東大IPC

Story

東大IPCでは、ベンチャー投資だけでなく、「東大IPC 1stRound」という 創業3年以内の起業家や起業前のチームに対し、
事業資金・ハンズオン支援・東大やパートナー企業のリソースをZero Equityで提供するプログラムを提供しています。
採択先に対しては、ビジネス推進から資金調達まで東大IPCが並走して支援します。
創業までの経緯、どのような支援が実際にあるのか、起業家たちに語っていただきます。

新材料開発で、安全・安価な高エネルギー二次電池の実用化を見据え、持続的で豊かな社会の実現を目指す

 2020年度の1stRound支援先の一つであるORLIB(オーリブ)株式会社は、代表取締役社長の佐藤氏による約20年の研究・開発ナレッジをもとに、2020年5月会社を設立。多電子反応を利用した高エネルギーで、エコ・安全・低コストの新世代二次電池の実用化を目指している。ドローンの飛行時間を2倍にしてインフラ検査に生かす用途から新型電池を量産化し、事業展開を模索している。その開発の道のりや目指す未来を、佐藤氏に聞いた。

 

リチウムイオン電池より高エネルギー、かつ安全、エコで安価が可能

――まず、ORLIBの事業について教えてください。

新型電池の開発と事業化を目指しています。電池技術というとリチウムイオン電池が有名ですが、これは30年以上前に開発され、現在まで世界中で技術開発が活発に行われ続けているもの。リチウムイオン電池の技術においては限界まで追い込んでいる状態で、iPnone用の電池や一部のEV向け電池がこれに当たります。

当社のアプローチはリチウムイオン電池とは別のプラス極、マイナス極で電気を貯める化学反応を起こす活物質を新しいものにするという試みです。キーワードは「多電子反応」で、電子が1つではなく2~3つ反応してくれるから電気がたくさん貯まる。それができる材料を開発しています。これは、リチウムイオン電池で実現している高エネルギーを一瞬で超えるような新しい技術開発なのです。

 

――開発はどのような段階まで来ているのですか。

当社では、プラス極の活物質とマイナス極の活物質という2つの技術を有しており、この技術の組み合わせ方により、多様な高エネルギーの電池が作れます。

代表例が2つあります。1つ目はマイナス極にシリコンを使うことで、従来品の1.7~2倍のエネルギーを溜めることができる電池です。小型のものは技術的に完成していて、量産化を模索しています。まずは委託生産から始め、市場で受け入れられれば、投資家を募ったりライセンス事業展開も考えられるでしょう。

用途としては、ドローン事業者が行うインフラ検査でのニーズがあります。日本ではトンネルや橋は5年ごとの検査が義務付けられていますが、それらは道路公団とJRだけで国内30万ヵ所もあります。そこでドローンによる検査技術が開発されましたが、現行の電池では飛行時間が20分しかなく、現場まで5分とすると往復で10分、余裕を5分見ると、検査できるのは5分だけです。それが、2倍の高エネルギー電池なら25分検査できるわけです。これは実証実験にも成功しており、事業化が今後の課題となっています。

 

――もう一つの活用例を教えてください。

プラス極の技術で、コバルトやニッケルなどレアメタルを使わない電池の開発を目指しています。実現にはあと1~2年かかりますが、レアメタルの代わりに多電子反応する有機化合物を使うので、熱暴走が起こらず安全で、かつ資源問題がなく、2~3倍のエネルギー品質を持ち、しかも価格も安い電池となります。こちらは、成層圏を連続飛行する携帯電話基地局などへの搭載を目指して開発を進めています。

 

20年続けてきた二次電池の研究開発の、事業化がようやく見えてきた 

――起業に至った背景を教えてください。

1999年頃に大手電機メーカーの研究所でリチウムイオン電池事業に従事していました。当時、製品ライフサイクルを検証するべく特許関連を調べると、1983年頃の特許に基づいてリチウムイオン電池が開発され、主だった特許は1987年までに出ていたことから、2010年には電池技術はコモディティ化すると予測されました。2000年時点で日本の電池シェアは90%超でしたが、10年持たないとすれば、次世代電池を開発するべきだという判断で研究が始まりました。しかし途中で方針が変わるなどして、研究ごと他の電子部品メーカーに移って続けることになり、さらに私自身も、山形大学に籍を移して研究を続けてきたのです。

