネスモデルを考えました。当初は今ほど価値が見えきっておらず、まずは営業生産性を向上させるツールとして開発し、2022年7月にプロダクトをリリースしました。

その後、2023年2月頃からChatGPTが一気に話題になったことで、これはゲームチェンジだと思いました。営業向けだけでなく多様な領域で活用できるイメージが湧いたのです。

透明性ある組織運営による強いチームで、事業成長をともに目指す

―1stRoundに応募されたのはなぜですか。

中野:事業を進めていく中で、東大IPCのプログラムに採択されることが顧客や投資先候補様からの信頼獲得につながると認識しました。実際2022年10月、IPCのプログラム採択直後に資金調達を実施できました。そこで、東大IPC自体からも成長に期待をいただき、追加出資を得られたので、ありがたかったですね。

広報関連でもいろいろと支援いただきました。プログラム終了後も引き続きサポートいただいており、紹介された記者を通じて新聞記事で取り上げてもらったりしています。

また、採択されたブランド価値も実感していて、営業しているとお客様から信頼感を得られていると感じます。紹介されたパートナー企業で商談がうまく進み、受注につながったケースもありました。

―現在、会社の体制はどのようになっていますか。

中野:正社員が16名で、CTOやCOO、エンジニア、セールス、カスタマーサポート、BizDevなど、主なファンクションは揃っています。業務委託やプロボノに頼らず正社員を、というのは意識してきました。創業期は小さな方針変更やピボットが日常的にあるので、業務委託で決まったタスクベースで業務をこなしてもらうよりは、柔軟に対応でき、一緒に成長していけるチームを重視しています。

―2020年の年末の創業にしては、すでに組織ができあがっていますね。

中野:1社目の起業経験をふまえ、創業当初から強い組織づくりに注力してきました。最初が大事なのでバリューを細かく作り、それを浸透させるために組織改善のフレームワークであるKPT(Keep:良かったこと・継続すべきこと、Problem:問題と思ったこと、Try:来月挑戦したいこと)を毎月共有。さらに組織の透明性を保つために週次で、会社としてやろうとしていることを共有し、議論しています。また、チームメンバー各人の性格をMBTIツールで可視化。外向・内向型、感覚・直感型、思考・感情型、判断・認知型の組み合わせによる16タイプのどれなのかを理解して、互いにコミュニケーションをとっています。

―実際、スタートアップで正社員として働く皆さんには、何がモチベーションになっているのでしょうか。

中野:CTOはリクルート時代からの仲間で、開発メンバーは彼のリファラルにより集まり、参画してくれています。また、エンジニアにとっては技術面で自然言語処理やデータなど、最先端技術にチャレンジできることがモチベーションにつながっていると思います。KPTなどもエンジニア文化から生まれたもので、そうした風通しの良い働きやすさは、ビジネス側にも心地よいでしょう。

ビジネス側のメンバーにとっては、当社のプロダクトが、自分が仕事をしてきて過去にペインと感じてきたことを解決するものだということ。多かれ少なかれ、伝言ゲームになることによる非効率を感じてきたメンバーがほとんどです。それで、この事業に興味を持って参画してくれている人が多いです。

組織づくりも後戻りはできず、創業時からの取り組みが肝要

―今後の事業展開はどのように考えていますか。

中野:営業、採用などの特定領域に限らず、組織のインフラとして、このサービスを導入していれば社内外の対話情報が全て解析可能なデータの形になり、変革に役立てられるものにしていきたいのです。そこで日本の商習慣に合わせ、たとえば営業で商談後のお客様にお礼のメールを自動生成できるなど、細かい負を解消する機能追加を加速させていきます。こうして日本企業に対して痒いところにも手が届くものを作ることが、当社の存在理由になるでしょう。

今後の青写真としては、現在、大手企業向けにカスタマイズして導入されているものから、知見を生かして業界ごとに汎用版を作って展開。ゆくゆくは中小企業を含め、日本企業なら当然導入されている「組織のインフラ」となることを目指します。

―最後に、起業を考える方へアドバイスをお願いします。

中野:組織づくりは最初から考えておくべきです。一般的にスタートアップでは資本構成は後戻りできないから株主の選択には気をつけようといわれますが、組織づくりも後戻りができず、自分の行動1つ1つの積み重ねとなる部分が大きいもの。たとえば、自分が経費に関して緩くて公私混同しがちだったりすると、組織が大きくなり、新たに加わった人が同じようなことをしているときにダメだと言えなくなるでしょう。

そんなふうに、1つ1つの行動が組織を作る上での歴史になっていくと痛感しています。どういう人たちと働きたいのか、どういう組織を作っていきたいのかを、最終形から逆算して今の日々の行動をスタートさせてください。

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