2023/8/1

未来査定のアルゴリズム設計技術で、起業家に「いま必要な資金」を提供する「RBF」

株式会社Yoii | 代表取締役 宇野雅晴氏

東大IPCは2022年9月、RBF(レベニュー・ベースド・ファイナンス)プラットフォーム「Yoii Fuel(ヨイフューエル)」を運営する株式会社Yoiiに5,100万円の出資を決めた。今回、Yoii代表取締役の宇野雅晴氏と、東大IPC パートナー兼AOI1号ファンドCIO 水本尚宏氏の対談で、Yoiiの事業内容やそこに投資を決めたポイント、期待することなどを語ってもらった。

 

SaaSやD2Cに朗報。未来の売上をキャッシュに変える、新たな資金調達手段

水本:まず改めて、Yoiiが手がける「RBF」とはどのようなものかを教えてください。

 

宇野:デット(融資)でもエクイティ(株式)でもない、新しい資金調達手段です。スタートアップの資金調達では銀行などからの融資かVCからのエクイティファイナンスが主な選択肢ですが、それぞれ資金の出し手である投資家のリスクと、調達する側のオペレーションコストに違いがあります。

 

資金を提供する側にとって、株式はその性質上リスクが高いので、不確実性の評価のためにデューデリジェンスのオペレーションコストが高くなるもの。一方、銀行プロパー融資は保証、担保を取ることが多く相対的にリスクが低いため、定型書類の提出がある程度で、オペレーションコストも低いといえます。そのなかで中間くらいのミドルリスク・ミドルリターンなのが、RBFです。

 

水本:どのようなサービスなのか、Yoii Fuelの仕組みを教えてください。

 

宇野:未来の売上を現在のキャッシュに変える、将来債権を用いたサービスです。毎月売上が発生するような事業体質の企業に対して、売上の発生する一部分について当社に債権を譲渡する形をとり、その対価を前払いする仕組みです。

 

水本:それにより、本来予定されるキャッシュフローを前倒しすることが可能になるわけですね。スタートアップへのファイナンス支援にもってこいです。実際、Yoiiのクライアントには、SaaSやD2Cなど、サブスクリプションやリカーリングといわれる継続課金企業が多いですね。

 

宇野:その通りです。そうしたビジネスモデルでは、CACがたとえば15,000円かかるのに対して、MRRが3,000円という形です。すると当初は赤字でも、毎月経常的に売上が立つため、顧客が契約を解除しない限りはその売上が積み上がっていくわけですね。

 

このビジネスモデルの弱点は当初のキャッシュフローにあり、顧客の数だけ赤字が膨らんでしまいます。ですが将来売上で前払いできれば赤字を回避でき、さらに手元のキャッシュを新規顧客獲得費用に充てられるので、最終的に期末の売上をアップさせられます。

 

水本:VCによる企業価値算定が期末収益額をベースに行われるスタートアップにとっては、自社の成長を加速させられる、とりわけバリューを発揮できる資金調達方法といえますね。実際の資金調達プロセスは、どのように提供しているのですか。

 

宇野:手続きは全てオンライン上で行います。まず弊社のダッシュボードに会計と決済のAPIを接続し、最新の決算書など所定の書類を提出してもらいます。それを受け、Yoii内でリスクモデルが走り審査と見積を実施します。その見積に合意すれば契約です。結果的に着金まで6営業日以内で資金調達ができます。

 

水本:そのスピード感は画期的ですね。銀行融資なら1~2ヵ月はかかるでしょう。書類提出のための準備ややり取りに時間がかかりますし、審査においても面談を行ったり、追加でヒアリングが生じたりするものです。

 

宇野:そうですね。この審査は過去の売上・財務データから、未来の売上を予測して行うのですが、Yoiiの強みはそのアルゴリズム設計にあります。当社として適度にリスクを取りつつも安全な範囲で、資金提供先と同じ未来を見据え、積極的にビジネスをスケールさせるための成長資金を提供する意識で行っています。

 

水本:過去の売上・財務データの取得は、API連携によるものですね。

 

宇野:決済システムのstripeやPAY.jp、会計システムのfreee、請求システムのboard、ECカートシステムのshopifyなどとのAPI連携や、CSVアップロードにより、審査に必要なデータを取得しています。そこで企業活動や会計状況が予測および把握できるため、連帯保証や担保を取らずに資金提供ができ、このスピード感が実現しました。

 

ちなみにRBFでは利子や利息という概念は存在せず、手数料をいただきますが、その額も審査・分析をふまえてスコア化した結果によってオファーしています。

 

グローバルではユニコーンも登場、急成長中のRBF市場

水本:RBFの市場についてですが、各国では普及が進んでいますね。

 

宇野:Allied Market Researchの調査によると、世界のRBF市場規模は2019年に$901M(約900億円)に達しており、27年には$42.3B(約4.2兆円)まで拡大すると予想。20年から27年までの年平均成長率(CAGR)は61.8%、特にアジア・太平洋地域では65%と、世界で最も高い成長率となる見込みです。

