2022/3/24

メザニンファイナンスとは?ミドルリスク・ミドルリターンの資金調達手法

メザニンファイナンスとは

メザニンファイナンスとは

メザニンファイナンス(英語:Mezzanine Financing)とは、デットファイナンス(例:銀行融資、社債など)とエクイティファイナンス(例:第三者割当増資、株主割当増資など)の中間に位置付けられる資金調達方法です。

貸借対照表の構造を見たときに、「1階部分の純資産」と「2階部分の負債」の中間に位置するために、「中2階」を意味する「メザニン」の表現が用いられています。

代表的な手法としては、優先株式、劣後ローン・劣後債、ハイブリッド証券、新株予約権付転換社債(CB)などの種類が挙げられます(詳細は後述します)。

なお、デットファイナンスおよびエクイティファイナンスの詳細を知りたい場合は、それぞれ以下の記事で解説していますのでご一読ください。

デットファイナンスとは?特徴や種類、メリット・デメリットを解説

エクイティファイナンスとは?資金調達でのメリット、デットファイナンスとの違い

メザニンファイナンスの特徴

資金提供者からすると、それぞれデットファイナンスはローリスク・ローリターン、エクイティファイナンスはハイリスク・ハイリターンな資金調達方法であるのに対して、メザニンファイナンスは相対的にミドルリスク・ミドルリターンです。

つまり、エクイティファイナンスよりもリスクを抑えながら、デットファイナンスを超えるリターンの獲得を目指すことが可能です。本章では、メザニンファイナンスの持つミドルリスク・ミドルリターンの特徴について詳しく解説します。

ミドルリスク

デットファイナンスにはシニアローン(他の債権よりも優先的に弁済されるローン)の性質があり、メザニンファイナンスと比較すると返済順位が高いため、相対的にローリスクです。例えば、企業が破綻すると、デットファイナンスの資金提供者が優先的に債権を回収でき、メザニンファイナンスの資金提供者は債権の一部しか回収できないケースが十分に想定されます。

続いて、エクイティファイナンスは、メザニンファイナンスと比較すると弁済順位が劣るためにハイリスクです。企業が破綻した場合、エクイティファイナンスの資金提供者は、自身に弁済の順番が回ってきた時、投資先に資産がなければ資金が返還されないため、投資した資金を一切回収できないケースが十分に想定されます。

以上より、メザニンファイナンスは、デットファイナンスよりもハイリスクであり、エクイティファイナンスよりもローリスクであることから、相対的にミドルリスクだといえます。

ミドルリターン

デットファイナンスとメザニンファイナンスでは、元本と金利の回収が行われる点は共通します。ただし、デットファイナンスは、メザニンファイナンスよりもローリスクであることから、金利や投資倍率が低い(ローリターン)です。

続いて、エクイティファイナンスはメザニンファイナンスよりも弁済順位が劣るものの、デットファイナンスやメザニンファイナンスの回収後に残余資産すべてを回収できることから、回収可能額が大きければ投資倍率は最も高くなります。そのほか、配当金や、株価が上昇すれば多額のキャピタルゲイン(当初の投資額と企業成長後の株価の売買差益)を得られる可能性もあるため、メザニンファイナンスよりもハイリターンだといえます。

上記を踏まえると、メザニンファイナンスは、シニアローンよりもハイリターンであり、エクイティファイナンスよりもローリターンであることから、相対的にミドルリターンだといえます。

メザニンファイナンスのメリット

メザニンファイナンスのメリット

本章では、メザニンファイナンスを通じて資金調達を行う代表的なメリットとして、3つをピックアップして紹介します。

資金調達の選択肢を増やせる

資金調達の手段としては、銀行融資や社債などのデットファイナンス、公募増資や第三者割当増資などのエクイティファイナンスが一般的です。

上記に加えて、さまざまな種類が存在するメザニンファイナンスは、企業にとって資金調達の選択肢を増やせるというメリットがあります。

資本蓄積にかかる時間を短縮できる

スタートアップやベンチャーなど成長途中の企業では、会社の資金ニーズが高まる一方で資本蓄積や財務基盤が盤石でないため、金融機関からの資金調達が困難なケースが見られます。

