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東大IPC

Story

東大IPCでは、ベンチャー投資だけでなく、「東大IPC 1stRound」という 創業3年以内の起業家や起業前のチームに対し、
事業資金・ハンズオン支援・東大やパートナー企業のリソースをZero Equityで提供するプログラムを提供しています。
採択先に対しては、ビジネス推進から資金調達まで東大IPCが並走して支援します。
創業までの経緯、どのような支援が実際にあるのか、起業家たちに語っていただきます。

世界最高水準のロボット会社を日本から スマイルロボティクス株式会社

飲食店向けの下膳ロボットを開発しているスマイルロボティクス株式会社。単に効率化を求めるだけではなく、人に寄り添い、生活を豊かにするロボットの実用化を目指し、研究開発を行っています。創業者の代表取締役 小倉崇さんに、ロボットに対する思いや、スマイルロボティクスでの研究開発の進捗、起業支援プログラムの活用などについてお話を伺いました。

人に寄りそうロボット研究を

「まずは事業の概要を教えてください」
「ロボット技術で全世界に笑顔を」をミッションに、ロボットが工場から施設、更には家庭へと、より人に近い環境で活躍する世界を目指しています。現在は下膳ロボットを研究開発しており、実用前の実証実験を行っている段階です。具体的な動作としては、初期配置場所から指定されたテーブルまで自動で移動し、カメラで対象物を認識して掴み、もとの場所に戻ってくる作業となっています。主に飲食店や介護施設での利用を想定しており、今後、現場フィードバックを受けて機能改善を進めていく予定です。

サービスロボットの需要は今後伸びていくと見ています。飲食店や介護、建設業界などの人手不足の課題もありますし、物流搬送におけるマイクロ物流への適用としても可能性があります。人と共に働き、技術力で課題を解決するロボットを開発し実用化させることで、世界最大のサービスロボットの会社にしたいと思っています。

「起業に至るまでの経歴を教えてください」
東大では、情報システム工学研究室(JSK)に所属し、当時からヒューマノイドロボットについて研究していました。人間を代替するための人型ではなく、人間と共存し、幸せにするためのヒューマノイドロボットです。この研究室時代の経験が、今の会社のミッションにも繋がっています。

就職活動を始めた時期は、トヨタ自動車がロボット開発を始めたタイミングでした。トヨタ自動車でなら世界を変えるようなロボットを作れるのではないかと入社を決め、移動ロボットの研究に携わりました。その後、日本発のロボットベンチャーであるSchaftに入社し、二足歩行ロボットの研究を行いました。在籍中にSchaftがGoogleに買収され、Google内で引き続き二足歩行ロボットの研究を行いました。

ハード、ソフトのそれぞれで世界を牽引するトヨタ自動車、Googleを経験して分かったことは、世界を大きく変えるようなロボットを制作し、人の手に届けるにはまだまだ時間がかかるということ。研究室に在籍していた頃の技術では、二足歩行ロボットが世の中の役に立つには、あと10年ほどかかりそうだと思っていました。すでにそれから20年経過した今でもまだロボットが人間と共存できているとは言えない状態に、ロボット技術の難しさを感じています。

そういった経験から、汎用的に様々なことを実現するロボットではなく、まずは専門的な機能を持ったロボットから始めていくことが現実的だと感じ、昨年の6月にスマイルロボティクスを立ち上げました。

難易度が高いからこそ、我々がやる意味がある

「なぜ下膳にフォーカスしているのでしょうか」
下膳ロボット開発には高い技術力が求められるため、参入している企業が少ない領域です。キッチンの調理補助ロボットなどは様々な種類がありますが、下膳に絞っている企業はまだありません。技術力のある我々のような会社だからこそ取り組める分野だと考えています。

テーブルの状態を認識して判断し、適切な動作を行うという高い技術が求められるところに、これまでの開発経験や知識が活きてくると感じています。配膳であれば食べ物を届ける先のお客さんのところまでいけば、トレーから取ってもらうことができます。一方、下膳の場合はお客さんがいないため、画像認識やアームの技術が重要になるからです。

また、弊社ではRustという新しいコンピューター言語のソフトウェア基盤を作っていて、オープンソース化しています。そのうえに自律移動や3次元の画像認識、ハンド制御機能部分を構築しています。そのような技術を実装できるのは、世界最高レベルのロボット開発経験や知識を持った人材が集結しているからですね。トヨタ自動車やGoogle(Schaft)で経験を積んだエンジニアや、東大や早稲田などの研究室出身メンバーが集っていることが弊社の強みのひとつでもあります。

中国では配膳の移動ロボットなども出てきていますが、日本だと「おもてなし」の文化で配膳は人がいいという意見もあり、導入はあまり進んでいないようにも見受けられます。そういった観点でも下膳のほうが日本らしさがあるのではないかと考えています。

「家庭での利用も想定されているのでしょうか」
現時点では商業利用をターゲットにしていますが、実は開発の裏に家庭での実体験の影響もあります。子どもがいる家庭ですが、家事の大変さを実感しています。例えば夕食後の食器が一箇所にまとめてあるだけでも楽になると感じており、家庭用に配膳ロボットを導入できないかと考えていました。

投資家に相談したところ、家庭用だとビジネスとして成立するのは難しいのではないかとの意見がありました。1日3回の下膳のために高価なロボットを導入するだろうかという疑問があったからです。一方、飲食店であれば一日中下膳の作業が発生するため需要が見込めるのではという話を経て、現在は商用にフォーカスして開発しています。

