【前編】「目的と手段を間違えない」Paidyの成長を支えるチーム構築・運営の哲学とは

株式会社Paidy|代表取締役社長 兼 CEO 杉江陸氏

業界を牽引する経営者に話を聞くシリーズの第2回目は、商品購入後に一定期間内で分割によるあと払いを可能とする決済サービス「BNPL(Buy Now Pay Later)」を2014年から提供する、株式会社Paidyの代表取締役社長 兼 CEOである杉江陸氏。

Paidyは2021年9月に、グローバルトップティアの一社であるペイパルにM&Aされ、その金額も3000億円(約27億ドル)と、それまでほぼ日本国内のみで閉じていた日本のスタートアップのエグジット案件のレベルを一段高めた事例といえる。そこでチームやカルチャーをどうつくってきたのか、スタートアップとして目指す世界観などを、多様な経営の修羅場を経験してきた杉江氏に、失敗も含めて経営理念やアドバイスを聞いた。

 

「目的と手段を穿き違えないこと」が採用にもチーム作りにも大事

――今さまざまな企業がBNPLで台頭しているなかで、Paidyの強みを探ってみたいと考えています。まずチーム組成や文化醸成に関する質問ですが、Paidy は2008年にラッセル・カマー氏が創業され、新生フィナンシャルで社長を務めていた杉江さんが2017年11月にCEO職を引き継がれました。以来、現会長のラッセルさんとは怒鳴り合いも辞さなかったそうですが、チーム内の軋轢をどう乗り越えてきたのでしょうか。

言い合いは今もあります(笑)。ですが、それぞれ役割が異なるので、それは当たり前なのです。私はCEOとして、日々の経営やオペレーションに責任があり、ラッセルはビジョナリーとして大方針を示し、より大きなネットワーキングに努めるのが役割。日々の痛みを見ている私に対し、彼はそれよりももっと前に進もうとするわけなので、誰かが邪魔するなら怒鳴るのが彼の仕事なのです。

しかし大事なのは、その軋轢を解消することではなく、目的を達成することです。継続的にビジネスを発展させていくために今、この問題をどのように対処すれば、2人とも満足できる結果につながるかを議論しているわけで、目的を達成するためだということが2人とも理解できているのが、Paidyの経営の強さといえます。

そもそも、チームなので違う意見があるのが当たり前。同じ意見なら2人いなくてよい。2人で12時間を使うくらいなら、1人で24時間使えばよいわけです。

チームというお話が出たので採用活動についても伺います。当時は就業時間の半分以上を費やすほど採用活動に注力されたそうですが、何を重視して採用されていたのですか。

まず大事にしているのは、「目的と手段を間違えない人」だということです。仕事は、生活や人生を豊かにするための手段だったりするのですが、目的もちゃんと持っていてほしい。例えば面接で「どんな筋肉を鍛えようとして、Paidyに来ようとしているのか」と聞いたときに、鍛えたい筋肉の話をしてくれるのか、Paidyって新しくてワクワクする、などと答えるのかによって、その人の目的と手段を間違えない力が見えてきます。そこでかみ合わない感じを2、3回繰り返す人は、Paidyには向かないでしょう。目的ドリブン、ビジネスドリブンな会社なので、それにフィットするかどうかを見ていますね。

 

――大学で起業支援をしていても、それは感じます。大学発ベンチャーでは新しい技術を使ってビジネスを行うことが多いですが、「なにか新しいからやってみたい」などが先行して、「そのケイパビリティを使って何を達成したいのか」が抜け落ちてしまいがちです。Paidyでも、ここで何を達成したいのかという、その人なりの答えを持っていることが大事なのですね。

そうですね。それは起業する場合にもいえることです。例えば「技術を世に問いたい」というのは、目的があるようで、実はありません。世に問うことのゴールは何か。多くのユーザーを獲得することなのか、多くの売上を達成することなのかなど、目的はいくらでも考えられるわけです。そこが明確になっていない創業者は、資金調達もうまくいかないでしょう。どこまで飛ぼうとして、いくら欲しいのかが分からないとダメ。そこを対話できるような人と仕事がしたいですね。

