2022/11/30

社内ベンチャーとは?作る目的や作り方、メリット・デメリットを解説

社内ベンチャーとは?

社内ベンチャーとは?

社内ベンチャーとは、既存事業にはない新たな事業モデルを創出するために企業内に設置される、独立した組織のことです。別名、「社内起業」とも呼ばれています。

ここでいうベンチャーとは、一般的に「新しい製品や事業を展開しつつ、規模の大きい企業では実現しにくいフットワークの軽い経営を行う企業」をさします。

社内ベンチャーを通じて新規事業を生み出そうとする取り組みは「社内ベンチャー制度」と呼ばれており、すでに日本でも多くの企業で採用されています。既存事業に依存しすぎることを避けるほか、企業の利益拡大・風土改革などを期待して導入する企業が多いです。

ベンチャーについて詳しく知りたい場合は、以下の記事で解説しています。併せてお読みいただくことで、似た特徴を持つ組織であるスタートアップとの違いも把握できますので、ぜひご確認ください。

スタートアップとは?ベンチャーとの違いを解説【図解あり】

社内ベンチャー制度を導入する目的

本章では、企業が社内ベンチャー制度を導入する目的の中から、代表的な4つをピックアップし、順番に解説します。

①利益の拡大

現代は人々の価値観や流行が目まぐるしく変化しており、企業はただ既存事業を継続しているのみでは利益を生み出しにくくなっています。

こうした状況に置かれた企業が、新たな市場での収益源を確保するために新規事業を立ち上げることがありますが、このときに社内ベンチャー制度を導入するケースが多く見られます。

社内ベンチャー制度を通じて企業内に新規事業を起ち上げ、これまでとは異なるルートで利益を生み出す仕組みを作ることで、業績の向上につなげられます。

②リスク分散

現在、利益を安定的に生み出している事業を手掛けていたとしても、その状態が今後も末長く続くとは限りません。現状維持を続けている企業では、将来的に市場に大きな変化が起きたときに対応することが難しく、経営危機に陥る可能性もゼロではありません。

しかし、複数の事業を展開することで、こうしたリスクを分散させることが可能です。そこで近年はリスクの分散を目的に、社内ベンチャー制度を導入する企業が増えています。

③社員のモチベーション向上

既存事業に変更を加えないまま長きにわたって継続していると、業務内容が単調化しやすいです。日々同様の作業を行うことになるため、社員のモチベーションを低下させてしまいかねません。

こうした状況において、社内ベンチャー制度を通じて新たな事業にチャレンジすることは、企業文化にもポジティブな影響をもたらします。例えば、時代の要請に応じて組織を改変していこうとする気運だけでなく、一人ひとりの社員が手を挙げやすい雰囲気や、チャレンジを応援する企業風土などの醸成にもつながるため、社員のモチベーションをアップさせる効果があると考えられています。

④資金活用としての投資

規模の大きい企業の場合、多額の利益を出し資金を潤沢に抱えているものの、資金の有益な活用方法を見いだせずに持て余していることがあります。

こうした企業にとって、社内ベンチャー制度を通じて新規事業を立ち上げ、そこに対して投資することは、新たな資金の活用方法として有効的です。もしも新規事業に成功すれば、大きなリターンが期待でき、企業の経済状況に潤いをもたらす可能性があります。

社内ベンチャー制度のメリット・デメリット

社内ベンチャー制度のメリット・デメリット

本章では、社内ベンチャー制度を導入・活用するうえで企業に対して生じる可能性のある代表的なメリット・デメリットを順番に解説します。

メリット

まずは、社内ベンチャー制度を導入・活用する際に期待されるメリットの中から、代表的な5つをピックアップし、順番に解説します。

新規事業に挑戦できる

大きなメリットの1つに、新規事業に挑戦できる点があります。

例えば、食品メーカーがAI(人工知能)関連の事業を展開したり、システム開発企業が運送事業を立ち上げたりするなど、既存事業との関連性に縛られることなく新たな事業にチャレンジできる点は、これまで既存事業を手掛けてきた企業にとって大きなメリットといえます。

新たな利益を得られる

企業を成長させるうえで、既存事業を続けることだけでなく新規事業の開拓も重要な施策です。社内ベンチャー制度を通じて新規事業を立ち上げることで、新たな領域に参入するきっかけを掴めます。

もしも新規事業が軌道に乗れば、新たな利益の獲得が期待できます。そのうえ、既存事業にも好ましい影響を及ぼし、相乗効果によってさらなる企業の発展が見込まれるのです。

挑戦的な企業風土への改善

現代の事業環境は、グローバリゼーション・ビッグデータ・AIといった最新技術の普及を主な背景に、予測不可能なほど急速に変化し続けている状況です。こうした中で、企業が優位性を確保・維持していくうえで、積極的に新たな挑戦を行う精神が重要視されています。

そこで、社内ベンチャー制度を導入し、社内の人材が技術・アイデアを生かして新規事業を生み出せる文化を浸透させることで、社内ベンチャーへの関与の有無を問わず、さまざまな社員のチャレンジ精神を醸成させられる可能性があります。