上記の状態において、メザニンファイナンスを通じて資本力を強化すれば、金融機関から追加の資金調達を行える余地が生まれる可能性があります。このように、メザニンファイナンスによる資金調達には、単純な利益の積み上げでは長い時間が求められる資本蓄積を早期に実現できるメリットがあります。

メザニンファイナンスによる資金調達を実行する可能性がある”スタートアップ”と呼ばれる組織について、以下記事で解説しています。ご一読いただければスタートアップが資金調達する背景がわかるようになります。

スタートアップとは?ベンチャーとの違いを解説【図解あり】

経営者の権利の希薄化を避けられる

一般的に、デットファイナンスを通じた資金調達が困難な企業では、エクイティファイナンスが採用されます。しかし、エクイティファイナンスを通じて資金調達を行うと、経営者の持っている権利が希薄化するおそれがあります。

例えば、第三者割当増資による資金調達では、もし新たな株主に対して議決権の過半数を渡してしまうことがあれば、最悪のケースでは経営権を奪われかねません。たとえ経営権を失う事態にまで発展せずとも、議決権の希薄化は株式の分散を意味し、後継者に自社株式のすべてを引き継ぎたい中小企業や、M&Aによる売却で自社を完全子会社化したいスタートアップなどで大きな問題となります。

上記に対して、メザニンファイナンスを通じた資金調達では、資金提供者に議決権を渡す必要がありません。このように、議決権を維持しながら資金調達を行える点は、事業承継やイグジットなどを図る場合に魅力的なメリットです。

メザニンファイナンスのデメリット

メザニンファイナンスによる資金調達には、メリットだけでなくデメリットも存在します。本章では、代表的な2つのデメリットについて解説します。

コベナンツ・担保によって経営の自由度が下がる

資金提供者からすると、メザニンファイナンスによる資金調達はデットファイナンスよりもリスクが高いため、厚い信用保全措置(例:コベナンツ、全資産担保の設定)を求めるのが一般的です。

コベナンツ(英語:Covenants)とは、誓約条項や確約条項とも呼ばれており、資金調達を行う企業(債務者側)に対して一定の制約や義務を課す条項です。課された制約や義務が守られずに資金提供者に不利益が生じた場合、資金提供者が契約解除や条件変更を行えるよう規定されています。

例えば、債務者である企業に対して、設備投資制限条項として「設備投資の上限は年間1億円」という制限を課すことで、債権者はメザニンファイナンスのリスク軽減が図れます。コベナンツにより一定の制限が課されると、対象の企業では自由かつ機動的な経営を行えなくなります。

また、後述する「劣後ローン」を用いてメザニンファイナンスを行う際、資金提供者が企業に対して全資産の担保を求める場合があります。

このように、コベナンツや担保の設定によって、経営の自由度が低下する点はデメリットだといえます。

資金提供者に求められるリターンが大きい

メザニンファイナンスはデットファイナンスよりもハイリスクであることから、資金提供者は比較的大きなリターンを求めます。ミドルリスク・ミドルリターンの性質上、当然の要求であるものの、メザニンファイナンスを用いた資金調達を検討する際は、対価となる条件や制約などを把握しておく必要があります。

メザニンファイナンスの種類

メザニンファイナンスの種類

本章では、メザニンファイナンスによる資金調達方法を4種類取り上げて、概要を紹介します。

優先株式

配当の支払いや残余財産の分配などが普通株に優先する株式をさします。優先株式は、種類株式の1つとしてエクイティファイナンスの手法として挙げられる場合が多いものの、エクイティファイナンスとデットファイナンスの双方の性質を併せ持つことから、本記事ではメザニンファイナンスの1つとして紹介します。

優先株式では、議決権を付与しない代わりに、配当金(剰余金)や会社清算時の残余財産を普通株式よりも優先して受ける権利を与えるのが一般的です。

議決権を付与しない場合には経営権を希薄化させることなく資本を増やせるほか、優先株式によって得た資金は資本として扱われるため、自己資本比率を上げられる点もメリットです。その一方で、定款変更の手続きが求められる点や、デットファイナンスで期待されるような節税効果を得られない点などには要注意です。

劣後ローン・劣後債

これは、返済不能となった際の元本や利息の返済順位や清算時の配当順位などが普通社債(デットファイナンス)よりも劣る債券・ローンをさします。資金提供者からすると、元本の返済を受けられる可能性が普通社債よりも低い代わりに、利率が高めに設定される点が特徴的です。