もう一つ、採用で大事にしているのは「自分となるべく遠い人」です。やはり、自分の意見に同意してくれるだけの人は、話していても面白くありません。だから、「私はこう思うが、あなたはどう思うか」「あなたはどうユニークなのか」といった話を、面接では必ずしますね。私と違うものを何か、持ってきてほしいのです。

 

――そうして、この人だと思って採用したときに、でもやはり違ったということはありましたか。もしあれば、そのミスマッチからどう学ばれたのでしょうか。

会社のフェーズによって求めるものも変わる、というのはあります。例えばCFOに求める役割も、シリーズBとシリーズDとIPO時の資金調達においてでは全く異なりますよね。投資家に対する向き合い方も、数や質も変わるし、いわばストーリーテラーからデリバラーの要素が増していったりします。これはマーケティングでもCTOでもいえること。スタートアップなので、そのフェーズで必要なことがあるものなのです。

ただし、間違ってはいけないのは、レイターステージが向いている人のほうが優れているわけではないということ。アングルの違いなので、優劣ではなく、フィットの問題です。だから、その人を否定してはいけません。

ですから一人ひとりと、求めるものについてしっかりと対話をし続け、もしスキルややりたいこととミスマッチがあるようなら、早めに解消するのがお互いのためです。その納得感が大事ですね。たとえば当社のCTOはもともと共同創業者のリーという者が務めていましたが、自ら退いています。今のCTOと私は入社するまでにずいぶん話をしていますが、リーにも会ってもらい、前任者である彼に認めてもらうところも大事なのです。

――採用について、座右の書『Startup CEO: A Field Guide to Scaling Up Your Business』を自ら翻訳された『スタートアップ・マネジメント 破壊的成長を生み出すための「実戦ガイドブック」(ダイヤモンド社)には、カルチャーフィットのために採用プロセスにチームを参加させると書かれていましたが、実際に面接はどのようにされていますか。

CEOとしての面接は私が一人で行います。やはり1対1が一番、本音が分かりますので。

ただ、例えばCHROが入社した当初は、彼が私の見方を知りたいというので、一緒に入ってもらったりはしました。そのように、目的に合わせて面接を設定することはあってよいと思います。

 

――入社の90日ほど前には、オンボーディングの準備をする必要もあるかと思いますが、その時間はどう役立てるのがよいでしょうか。

期待値のすり合せですね。もちろんジョブディスクリプション(JD)はありますが、具体的に当社はどういうビジネスを行っていて、このJDに当てはめるとどういうことが日々動いていて、上司はこう考えている、といったことをちゃんとすり合わせておくというのが、ロケットスタートの前提になります。

もう一つは、本業にフォーカスしてもらうために、当社なりの業務の進め方や仕組み、ツールなどをあらかじめ知ってもらい、そこへの躊躇をなくしておくことですね。例えば当社はリモートワークが徹底されていますので、インドで就業してもらっても構いませんが、その雰囲気を実際に見ておいてもらうといったことです。Day1からチームとしてフィットできるよう、あらゆる手は尽くしておきます。

 

「解雇」にまつわる、スタートアップ経営者としての覚悟

――次に、解雇に関しての質問です。成長に伴って人材のマッチ・ミスマッチも変化していく中で、名も知れぬ中参画してくれたメンバーの解雇は経営者にとっても悩ましい判断の1つです。杉江さんご自身は、新生フィナンシャルでの消費者金融レイクの再建時などでもご経験があるかと思いますが、どのような思いで解雇をやりきったのでしょうか。

まず、今のPaidyとレイクでは解雇する目的が全く異なります。レイクでは派遣社員を含めた4000人を1000人にまで減らさないと会社が生き残れないという経費の問題だったので、誰か特定の人をターゲットにするのではなく、辞めてもいい人は全員辞めてもらう勢いでした。

一方、今Paidyで解雇する場合には、ポジションに対する具体的な期待値と本人が得意としていること、やりたいと思っていることに齟齬があるということなので、納得感を醸成するプロセスが必要になります。ですから、前職での経験はあまり参考になりません。ただ、どちらのケースもこれ以上ないHard Thingsです。レイクの場合には長年勤めてくれた方の名誉を守ることも考え、丁寧に時間をかけることも大事でした。