その後、東京大学理学系研究科(当時)の西原寛教授を頼り、先生をプロジェクトリーダーとして科学技術振興機構(JST)の大学発新産業創出プログラム(START)に応募して、2017年10月から2020年3月までプロジェクトを進めました。このプロジェクトの目的がスタートアップを立ち上げることだったため、終了後の2020年5月にORLIBを設立したのです。

そして次のステップとして、新エネルギー・産業技術総合開発機構の研究開発型スタートアップ支援事業(NEDO NEP B)に採択されて2020年10月から2021年9月まで、インフラ検査ドローン用二次電池の開発を行いました、その申請の要件が2020年5月までに設立した会社ということだったため、その時期にORLIBを設立したのです。

 

――20年来の研究の賜物ですね。二次電池の開発には、どのような思いがあるのですか。

20年前の勢いのあった日本の電池産業を、再び盛り立てたいという思いがあります。今では電池技術は中国や韓国のほうが上を行っており、製造装置や材料も同様です。もはやリチウムイオン電池では敵わないので、仕切りなおしてこの新しい電池で戦いたいですね。電池産業を長年見続けた者として、このふがいない状況に何とか一矢報いたいのです。

 

――ORLIBという社名は、どういう意味ですか。

「有機」の意味を持つOrganicと、リチウムイオン電池(Lithium-Ion Battery, LIB)を組み合わせて命名しました。さらに、有機材料を使うというだけでなく、自然や環境、暮らし、健康などを含めてOrganicなイメージで、ORLIBと聞くとホワイトな会社を思い描いてもらえるよう、ブランディングできればと考えています。

月次の1on1で、資金戦略について得られた中立的アドバイス

――2020年度の1stRoundに採択されていますが、申し込まれた理由を教えてください。

会社を設立しても、当初は資金を使わずに、さまざまなサポートを多方面に求めていました。1stRoundもその一つです。実は、もともと東大アントレプレナーラボに本社と、日本科学未来館に実験室を置いていましたが、三菱重工が横浜・本牧地区に構える共創空間「Yokohama Hardtech Hub」に2022年4月に移転しました。それを紹介してくれたのは東大IPCです。スペースが230㎡と、以前の倍になったので、これから設備を拡充したいと考えています。

 

――そのほか東大IPCからの支援で、特に役立ったものはありますか。

月1回の1on1で事業運営や経営についてアドバイスがもらえますが、そこで言われたのが、資金調達は急がず、事業価値がもう少し上がるまではNEDOなどを活用して開発を進めるべきということでした。そのアドバイスに従って2021年度の研究開発型スタートアップ支援事業(NEP B)を申請し、獲得することができています。

また、そのNEDOの支援が終わったら、次はどうすべきかを、1stRoundは終了していましたがメールで相談し、客観的なアドバイスをいただきました。より自分たちの望むような事業化を実現するための、実のあるアドバイスをしてもらえています。中立的立場で言っていただける、貴重な存在ですね。特にものづくりのスタートアップがビジネスを行っていくときには、運転資金や独自技術をどう考えるかが肝心なので、ありがたいです。

  

――現在の会社の状態について、もう少し教えてください。メンバー構成はどのようになっていますか。

取締役3名を含め、社員は9名です。うち1名は研究員で、5名はNEDO事業の専属で雇用できる補助員です。そのうち1名は営業職ですが、電池業界のベテランで、もともとは日本の電池産業のために、といった思いで副業的に手伝ってくれていました。今は定年退職されたので当社で雇用しています。ちょっとした開発や評価、放電試験などの受託案件を取ってきてもらえ、それが運転資金の足しになっています。

 

――コーポレート業務の専任者などは、いないのですね。

そうですね。実験をメインで行いながら、傍らで資料整理・管理をやってもらったりしています。自社のホームページは、私が見よう見真似で作りました。閲覧数は多くはないものの、その1割くらいは商談や採用の問合せにつながっています。きちんと作れば、営業にも採用にも役立つので、ホームページは大事ですね。

――最後に、起業を考える方へアドバイスをお願いします。

資金調達は、思ったほど簡単ではない、というのをお伝えしておきたいですね。東大発ベンチャーであっても、自分たちの技術や事業にどのような魅力があるのか。どのような未来を描けるのかというのを、常に磨いていかねばならないのでしょう。伝える技術の問題もありますが、不確かなことは交えずに未来を語るのは存外難しいものです。しかし資金調達のためには、それを普段から整理して磨き上げておくべきでしょう。この夏からは資金調達やIPOに詳しいメンバーも加わることになっており、夢の実現も近いかもしれません。

 

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