今後、さらに研究が進めば、下膳後、食器用洗い機に並べるところまでロボットが代行できるようになるかもしれません。後片付けロボットとして幅広い領域をカバーできるようになると、家庭でも導入したいという需要が起きる可能性があります。

改善を重ね、人と共に働くロボットの実現へ

「実証実験の進捗はいかがでしょうか」
まだこれからの段階ではありますが、協力いただける飲食店も増えています。実際に話が進んでいるのは、ファミリーレストランや寿司チェーン、ファーストフード店やフードコートなど。完全な自動化はまだ難しく、飲食店側にも歩み寄ってもらう必要がある段階です。例えば、これまで人間が2往復していた作業をロボットにより1回に減らせるかなど検証しています。

もともとは牛丼チェーンのようなカウンター式の店での導入を想定していました。カウンターにロボットを固定し、レールでアームを動かして運ぶようなイメージです。しかしそういった店舗であればロボット導入よりもセルフサービスで十分だという意見がありました。そういったヒアリングを重ね、ターゲットを個別のテーブル設置店に広げた結果、より需要を認識してもらえるようになりました。

「実用化に向けた一番の課題は何でしょうか」
一番はコストです。費用対効果で考えたときに、高価なロボットを導入するための理論付けがまだできていません。「下膳が楽になる」だけで導入する企業は少なく、それに付随する価値が求められます。例えば、重い食器を運ばなくてよくなることで、従業員が腕を痛めず辞めにくくなり、採用コストが軽減されるかもしれません。人がやらなくて済むというだけではなく、それに加えて生じる付加価値がどれほどあるのかを実証実験を通じて探っているところです。飲食店側が感じられる価値を高めつつ、ロボット製作のコストをどう下げるか、両軸で取り組んでいます。

コスト以外では、技術面にもまだ課題は残っています。難しいのは認識技術。皿やコップの配置を認識し、高低差も考えながら順序よく下膳する必要があります。テーブルに置いたままにすべき調味料類の見分けや、薄いメニュー表を掴むなど、人間には簡単なこともロボットにとっては大変。狭い空間で動作できるかや段差を上り下りできるかなどは現在も取り組んでいます。

安全性についても検証する必要があり、ひとつひとつ解消していっている段階です。

技術者から起業家へのマインドチェンジ

「東大IPCに応募したきっかけと採択を受けての感想を教えてください」
2019年の3月末でGoogleを退職し、4月から東大のもう一つの起業プログラムであるFoundXに参加していました。その後、東大IPCについての情報を得て、FoundXの同期みんなで1stRoundに応募することになったんです。スライドを見せ合い、何度もプレゼンを練習して臨み、無事採択を受けることができました。

東大IPCには事業資金提供を受ける目的で応募しましたが、起業における様々なアドバイスをもらえたことがとても役に立ちました。月1回のミーティングの場で、起業において具体的に準備すべきことや、資金調達における備えなど、親身で具体的なアドバイスをもらいました。起業するまではエンジニアだったので、経営マインドを習得するにはとても助かります。

引き続きFoundXからは活動場所の提供を受け、起業家としての哲学を学びました。東大IPCとFoundX、双方の採択を受けたことで、総合的な支援を得られましたし、自信にも繋がりました。株主ではない組織からニュートラルな意見が聞けることも貴重でしたね。

「組織内でのロボット開発ではなく、起業を選んだ理由を教えてください」
自分が本当に作りたいロボットを形にしたかったからです。これまで所属した組織では、とにかく技術を研ぎ澄まして最先端のものを作ろうという思想が根底にありました。研究開発がずっと続いていくイメージです。私は実用化に向け、想定されるユーザーと直に話しながら機能改善していくことを小さい組織で進めたいと思っていました。

特に大きな組織に所属していると、個人の意見よりも会社の方針に従う必要があり、その間で葛藤することもあります。会社の中で、自分が求めるロボットを作れる環境を整えることもできるかもしれませんが、それよりも組織から出て自分でやってみたほうがスムーズに進むのではないかと思っていました。会社の中だと説得する人が決まっており、その人の許可が降りなければ実現することはできません。しかし起業であれば、数あるVCの中で納得してくれるところがあれば実現に近づくことができます。社内政治が苦手な私には起業のほうがあっている気がしました(笑)。

学生の頃から起業への思いはありましたが、当時と今では世界が違いました。今では起業へのハードルも下がり、東大IPCなど起業支援プログラムが充実しています。身近にロボット業界での起業、そしてその成功事例も見えてきた今の段階で、起業を決意しました。

世界最高レベルのサービスロボット会社へ

「今後の展望を教えてください」
まずは下膳ロボットの実用化を実現させます。2021年には実用化に近いものを完成させ、飲食店以外の介護施設や病院、オフィスなどに広げていく予定です。

最終的に目指すところは、世界最高レベルのロボット技術を持つ会社です。世界へとスケールさせるための量産体制を整え、巨大なサービスロボットのマーケットを自ら切り開いていこうとしています。市場が作られるのを待つのではなく、自分たちで作っていく姿勢でいます。

まだ、ロボットが世界のあり方を変えた、という状況にはなっていませんが、ロボットにはその可能性があります。人に寄り添ったサービスロボットが、人々の暮らしを向上させる。そんな世界をスマイルロボティクスが実現させていきます。

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