【後編】世界の先行者に学び、多様な選択肢をもつ。Paidyの成長戦略

株式会社Paidy|代表取締役社長 兼 CEO 杉江陸氏

業界を牽引する経営者に話を聞くシリーズの第2回目は、商品購入後に一定期間内で分割によるあと払いを可能とする決済サービス「BNPL(Buy Now Pay Later)」を2014年から提供する、株式会社Paidyの代表取締役社長 兼 CEOである杉江陸氏。

Paidyは2021年9月に、グローバルトップティアの一社であるペイパルにM&Aされ、その金額も3000億円(約27億ドル)と、それまでほぼ日本国内のみで閉じていた日本のスタートアップのエグジット案件のレベルを一段高めた事例といえる。前編に続き、後編では、Paidy買収までの歩み、世界に向けた事業展開について話を伺った。

 

先行者に学び、「プライドを持ってコピー」すべき

――Paidyではシリーズごとに目的を定めて国内外投資家を定めていたと思います。2018年にはゴールドマン・サックスやVISA、2019年にはPayPal VenturesやEight Roads Ventures Japan、2020年には伊藤忠商事というように、ですね。そのなかで、先方の求めるゴールがPaidyのそれと異なったりして問題化したことなどはありましたか。

全ての投資家に対してあらかじめ、今回このステージでここにコミットするというゴールを明示しますので、ぶれることはありません。ぶれないように確実に設定するということです。もちろん環境変化などで調整が必要な場合には、ボードミーティングでしっかりと投資家と向き合って進めますし、一つひとつ話を積み重ね、シェアしていきます。

 

――そのなかで、決済ビジネスはグローバルに競争が激化して、スケールの勝負、しかも「Winner takes all(勝者がすべてを取る)」の世界となっています。ですが、杉江さんはライバル企業のCEOとも関係構築してきたそうで、それはどういう考えからなのでしょうか。

まず、スタートアップは皆さん、自分たちがすごく新しいことを世の中で初めてやるのだと思っておられるでしょうが、おそらくは、ほぼ似たようなことをやっている人が必ずいます。であれば、そこから学べることは学ぶべき。私は「プライドを持ってコピーしよう」とよくいうのですが、コピーできることは利用すべきで、クリエイティビティは他で使えばよいのです。むしろネットワークを駆使して、成功も失敗も含め、先進国のケースをたくさん見るべきで、孫正義さんが「タイムマシン経営」といっていたのは、今も有用なのです。

BNPLモデルでいえば、スウェーデンのKlarna(クラーナ)、オーストラリアのAfterPay(アフターペイ)、アメリカのAffirm(アファーム)などが世界にありますが、彼らから学ぶことは山ほどあります。しかも、それをいかに深く学ぶかが肝要で、彼らは裏ではいったい何で競争し、暗躍しているのかを知ることが大事。それをふまえて、自分たちはどうするのかを考えずして、1年先、2年先の未来は想像できないのです。賢い人たちがどう先を見ているかを、活用すべきです。

そして、日本には先行者がいないことも多いので、世界中を見ることです。そこにはロールモデルがあり、失敗事例もあるのだから、そこに学ぶことが、成功の確率を格段に上げてくれます。Paidyがやってきたことも、決して単なるラッキーや慧眼ではなく、先行者に学んでいるのです。それは同業だけでなく、VISAやペイパル、あるいはApple、Amazonもそうで、ものすごくたくさんのヒントを与えてくれているので、そこから学ばない手はありません。

――競合を見るということでいうと、Paidyの買収額、3000億円についてはどう見ておられますか。もちろん、当時の日本市場においては破格で話題になりましたが、後にAffirmは7500億円、AfterPayは3兆円、Klarnaは6兆円の値をつけました。

そのときの物差しで測れば、当然フェアバリューだったと思っています。また、スケールの仕方については、IPOも選択肢の一つでしたし、その点ではビジョナルがよい先行事例だったと思います。日本で買収を重ねながらスケールしていくことも考えましたが、それだと周りの価値と連動してしまうので、海外の機関投資家にいかに持ってもらうかも考えました。そうした選択肢のなかから決めたのが、この先も永続的にスケールして世界のWinnerを目指すなら、やはりウォレットの一部になった方がよいということ。そのなかで、企業文化的にも、先方のニーズ的にもフィットしたのがペイパルだったのです。