さらに、社内ベンチャーの取り組みを社外に発信すれば、採用活動を通じて活力ある人材が集まるようになり、挑戦的な企業風土がさらに醸成されやすくなります。

社員のモチベーション向上

社内ベンチャーのメンバーに加わった社員は、既存事業での部署では発見されなかった新たな才能を開花できるチャンスを与えられます。これは、企業側からすると、埋もれていた人材を見いだすきっかけとなるのです。

また、社員が自ら新規事業に挑戦しさまざまな経験を積むことは、人材の急激な成長やモチベーション向上などを促し、ひいては優秀な人材の流出を防ぐことも期待されます。

経営を担える人材の育成

仮に社員が独立してベンチャーを立ち上げる場合、当初から自身の給料だけでなく、メンバーの給料も支払う必要があります。この場合、軌道に乗るまでの間は利益が全く出ないこともあり、非常にリスクが高いです。

これに対して、社内ベンチャー制度を活用すれば、社員はこれまでどおり毎月給料を得ながら新規事業の立ち上げに専念できます。この場合、「収入が全くない」という心配をせずに済むうえ、メンバーの給料を自身で支払う必要がありません。また、借入を行う必要もないため、社員個人は全くリスクを負いません。

このように、社内ベンチャー制度の活用によって、社員はリスクを抑えて経営者としてのキャリアを積める一方で、企業としても将来的に自社の経営を任せられる人材を育成できるというメリットが期待できます。

デメリット

続いて、社内ベンチャー制度の導入・活用に際して、問題となりやすいデメリットの中から、代表的な3つをピックアップし、順番に解説します。

失敗する可能性がある

社内ベンチャーは企業内で立ち上げられた組織であるものの、新規事業にチャレンジするという性質から、失敗する可能性があります。一般的に、既存事業と新規事業の関連性が薄いほど、失敗する可能性が高いと考えられています。

仮に新規事業に失敗してしまうと、企業は大きな損失を被るため、その後、資金を有効活用できなくなるおそれがあります。

また、新規事業のために人材を確保する場合、失敗すると継続的な雇用が困難となります。場合によってはリストラの選択肢を取らざるを得ないこともあり、企業イメージの悪化を懸念しなければならない点は注意すべきデメリットです。

資金や時間を注ぐ必要がある

社内ベンチャーとして企業内に新たな部署を設立するためには、経営陣によるメンバー選びや部署の準備などが必要となり、実際に新規事業の企画・開発に着手するまでに多くの時間がかかります。また、新たな部署の設立に伴い、既存の部署から社員が抜けた場合、従来の業務を誰が分担するのかを検討する時間も必要です。

さらに、前述のとおり新規事業が失敗する可能性もあるため、投入する必要のある資金額や、被るおそれのある損失額なども考慮しなければなりません。

このように、社内ベンチャーを立ち上げるうえで、企業は膨大な時間・資金を費やすことが懸念されることから、既存の事業と並行しながら土台づくりを開始し、時間・資金面でのリスクを慎重に検討たうえでスタートさせることが望ましいです。

自社の意向に左右される

ベンチャーやスタートアップの利点の1つに、小規模であるがゆえに新規事業への施策に小回りが利き、柔軟性を発揮できる点が挙げられます。

しかし、社内ベンチャーはあくまでも大元の企業の管理下に置かれる組織であるため、意思決定を上層部に委ねる必要のある事態に陥ると、動きが取りにくくなります。

社内ベンチャーの設立の方法

本章では、社内ベンチャーの設立の方法を大まかに2つに分けて、順番に解説します。

経営陣主導(トップダウン型)

経営陣が指揮を執り、社内ベンチャーを設立する方法です。別名「トップダウン型」と呼ばれています。

この方法では、社内ベンチャーは会社の経営陣と話し合いながら新規事業のアイデアを生み出していきます。そのため、社内ベンチャーと経営陣は密接な関係性にあり、スムーズに事業を展開するためには経営陣から許可を得ることが求められます。

その一方で経営陣が主導することから、既存事業とかけ離れたサービスを生み出せない可能性があります。

従業員主導(ボトムアップ型)

社内ベンチャーの立ち上げに際して、従業員がアイデアやミッションを企画し、選考によって事業化が決定する方法です。別名「ボトムアップ型」と呼ばれています。

トップダウンと比較すると、経営陣との関係性が薄いため、従業員のアイデアが無限に広がる可能性を秘めている点が大きな特徴です。また、従業員自身が挑戦したい事業を企画できるため、モチベーションアップにつながる点もメリットです。

社内ベンチャーを設立する際の注意点

社内ベンチャーを設立する際の注意点

本章では、社内ベンチャーを設立するうえで把握しておきたい注意点の中から、代表的な3つをピックアップし、順番に解説します。

介入し過ぎない

社内ベンチャーの主な目的は、既存の事業では挑戦できなかったビジネスに取り組むことです。そのため、経営陣は、事業の立ち上げに際して生まれたアイデアを否定しないことが大切です。

