2022/12/2

出向起業とは?メリット、後押しする出向起業等創出支援事業を解説

出向起業とは?

出向起業とは?

出向起業とは、会社に所属する人材が会社を辞めることなく資⾦調達や個⼈資産の投下などにより起業し、その起業したスタートアップに会社から出向(一般的に、グループ会社や子会社など、関連する別企業に異動すること)する形式で、経営者として新規事業の開発を行う取り組みのことです。

現在の日本では、優秀な人材が大企業に集まりやすい傾向があり、多くの人材が経営資源として大企業内にプールされています。こうした優秀な人材は、製品開発企画や新事業創出、新規顧客開拓など、さまざまな業務を遂行していく中で経営力を身に付けていくものの、優秀層が厚い大企業の中にいると、自らの意思決定権や裁量権をもって経営を実行する機会が限られているため、仕事に対するモチベーションが低下してしまうということがあります。

そこで、大企業の優秀な人材が会社を辞めずに出向という形で経営力を磨き、かつ会社の新規事業を機動的に推進するための手法として、出向起業に注目が集まっています。なお、出向起業を図る人材と会社をサポートし、起業家の創出を後押しする事業として、出向起業等創出支援事業が存在します(詳しくは、後の章「出向起業等創出支援事業の概要」にて解説します)。

スタートアップおよびベンチャーキャピタルについて詳しく知りたい場合は、以下の記事で解説しています。併せてお読みいただくことで、起業に関する知識・理解をより深められますので、ぜひご確認ください。

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出向起業のメリット

本章では、出向起業の取り組みを導入することで期待される代表的なメリットを、実際に出向する社員と出向元の企業の双方の立場から解説します。

出向社員

まずは、実際に出向起業を行う社員に期待されるメリットの中から、代表的な3つをピックアップし、順番に解説します。

退職する必要がない

出向起業を行う場合、独立とは異なり、社員は退職することなく新規事業の創出を目指せます。つまり、収⼊や福利厚⽣など⼀定のセーフティーネットが確保された状態で挑戦に集中できるのです。

上記の点は、「現在の会社を退職し、転職または独立にて新規事業開発に挑戦することを検討しているものの、収入や福利厚生などを手放すことに躊躇している」という社員にとって、魅力的なメリットです。

子会社経営より経営の自由度がある可能性がある

出向起業は、社内の人材が勤務先企業を退職することなく新たな会社を立ち上げることから、子会社の経営と類似していると考える意見があります。

しかし、出向起業等創出支援事業の定義によると、出向起業によって立ち上げた会社は、出向元企業からの出資が20%未満でなければなりません。つまり、出向元企業は、出向起業によって立ち上げた会社における関連会社(出資・人事・資金・技術・取引などの関係を通じて、財務・営業・事業の方針の決定に重要な影響を与えられる会社)に該当しません。そのため、出向起業によって立ち上げた会社は、経営を進めるにあたって高い自由度を持つといえます。

これに対して、子会社は、会社法によって「会社がその総株主の議決権の過半数を持ち、その経営を支配されている会社」であると定められています。つまり、子会社では、その議決権を親会社が持ち、子会社の財務および事業の方針の決定は親会社が握っています。また、子会社の責任は基本的に親会社に追及されるため、親会社による子会社への介入度合いが強くなることが多いです。

以上のことから、出向起業により設立された会社では、子会社よりも自由度の高い経営や事業展開を行えるため、経営者の起業家としての理念やスキルを存分に投影できる可能性が高いです。

能力の向上

出向起業を通じて、社内の人材は、新規事業の創出にチャレンジする機会を得られるだけでなく、現状とまったく異なる環境に⾝を置くことで新たなスキル・考え⽅を⾝につけることも可能です。

マクロミルおよびNPO法人クロスフィールズの協働調査によると、出向を通じて、「考えの異なる相⼿の意⾒を受け⼊れる⼒」、「物事を良い⾯も悪い⾯も含めて多⾯的に⾒る⼒」「相手が理解しやすいように物事を伝える力」「日頃から問題意識を持ち、身の回りの課題や問題に気付く力」などを得られたという回答が多く見られます。

参考:マクロミル・NPO法人クロスフィールズ「組織外の活動・経験に関する調査 結果報告書」2019年10月8日

出向元企業

続いて、出向起業の取り組みを導入する企業に期待されるメリットの中から、代表的な4つをピックアップし、順番に解説します。

社員のモチベーション向上

出向起業の取り組みを導入すると、自社の社員に対して、新たなチャレンジの場を提供できます。

とりわけ起業・新規事業の立ち上げなどに強い関心を持っている社員にとって、出向起業は既存の大企業では味わえない責任感・緊張感などを味わえる貴重な経験の1つとして位置付けられるため、モチベーションの向上につながると考えられています。