――今後、次世代のPaidyのような日本から世界に伍する企業を起こす起業家にとって、さらなるスケールアップを目指すためには、どのような点を意識すればよいのでしょうか。

繰り返しになりますが、真似できることは、全部真似をする、そして真似をするためには、やはり、世界を見よう、ということですね。

もう一つ、あえていうならば、Paidyにもたくさんの選択肢があったように、スタートアップにはIPOもあれば、M&Aもあれば、その道すがらでもいろいろあります。そうした選択肢が広ければ広いほど、いろんな資本施策が打てます。その意味からも、多くの投資家と付き合うことは、経営者にとって救いになるといえます。いろいろなビジネスを無数に行うのは、現場が付いてこられず経営の邪魔になりますが、いろいろな投資家、ビジネスパートナー、インテリジェンスとの対話というのは、経営者自身が行えることで、デメリットはありませんから、それを怠けてはいけないと思います。

――また最近、大手企業からスタートアップに人材が流れ始めているのですが、その先達である杉江さんから、どういった点が大企業のケイパビリティとして活用でき、どういったところはアンラーニングすべきか、ぜひアドバイスをいただきたいです。

その前に、まず何のためにスタートアップに行くのか、が重要でしょう。誰かのためではなく、自分が楽しいから、やってみたいからでもよいのだと思います。実際、環境の整った大手からスタートアップに来てみると、経営者もチームもビジネスの結果や成果について、思ったほど注意を払っていなかったりして、とにかく驚くはずです。そこで、選んだのは自分だと思えるかどうかは、大きいでしょう。

また、アンラーニングでいえば、そもそも日本企業はどこでも同じ日本の文化が根強く、いわゆるサラリーマンカルチャーですが、スタートアップは、そこから逃れたい人たちの集合体だったりするわけです。そこを理解して、自分はどちら側の人間でいたいのかは明らかにしておくべきでしょう。価値観の問題ですね。私自身は、スタートアップ云々よりも、インターナショナルかつコスモポリタンカルチャーであるPaidyに惹かれて来たところがあります。そういう価値観に基づいた転身であれば、アンラーニングも無理なくできるのではないでしょうか。

――自らの役割を認識するのが大事だということでしょうか。

そうですね。私自身はスタートアップをあまり特別視していませんし、このステージがキラキラして見える必要もないでしょう。もしスタートアップへの転身を考えるなら、その人の役割、どういうところで輝けるのかを気づくきっかけにはしてほしいですね。

 

――最後に、「借金は恥」「現金主義」という文化が根付いている日本で、今後「BNPL」がどのように広がっていくのか、お考えを聞かせてください。

まず、BNPLの定義は、手数料のかからない分割払いをECで提供することです。かつPaidyの強みは、そこに他社のアンダーライティングを絡ませず、我々自身が行うという点で、ここは海外のBNPLとも異なる点です。他社のBNPLでは銀行口座やクレジットカード情報をリンクさせ、それが承認されないと使えない仕組みですが、Paidyでは当社で審査しており、他の銀行やクレジットカード情報は一切関係ない形で使えます。

それは、いわゆる借金から始まる多重債務とは異なる世界観だからです。多重債務とは、無目的の借金、要するに、生活費の補填でお金を借りるうちに膨らんで、利払いもできなくなる状態です。しかし、ペイディはECにおけるあと払い決済ですから、目的があるわけですね。例えばキーボードが欲しくて、次のボーナスを待ったり、3ヵ月お金を貯めてから買うよりは、今手に入れれば、上達して3ヵ月後を迎えられるでしょう。そういう使い方をするBNPLなのです。だからこそ「分割手数料無料」にこだわっています。他の後払い決済サービスには、割賦払いをデジタル化している形のものもありますが、思想が全く異なるプロダクトですね。

ペイディのユーザーアカウント数は、右肩上がりで増えています。大手クレジットカード会社のユーザー数が概ね2000~3000万人なので 、そこを目指しています。一方、販売店、パートナーも着実に増えており、公式サイトでは四半期ごとにお買い物トレンドをレポートしています。「お買い物のネクストスタンダード」として、より便利に安心して利用いただけるよう、努めていきたいですね。(後半・了)

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