劣後ローン・劣後債を用いた資金調達の主なメリットは、銀行の審査上、借入金が負債ではなく自己資本と同様なものとみなされる点です。つまり、貸借対照表上では債務超過に陥っている企業でも、劣後ローン・劣後債の存在によって債務超過に陥っていないものとみなされ、融資の審査上有利に動く場合があります。

ハイブリッド証券

株式と債券の特徴を合わせ持った証券で、主に自己資本の維持・増強を求める企業が発行しています。前述した優先株式や劣後債のほか、優先出資証券(配当の支払いや残余財産分配などが、普通の出資証券よりも優先する有価証券)もハイブリッド証券に含まれます。

ハイブリッド証券を用いた資金調達のメリットは、株式発行ではないので経営権の希薄化を避けられる点です。一方の資金提供者からすると、普通社債よりも高い利息収入を得られる点にメリットがあります。

新株予約権付転換社債(CB)

発行会社の株式に転換できる権利が付与された社債です。こちらも優先株式と同様、エクイティファイナンスとして挙げられる場合が多いですが、デットファイナンスとエクイティファイナンスの両方の性質を併せ持っているため、メザニンファイナンスの1手法とも考えられています。

資金提供者からすると、将来的に発行会社の株価が上昇すれば、事前に決められた価格(転換価格)で株式に転換することで値上がり益を獲得できます。ただし、株式に転換できるメリットが付いていることから、普通社債と比較すると利回りが低いです。

新株予約権付社債による資金調達で発行されるのは社債であるため、株式を発行する場合に必要とされるバリュエーション(企業価値評価)の算定が不要です。バリュエーションの算定が難しい創業直後の企業(例:スタートアップ)では、算定を先送りにできる点に大きなメリットがあります。

とはいえ、新株予約権付社債は借金であり、満期になれば元金の返済義務を負うほか、満期を迎えるまでは社債権者に対して利息の支払いが求められる点はデメリットです。

まとめ

メザニンファイナンスとは、デットファイナンスとエクイティファイナンスの中間に位置付けられる資金調達方法です。ミドルリスク・ミドルリターンの特徴を持っており、優先株式、劣後ローン・劣後債、ハイブリッド証券、新株予約権付転換社債(CB)などの種類が存在します。

メザニンファイナンスを通じた資金調達では、主に以下のメリットが期待できます。

  • 資金調達の選択肢を増やせる
  • 資本蓄積にかかる時間を短縮できる
  • 経営者の権利の希薄化を避けられる

その一方で、以下のようなデメリットが問題となるケースもあるため要注意です。

  • コベナンツ・担保によって経営の自由度が下がる
  • 資金提供者に求められるリターンが大きい

資金調達を行う際は、各手法に見られるメリットとデメリットを十分に検討したうえで、メザニンファイナンス・デットファイナンス・エクイティファイナンスの自社に適した手法やバランスを模索することが望ましいです。

DEEPTECH DIVE

本記事を執筆している東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)は、東京大学の100%出資の下、投資、起業支援、キャリアパス支援の3つの活動を通じ、東京大学周辺のイノベーションエコシステム拡大を担う会社です。投資事業においては総額500億円規模のファンドを運営し、ディープテック系スタートアップを中心に約40社へ投資を行っています。

キャリアパス支援では創業期~成熟期まで、大学関連のテクノロジーシーズを持つスタートアップへの転職や副業に関心のある方とのマッチングを支援しており、独自のマッチングプラットフォーム「DEEPTECH DIVEを運営しています。

DEEPTECH DIVEにご登録頂くと、東大IPC支援先スタートアップの求人募集情報を閲覧でき、またスタートアップから魅力的なオファーを受け取ることができます。ご登録は無料で、簡単なプロフィールを入力頂くことでご利用頂けます。

今すぐにキャリアチェンジをお考えでない方でも、東大IPC社員へのカジュアル相談は大歓迎です!もしご興味のある方は是非、マッチングプラットフォーム「DEEPTECH DIVEにご登録ください。

一覧へ戻る
東大IPCの
ニュースを受け取る
スタートアップ界隈の最新情報、技術トレンドなど、ここでしか得られないNewsを定期配信しています