 

さらに当社で地域・国別にRBF市場を調査したところ、2022年時点ですでに世界17カ国で42社の存在が確認できました。全てを網羅できているわけではないですが、たとえば米国ではSaaS企業やEC企業を中心に利用が広がり、実際にRBFのユニコーン企業も現れています。また、南米やヨーロッパ、アジアでも急速に立ち上がり、成長しています。時期的には8割以上の企業が2019年以降に設立されており、サービスをローンチさせて、2021年あたりに頭角を現しているケースが非常に多い。

 

水本:その勢いが市場需要を証明していますね。BNPLの広がりを想起させます。日本市場ではこれからでしょうか。VCの間では徐々に知られてきている印象ですが。

 

宇野:そうですね。実際に今は、VCや当社の顧客企業からの紹介でスタートアップにRBFを知ってもらっていますが、関心もニーズも高く、手応えは感じています。資金調達の選択肢として検討してもらえるように認知を推進して、ここ2年くらいでRBFを資金調達の選択肢として一般化させたいですね。

 

水本:Yoiiでは戦略的にVCとのパートナーシップを推進しており、東大IPCも名を連ねています。そのプログラムの成果は期待できそうですね。

 

宇野:2022年9月から開始している「ベンチャーキャピタルパートナープログラム」ですね。提携先も当初の14社から、すでに35社以上にまで増えています。「挑戦しようとしているスタートアップに資金が行き渡っていない」「価値を見出されていないスタートアップが多すぎる」という課題を共有でき、かなり積極的にスタートアップを紹介していただけているVCもあります。今後は、VC向けや投資先スタートアップ向けのセミナー企画にも注力していきたいですね。

 

投資判断のポイントは、人・市場・タイミング・社会貢献性

宇野:そもそも東大IPCとして、Yoiiへの投資判断は何が決め手だったのですか。

 

水本:まず、経営者の宇野さんという人物そのものです。これは会って話せば分かる感覚的なものに加え、もともとOmise(現、Opn)という日本のフィンテック(決済)ユニコーンでCountry Managerとして事業拡大を行った経歴があります。また宇野さんの周りには、パブリックブロックチェーン向けのツール開発でWeb3 Foundationに認められGrantsを獲得している共同創業者CTOを筆頭に優秀な人材が集まっており、グローバルなチームができていることも魅力でした。

 

加えてRBFという市場環境の点でも、グローバルではユニコーン含めスタートアップが何社か出ている一方で日本ではまだ競合がほとんど存在しない領域だということ。これは、大きな市場が見込める千載一遇のチャンスです。

 

テクノロジードリブンで、紙ベースで人が判断する融資のプロセスを変革したのに加え、既にインフラが完成しているのも大きかったです。クラウド会計や各種決済システムなどがスタートアップや多くの企業に普及し、データが既に整備された状態にあるといえ、タイミングとして非常に立ち上がりをさせやすいわけです。

 

さらに、社会貢献性も完璧でした。われわれはスタートアップ支援を行っていますが、YoiiのRBFはまさにファイナンスにおけるスタートアップ支援なので、テーマが合致しています。しかもVCが投資できるスタートアップはまだわずかという現状であり、スタートアップのための資金調達方法はもっと多様化させる必要があります。その多様化に貢献できることが、投資判断の決め手となりました。

 

宇野:東大IPCとしてスタートアップに期待することを教えてください。

 

水本:文部科学省および経済産業省下の官民ファンドの枠組みで設立されたことから、東大IPCには日本や世界を良くしたいという思いが特に強くあります。リターンは大事ですが同時に、その起業家や経営陣が解決したい社会課題や原体験など、何らかの強烈なインスピレーションを持って動いている人たちを応援したいのです。必ずしもすぐ事業化やマネタイズができるわけではなくても、だからこそ、それが上手く進めば真のオンリーワンになるかもしれません。ですから起業家にはぜひ、やりたいことをやってほしいです。

 

資金調達を意識した場合にも、資金調達しやすいビジネスモデルをまず考えるよりは、やはり、やりたいことをやるのが先決であり、そのうえで必要な資金をどう集めるか、というほうが思考の順番として大事です。市場環境に関わらず、起業家には常に「やりたいこと」を目指して欲しいですね。

 

水本:最後に、今後の展望についてお伺いさせて下さい。

 

宇野:Yoiiは、起業段階からグローバル展開するということを決めて創業しています。チームとしては半分が外国籍で9カ国のメンバーが共に大きな目標に向かっています。今後の展望としては、新興市場に対してRBFを提供していくこと、別の観点から顧客のキャッシュフローの課題を解決していきます。弊社のミッションとして「資産の流動性を上げ、挑戦する起業家・企業の成長を後押しする。」ということを掲げていますが、挑戦する起業家の成長の後押しをすることは段々と実現できましたが、資産の流動性を上げることはまだ道半ばです。

 

私たちはこれからも顧客企業にとって使いやすいサービスの提供を行っていきますので、応援よろしくお願いします!

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