新規事業の創出

出向起業は、既存の⼤企業の社内新規事業としては事業化に踏み切れない企画・案を、⼀時的に外部資本を活⽤し、事業化の実現につなげるための有効策の1つでもあります。

もともと⼤企業は、特有のガバナンスがあるために、新規事業の創出が難しいと考えられています。具体的にいうと、大企業には、「本業とのシナジーを求められる」「⾮常に⾼い売上⽬標を求められる」「確実性を求められる」といった既存事業の評価基準が採用されることが多く、新規事業案の事業化を阻害する要因となっているのです。

その点、出向起業の取り組みを導入すると、上記のような⼤企業のガバナンスに見られる欠点を低減した形で、新規事業の創出にチャレンジできます。

経営を担える優秀な人材の育成

出向起業を通じて、社員はスタートアップの事業立ち上げや経営などを経験することから、経営を担えるような優秀な人材の育成につなげられます。

起業したスタートアップで、社員自身が実⾏したい事業案をフルタイムで追求する機会は、座学の研修とは比較にならない大きな成長の機会になります。

会社のPR

出向起業は、既存の⼤企業の社員にとって、働き⽅の新たな選択肢の1つとして位置付けられます。

そのため、出向起業に社員を送り出すこと⾃体が、人材採⽤市場への前向きなメッセージとなり、新卒・中途採用活動における大きな訴求効果につながる可能性があります。

出向起業等創出支援事業の概要

出向起業等創出支援事業の概要

出向起業等創出支援事業とは、出向起業を図る人材と会社をサポートし、起業家の創出を後押しする事業のことです。

日本では多くの人材が大企業に集中しているものの、企業内でゼロの状態から新規事業に挑戦できる環境・機会が十分に確保されているとはいえません。加えて、近年はコロナ禍の影響により、大企業による新規事業へのリソース投下や大企業の人材個人による辞職起業が行いにくくなっている現状があります。

こうした状況を受けて、経済産業省では、「大企業人材等新規事業創造支援事業費補助金(中小企業新事業創出促進対策事業)」(令和元年度補正予算事業・令和3年度予算事業)を通じて、「出向起業等創出支援事業」に取り組んでいます。

目的

主な目的は、「出向起業」を行う事業者に対して新規事業に関する試作品開発等に伴う経費の一部を補助することで、大企業の経営資源の開放に資するエコシステムの構築を促し、新規事業に関する多様な経営人材を育成し、新規事業創造を促進することです。

公募時期

令和4年度の公募期間は、5月11日〜6月17日です。なお、公募の申請は、原則として法人登記が完了し、出向契約締結後に行うことが求められます。

補助金、補助経費

補助金の上限額は500万円〜1,000万円で、補助率は補助対象経費の2分の1です。

なお、既に設⽴されている⼤企業の⼦会社・ジョイントベンチャー・関連会社などを、マネジメントバイアウトを通じて、当該⼤企業の持分⽐率を20%未満に減少させ、当該⼤企業から資本独⽴したスタートアップに組み替える場合などは、補助率が3分の2、補助上限額が2,000万円となる見込みです。そのほか、ものづくり関係事業等に関しては、補助率は2分の1、補助上限額は1,000万円です。

また、補助経費は、試作・PoC等に関する外注費・委託費・材料費などです(出向者の⼈件費は、原則として所属の⼤企業が負担します)。

要件

主な要件は以下のとおりです。

  • 新規事業創造を行うために、大企業に所属する人材が、所属元企業以外の資本(経営者の個人資本含む)を80%以上活用して会社を設立すること(所属企業が保有する新会社の資本の比率が議決権ベースで20%未満であること)。
  • 大企業に所属する人材が、自ら設立した新会社への出向等によりフルタイムで経営者として新規事業創造に向けた実務に従事すること。
  • 設立した新会社および出向等により従事する経営者に対して、そのまま独立する、または所属企業へ戻る(買い戻される)計画・オプションが用意されていること。

出向起業等創出支援事業の詳細は、経済産業省作成の資料やHPをご確認ください。

参考:一般社団法人社会実装推進センター「概要説明資料」

まとめ

出向起業とは、社員が会社を辞めることなく事業を立ち上げ、出向という形で経営者として新会社で働くスタイルのことです。そして、出向起業を目指す人と企業をサポートし、起業家の創出を後押しする事業として、出向起業等創出支援事業があります。

出向起業の取り組みを導入すると、社員・企業の双方でさまざまなメリットが期待されます。その一方、デメリットを強いて挙げるとすれば、独立して起業するよりも自由度が低いことです。とはいえ、出向起業の導入は、デメリットよりもメリットの方が遥かに多いと考えられています。

出向起業の取り組みを導入する際は、出向起業等創出支援事業が有用です。補助金の申請にあたっては、該当年度の公募時期・補助金の額・補助経費・要件などを事前に確認しましょう。

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