また、社内ベンチャーが他のベンチャーやスタートアップなどと競合していくためには、柔軟かつ迅速な意思決定が必要不可欠です。このことから、社内ベンチャーでは、経営陣の介入はできる限り抑えて、意思決定や人員配置などの権限を担当の社員に一任することが有効策だといえます。

ビジョン・ミッションを明示する

社内ベンチャーが新規事業を立ち上げていくうえで、さまざまな障壁が立ちはだかることが想定されます。自分たちで最善策を模索する中で、メンバーの大きな指針となるのがビジョン・ミッションです。

未来像を意味するビジョンと、使命・存在意義を意味するミッションを明確化し、チームで共有することが大切です。これにより、困難が立ちはだかった際も道筋を見失いにくく、全員で前進する力を得やすくなります。

ベンチャー、スタートアップにおけるミッション・ビジョンの詳細は、以下の記事でご確認ください。

スタートアップにミッション・ビジョンは必要!作り方、事例

セーフティーネットを用意しておく

経営陣が介入し過ぎないことが大切であるものの、社内ベンチャーのメンバーにすべてを丸投げするのも好ましくありません。

新規事業の立ち上げをサポートする人間を準備したり、事業が失敗した場合の対応をあらかじめ示したりしておくことで、社内ベンチャーのメンバーは安心してチャレンジに専念できます。

社内ベンチャーの事例

最後に、サイバーエージェントやリクルートなどの有名事例以外から、3つの社内ベンチャーをピックアップし、概要を順番に紹介します。なお、ここで紹介するのは、2022年6月時点で運営されていることが確認できた社内ベンチャーです。

猫舌堂(関西電力)

猫舌堂は、関西電力の社内ベンチャーで、食事に悩みを抱える人に向けてスプーンやフォークなどのカトラリーを開発しています(2020年創業、大阪市北区)。

創業者の原体験をベースに、がん治療の影響によって「食べ物を噛んだり飲み込んだりしにくい」「味がわかりにくい」といった悩みを抱える人に寄り添っています。

そのほか、口を大きく開けられずに口の周りを汚してしまうことが原因で外での食事に抵抗を覚えてしまう人たちが、食事の楽しさや社会とのつながりを感じられるサポートの提供も進めています。

参考:猫舌堂

LIFULLsenior(LIFULL)

LIFULLseniorは、LIFULLの社内ベンチャーで、主に老人ホーム・高齢者住宅の検索サイト「LIFULL介護」の運営を手掛けています(2015年設立、東京都千代田区)。

LIFULL介護は、LIFULL社員の実体験(祖母が利用する老人ホームをWebで探す際に情報がなくて苦労した)から生まれたサービスで、現在は介護施設の情報掲載料でNo.1の実績を誇っています。

そのほか、みんなの遺品整理(実家の片付け・遺品整理の業者の料金とサービスを比較できるサービス)、tayorini(漠然とした介護や未来への不安を明るく照らす情報を発信するウェブメディア)、買い物コネクト(介護事業者の業務を大幅に軽減する買い物代行業務支援サービス)などを展開しています。

参考:LIFULLsenior

ベビカル(東日本旅客鉄道とジェイアール東日本企画)

ベビカルは、東日本旅客鉄道とジェイアール東日本企画の共同出資によって設立された「JREベビーカーシェアリング有限責任事業組合(LLP)」が手掛ける事業です。首都圏主要駅を中心に、外出先でベビーカーをレンタルできるサービスを提供しています(予約制)。

なお、LLP(正式名称:Limited Liability Partnership)とは、経済産業省により定義された「有限責任事業組合」と呼ばれる事業体のことです。2005年5月27日に有限責任事業組合契約に関する法律が成立し、同年8月1日に施行されたことで設立できるようになりました。

ベビカルは、2018年9月にスタートした「JR東日本新事業創造プログラムON1000」において、グループ社員が提案したアイデアでした。子連れでの鉄道利用・施設利用に不便さを感じていた社員自身の経験をもとに企画され、1,000件以上の応募の中から最終審査を通過し、数度の実証実験を経て事業化に至っています。

今後はJR東日本管内の駅だけでなく、他の鉄道事業者や商業施設にも展開し、本サービスを通じて「子供たちと気軽に、外出できる社会」の実現を目指しています。

参考:JR東日本 生活サービス事業 PR事務局「予約ができる、外出先でのベビーカーレンタルサービス ベビカル 4月22日(木)13:00からサービス開始!」

まとめ

社内ベンチャーとは、既存事業にはない新たな事業モデルを創出するために企業内に設置される、独立した組織のことです。「利益の拡大」「リスクの分散」「社員のモチベーション向上」「資金活用としての投資」などを主な目的として設立されます。

社内ベンチャーを設立する際は、「経営陣主導(トップダウン型)」「従業員主導(ボトムアップ型)」という2つの方法から選択されるのが一般的です。

また、社内ベンチャー制度を導入・活用に際しては、メリットだけでなくデメリットが生じるおそれもあります。自社をさらに発展させるためには、注意点も十分に把握したうえで、社内ベンチャーの仕組みを整えることが望ましいです。

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