ですがスタートアップでは、期待値とのギャップによるものだったりするので、早く向き合うことが重要といえます。

――それは、具体的にはどのように話を進めるのですか。

それはレイヤーによって異なります。CxOに対しては私が直接対応しますし、Day1からそれなりのHard Thingsを含めて話をします。しかし、そういうポジションの方は相応に心の準備ができていることが多いですね。

一方、その下の人たちに関しては、Paidyではモニタリングプロセスを構築しています。例えば入社から1ヵ月ごとに、エグゼクティブ・コミッティというCxOの会議で社員のパフォーマンスを確認します。そのなかで、どうフィードバックすべきか、強みを生かせる場が他にあるのではないかなども話し合い、必要に応じて仮説検証するプログラムも用意します。

また、本人に一人で抱え込ませないことが大事なので、特にミドルマネジメント以上については意識して、エグゼクティブ・コミッティに対してプレゼンする機会をつくります。すると、その人のパフォーマンスが分かるので、いろいろと対応方法が見えてきやすいですね。

 

――そうしたなかで、組織内に小グループができて縦割りや結託のようなことが起きたりはしないものでしょうか。

一般論としては、その解消は簡単ではないですね。Paidyがラッキーであり、そうすべきだと思うのは、とんでもなくダイバーシティに富んでいるということです。社員の国籍は30カ国を超えており、ボードメンバーも多様。ですから、小グループが極めてできにくく、いわゆる結託が起きにくいのです。

もう一つ大事なのが、上級管理職にはなるべく経験豊富な方を入れるなど、社員が自分の上司を尊敬できる環境を作ることです。「この人から言われるならしょうがない」と思わせるだけの上級職をそろえるというのは、極めて大事だと思います。

――スタートアップの社内では、リスペクトというよりは、もっとカジュアルに仲良く、場合によってはなれ合いが起きやすかったりもしがちです。そうした点について杉江さんご自身は、社員に対して意識されていることはありますか。

Paidyはビジネスドリブンでアウトプットドリブンな会社ですが、世の中には、楽しく働くことを目的にしている会社もあるし、永続企業の枠組みであればそれもよいのでしょう。

しかし、スタートアップは一般的に、資本主義のもと、いつか大きく返すためにVCや個人投資家、エンジェル投資家から資金を集めるのが前提です。つまり、資本主義をテコにして、小さな存在だった自分たちがいつか世の中を変えていくというアスピレーションがあるならば、その目的を忘れてはいけません。これも、手段と目的を間違えないということになるのですが、楽しく働くのは手段であり、目的はビジネスの達成なわけです。ですから経営者としては、その目的に即して社員に給料を払えるかを考えるべきで、人として友だち付き合いをするのとは分けるべきでしょう。

 

――すると、例えば、時間軸やゴールを社員に見せていくことが大事だったりするのでしょうか。

そのとおりです。人の力を借りるというのはそういうこと。ゴールをちゃんと設定して、やらないことも設定する。そうしないと、人はその場で踊れない、というのは、会社経営の基本のキです。大人なのだから自律的に動いてくれるだろうと思っても、言わなければダメなのです。その人のレベルに合わせて、2週間ごと、4週間ごとなど定期的にチェックしないと、人は間違った方向に進むものです。

経営の神様である稲盛和夫さんが「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」と言われていますが、そのなかで一番留意すべきは考え方、ベクトルです。ここを間違えると、負の力になってしまう。だから、方向を示すことが大事なのです。

これは、もちろん投資家にも説明しますが、社員にもしっかりと伝えます。例えば、2019年にPaidyが大手EC業者と取引を開始したときには、私は1年ほど、そのプロジェクトに専念すると明言し、そうしていました。そのように、現時点で優先すべきことがあれば、それを社内に徹底すべきです。(前半・了)

 

後編では、PaidyがどのようにしてM&Aへと進んでいったのか、事業戦略、そしてペイパル買収への歩みについてお伺いします。

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